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第十一話 Sランク大集合

「どうしてそのまま帰っちゃったんですか!?」


病院のベッドの上で上体を起こした麗奈が、櫻田に向かって勢いよくまくし立てた。魔力切れで倒れたとはいえ大事には至らず、今日中には退院できるらしい。櫻田はその見舞いのために、こうして病室を訪れている。


「悪い……」


櫻田は素直に頭を下げた。言い訳を探そうと思えばいくらでも出てくるが、それを口にしたところで麗奈の機嫌が直るとは思えないし、何より自分の判断が軽率だったことは否定できなかった。


「天内さんが連れてきてくれたから良かったですけど、そのまま放っておいて風でも引いたらどうするんですか! それに天内さんに寝顔を見られたなんて……ああああ!」


麗奈は掛け布団を握りしめたまま、ベッドの上で身をよじらせる。怒っているのか恥ずかしがっているのか判別しづらいが、おそらく両方なのだろうと櫻田は思った。


「……いや、本当に済まなかったって」


「今度なにか埋め合わせしてくださいね!」


「埋め合わせ?」


突然の要求に、櫻田はわずかに眉をひそめる。こういう時に何をすればいいのか、正直よく分からない。女性の趣味や嗜好に詳しいわけでもないし、下手なことを言えばさらに機嫌を損ねる可能性もある。


少し考えた末、櫻田は無難な落としどころを選んだ。


「その……新しい装備でも買ってやろうか?」


ハンターとして実用的で、なおかつ分かりやすく喜ばれそうな提案だった。


だが、こういう時欲しいのは服やアクセサリーであ――


「えっ!! 本当ですか!?」


麗奈の表情が一瞬で明るくなる。さっきまでの怒りはどこへやら、目を輝かせて身を乗り出してくる様子に、櫻田はわずかに肩の力を抜いた。

どうやら櫻田は運が良かったようだ。


(……まあいいか。どうせ余らせてるポイントだ。こういう形で使う方が、まだ意味がある)


櫻田にとって、装備に使うポイントはすでに過剰だった。今使っている装備以上のものを必要とする場面がほとんどなく、結果として使い道を失っていたのだ。


――コンコン


不意に病室のドアが叩かれる。


「どうぞ」


麗奈が声を返すと、ゆっくりとドアが開き、一人の男が姿を見せた。


「やあ、麗奈ちゃんに櫻田先輩」


「天内? 何でお前がここに?」


予想外の来訪者に、櫻田は思わず聞き返す。だが、それ以上に分かりやすく動揺したのは麗奈の方だった。


「どどどど、どうして天内さんが!?」


麗奈は慌てて布団を引き上げ、顔を隠すように被る。もっとも、完全に隠しきれているわけではなく、目だけがこちらを覗いているのだが。


「はは、少しタイミングが悪かったかな?」


「そ、そんなことありません! むしろ丁度良かった的な?的なじゃなくて…… あああああ!」


言葉が迷子になったまま、麗奈はそのまま布団にくるまり、完全に動かなくなった。


その様子を見て、天内は小さく笑い、櫻田の耳元で囁く。


「面白いね」


「……そうだな。それで、何の用だ?」


軽く息をつきながら、櫻田は本題を促す。


「今、Sランクハンターを集めてるんだ。すぐに来てほしい」


「……分かった」


短く答え、櫻田は踵を返す。


「麗奈、俺はもう行くから」


「約束、忘れないでくださいね!!」


布団の中から、少しくぐもった声が飛んでくる。


「ああ、覚えてたらな」


「忘れないでくださいって言ってるんです!!」


その抗議を背に受けながら、櫻田は病室を後にした。


***


協会の会議室に入った瞬間、視線が一斉にこちらへ向いた。


「櫻田、そろそろ新しい携帯を持て。連絡が取れなくて不便でしょうがない」


開口一番、荻野会長がため息混じりに言う。


「今度、装備を見に行く予定があるので、その時にでも」


「なるべく早くしろ」


有無を言わせない口調に、櫻田は小さく肩をすくめた。


「えー! 幸ちゃんスマホ持ってないの!? どうやって生きてんの?」


会議室の奥で足を組みながらスマホをいじっていた女――円城夕夏が、顔を上げて声を上げる。その軽い調子とは裏腹に、戦場では容赦のない判断を下すことで知られているSランクハンターだ。


「なくても別に困らないだろ」


「お前が困らなくても、周りが困るんだよ」


低く割って入った声に、空気がわずかに引き締まる。


「オレたちはSランクだ。出動の遅れは、そのまま被害に直結する。少しは自覚を持て」


そう言ったのは、大友和則。長年にわたり上位に居続ける実力者であり、その言葉には否応なく重みがあった。


櫻田は一瞬だけ言い返しかけたが、すぐに飲み込む。自分のせいで全員を待たせていたことは事実だった。


「……分かった。すぐに用意するよ」


「大友さんもそんなにカリカリしないの。 それで、誠ちゃんは?」


その問いに対し、誰もすぐには答えなかった。


一つだけ空いた席が、妙に目につく。


「おかしいわね。誠ちゃんなら、こういう時一番早く来るのに」


円城が首を傾げる。


「和田に連絡は取れないのか?」


大友が会長へ視線を向ける。


その問いに、荻野会長はすぐには答えなかった。


一度、ゆっくりと息を吐き――室内を見渡す。


誰も口を開かない。


沈黙が、わずかに重くなる。


その空気を確かめるようにしてから、会長は静かに告げた。


「……和田が逃げた」

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