双子で入れ替わったら告られたので……
【この小説は、香月よう子様主催企画、バレンタインの恋愛物語企画の参加作品です】
国立白熊総合学園。私と兄が通う高校だ。ちなみに兄とは同級生。つまりは双子。
「梓君……ずっと前から好きでした……っ!」
双子ならではの遊びというか、イタズラというか。髪型さえ弄ってしまえば私達は他人からはほぼ見分ける事が出来ないくらい似ている。流石に家族は騙せないが。
んで、本日もそのイタズラを決行していたのだが……時は昼休み、場所は屋上。
って、やばぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
冷や汗が止まらない、っていうか、え? 私の親友の瑠衣が私に……いや、兄に告ってきた!
どうしよう、なんて答えよう、っていうか声出したらバレる、私は声変わりしてないし!
「……梓君……これ……良かったら受け取ってください」
瑠衣が出してきたのは、可愛らしいパンダさん柄のラッピング。
うほぁぁぁぁぁ! 昨日まさに私の家で作ったチョコレートだぁぁあぁぁ! 兄にあげるつもりだったのか! 私はてっきり、家族のお土産にするつもりだと! だってお爺ちゃんが生チョコ大好きだからって言ってたじゃない、瑠衣ちゃん!
不味い、いや、チョコは美味しい筈。そういう不味いではなく、この状況がまずい。
どうする、どうする、声を出したら即バレ。だからと言ってこのまま黙ってても、瑠衣に不審に思われてしまう。もし私と兄が入れ替わってるとバレたら……
『んなっ! あんた何考えてんのよ! 絶交よ絶交!』
なんて瑠衣ちゃんに全力で嫌われてしまう! お互いの家でお泊り会開くくらいに仲いいのに! この友情は壊したくない! どうする!
「梓くん……困っちゃうよね……とりあえず、これ……食べてみて。菫と一緒に作ったの……」
そう、菫……つまりこの私! 私と一緒に作ったんだから、美味しいに決まってる。瑠衣ちゃんは料理オンチ……というか超が付く不器用。なので生チョコ作りを手伝っていたわけだが……。
っく、お爺ちゃんにあげる物だとばかり……。
「梓君……急にごめんね。じゃあ……」
そのまま背を向け走り去ってしまう瑠衣。ひとまず私の正体はバレなかったようだ。兄の制服が私の冷や汗でビッチャビチャになるくらいヤバかった。というか、今のこの状況を兄に知らせた方が……いいよな?
とりあえず兄へと、スマホのコミュニケーションアプリ『ルイン』で連絡。すぐに既読はついた。
『お兄ちゃん、大変だ、瑠衣から告られた!』
『え、お前も?』
……ん!?
『俺もさっき、咲川から告られてしまったんだが……お前、モテモテだな。お兄ちゃんは鼻が高い。ちなみにチョコは食べたからもう無い』
お前ぇ! 私が貰う筈だったチョコを!
いや、待て、咲川って……誰?
そのまま瑠衣から貰ったチョコの包装を開き、私と瑠衣の共同作業で作り上げた生チョコを一つ食べる。うむ、うまい。兄にはあげない。私へのチョコ食べたから。
『ごめん、お兄ちゃん、咲川って誰だっけ』
『知らんのか。お兄ちゃんの親友だ。っていうかお前と同じクラスだぞ』
兄も親友からコクられてたのか。というか私と同じクラスの咲川……。
もしかして……
『前髪が妙に長い、おとなしい子?』
『そうそう、お兄ちゃん、ドキドキしちゃった』
危うくBL路線に行くところだったのか。私もヤバかったけど。
というか存在感薄くて咲川君を忘れていた……ごめんよ、咲川君。
しかし接点そんなに無いよな。前に消しゴムを貸してもらったくらい……いや、体育祭で一緒に用具室に閉じ込められたくらい……いや、文化祭のロミジュリの演目でヒーローとヒロインを押し付けられて……
ってー! めちゃくちゃフラグ立ってるじゃん! なんで私、咲川君の事忘れてるんだ、酷い奴だ私!
いや、しかし言い訳を聞いてほしい。咲川君はマジで存在感が薄い。普段から大人しいし、声を聴かない日もあるくらいだし、下手をしたら視界に映っても認識出来ないくらいに薄い。
そんな彼が私に告白してきてくれた。なんだろう、すごく嬉しい。
嬉しいんだけど……恋愛感情があるか無いかと言われたら……ぶっちゃけ無い。
はぁ……どうしよう、っていうか咲川君のチョコ食べたかったな。もしかして手作りだったんだろうか……。
「ぁ、梓、ここに居たんだ……」
ん? って、ぎゃああぁぁぁぁああ! 咲川君!
「ちょっと話したい事があるんだけど……」
な、なにさぁ!
「……? どうしたの、なんか顔色悪い気が……」
ぶんぶん首を振って否定する私。もう冷や汗でまくって新陳代謝絶好調なので顔色もいいのです、たぶん。
「実は……菫さんに……その、告白してきた……」
うほぉぉぉぉっぉぉぉ! すまん、本当にすまん! 君が告白したのは私の兄の方なんだ!
そして菫さんはここに居るよ!
「ずっと……好きだったんだ。もう入学式の頃から……」
えっ、ええええええええ! そんな前から!
ちなみに私達は高校三年生。三年間、私は片思いされていたのか。
「まあ、返事は貰えなかったけど……」
そりゃあな。兄のハスキーボイスでOKなんて言われたら、咲川君は泣いてしまうかもしれない。
……OK? もし私が咲川君にコクられたら……OKって言うのか?
「ごめん、菫さんに申し訳ない事したかも……自分勝手にコクって……きっと今頃困ってるよね……」
別に? コクられたら……普通嬉しいだろ。
「あとでさ、フォローしてもらえると……嬉しいんだけど……頼めるかな……」
君がコクった兄は、君から貰ったチョコを完食してご満悦だぞ。
私も食べたかった。
「はぁぁぁ……」
なんだなんだ、ドデカ溜息ついて。
「僕にとっては……菫さん、高嶺の花だよね……きっと相手になんてされないよね……僕なんかが……」
「……なんで決めつけてるの」
つい、声を出してしまった。
その瞬間、咲川君は私の顔を凝視しながら……むむ、君普段前髪で顔隠してるけど……素顔はそんな顔してるのか。可愛いな、私好みの美少年じゃないか、勿体ない。
「うあぁぁああぁぁぁ!!!!!!!!」
物凄い勢いで後ずさりしていく咲川君。その辺に穴があったら潜り込んでいるだろう。きっと穴の中の子パンダと仲良くなれるに違いない。
「す、す、菫さん!? な、なんで……」
ウィッグを取って、纏めていた髪を下ろした。
そのままクイクイっと手招き。
「え、ちょ、え?」
「咲川君……口あけて」
「え、あの、え?」
瑠衣ちゃんごめんよ。でもほぼ私が作った物だし、また作る時手伝うから許してくれ。
咲川君の口へと生チョコをおしこんだ。
「ハッピーバレンタイン」
胸が高鳴る。今まで感じた事がないくらいに。
嬉しい、素直に嬉しい。こんなに嬉しいのか、告白されるのって。
とりあえず……今日私の家に拉致って、チョコを作ってもらおう。
そしてもう一度、ちゃんと告ってもらおう。
私の答えは、もう決まっているけど。
※兄も全く同じ状況に遭遇してました。そのあと瑠衣ちゃんにド叱られた。