王の間で。エリュグランド王と季節の王女たち
エリュグランドの王の間。
ここ謁見の広間に、季節の王女たち3人が王のもとに集まっていた。
皆、深刻そうな顔をして、父親であるエリュグランド王の見つめている。
「うーむ、皆、パールはどうしたのだろうか」
困り切った表情で、エリュグランド王がため息をついた。
「あんな優しい娘が冬を長引かせ、人々を苦しめているとは。なぜそんなことが起こっているのか、私にはさっぱりわからん」
王女たちも困った顔をして互いを見つめあいました。
「やっぱりばぁやがいなくて、思いつめてしまったのかしら。ばぁやが塔に帰ってきたら、パールも塔を降りてくれるかもしれないわね」次女である秋の王女ルチルが考え込むように言いました。
「そうね、でもばぁやは病床の身。無理はさせられないわ」
眉をひそめ、そう言ったのは、長女の夏の王女フローラだ。
「そうだ!塔の周りにパール姉さんが好きなスイーツを沢山並べるの!姉さんが欲しそうに塔の窓から顔を出したら、みんなで引っ張って塔から出しちゃうってどうかなぁ」
無邪気に言い放つ末っ子の春の王女メルリ。
「そんな簡単にパールが顔を出したところを引っ張れる訳ないでしょ。食いしん坊のメルリだったらその作戦は成功しそうだけれどねぇ」
ぷぅっと頬を膨らませたメルリだったが、ちょっと拗ねたようすで口をとがらせると、
「だって他にいい方法浮かばなかったんだもの。早く寒い冬を終わらせて、春を呼びたいの。このままじゃ人も動物も植物も、みんなみんな、かわいそう」
それは皆が同じ思いだった。
王の間で、一同が沈んでいると……。
「そうじゃ、メリルのいう通りじゃわい。このままではエリュグランドは雪を通り越して氷に国になっていまうことじゃろう」
一同は、はっとした表情で声のする方を見た。
王の間に入ってきたのは、モスグリーンのゆったりとしたローブを纏った一人の杖をついた老人。
「なんとかせねばなるまいなぁ、皆で『力を合わせて』」
「おじいさまっ!!!」
季節の王女たちは、嬉しそうな声をあげて老人に駆け寄った。
3人の姉妹たちは、老人を囲むとハグをしたりキスをしたり、とにかく大変な歓迎ぶりだ。
おじいさまと呼ばれた老人が3人の王女たちにどれほど愛されているか、よくわかる光景だった。
エルグランド王も、老人の方へゆっくりと歩いていき、深々とおじぎをした。
「ようこそルカンド王。大変お久しぶりです。お元気そうで。何よりです」
「うむ、ひさしゅうのぅ。できるだけこの国には干渉しないと決めてはいたのだがなぁ、可愛い孫娘が苦境に立たされているこの状況でじっとはしていられまいて」
ルカンド王と呼ばれた老人は、豊かに蓄えたまっしろな顎ヒゲを撫でながら、頷いた。
「実はのぅ、わしはパールが何故塔から降りてこないのか、訳を知っているのじゃ」
その場にいた一同は驚いて、ルカンド王を見つめた。
「この一件に、忘れられた森の魔女が関与してるんじゃ」
「えっ、森の魔女が?」
エリュグランド王が声をあげた。
「どういうことでしょう、あの魔女がまた」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。実はわしも事の発端に、多少関与しておるのじゃ」
「まぁ!おじいさま!それはどういうことでしょう?」
「話せば長くなるがのぅ、うむ、要約すると、パールはわしがハンナの代わりにと雪の精霊を王子に変えて、季節の塔に送ったのじゃ。少しでもパールの寂しさが癒されるように」
「氷の王子!素敵!私にも王子を贈ってちょうだい、おじいさま!」メリルが叫んだ。
「これこれ、何を言いだすのじゃ。本来王子などは自分で探すものじゃ。季節の中でも冬を担当するパールの精神的負担は前から大きいとわしも感じてた。それはお主たちも知っておろう。
その場の季節の王女たちも、悲しそうに俯いた。
「そうですね、冬はどんな生き物にとっても厳しい季節。命が脅かされる危険のある季節ですもの。それを呼ばねばならないパールは、いつも悲しそうだったわ」
長女である夏の王女フローラが悲しそうにつぶやいた。
「うむ。今年は支えでもあったハンナが病で伏し、塔にはパールだけ。どれほどの孤独かと思ってのぅ。季節の塔と繋がっている魔法の水晶で塔を見ていたら、パールを気遣う氷の精霊がおってな。それは健気に塔のまわりを飛びながら、王女を元気づけようとしていたが、パールは全然気が付かなったようじゃが。それでわしはその精霊に魔法をかけ、王子にして塔のバルコニーに送ったのじゃ。ひとりで寂しかった王女は喜んで王子を迎え入れた。塔には人間は入れないが、精霊は入れるからのぅ」
「王子と二人で冬を過ごしたのね、すごいわ!今度パールにどんな生活だったか聞かなくちゃ!」
メリルがはしゃぐのをフローラが長女らしく制した。
「それでおじいさま、王子がそばにいるので、パールは降りてこないのですか?」
「いや、それがのぅ。今王子は塔にはいないのじゃ。忘れられた森の魔女に捕らわれてしまってのぅ」
「なぜそんなことに!?」
「わしもわからんが、王子が帰らないため、パールは降りてこれないようじゃの。もし春が来たら王子は溶けて妖精界に帰ってしまうからの」
「もう、パールったら!そんなの我儘じゃないの!」
秋の王女ルチルが叫ぶ。
「まぁそう怒るな。恋する乙女な我儘なもんじゃ。とにかく、忘れられた森の魔女から王子を救い出し、パールのもとに帰すのじゃ。別れを惜しむ時間ぐらいは与えてやりたい。そこで、今日は季節の王女、おまえたちの力を借りようと思っての」
「私たちの力?」
「もちろん、協力するわ!おじいさま、どうすればいいの?」
「ありがとう。そう言って貰えると思っとったぞ」
そういうと、ルカンド王は王女たちになにやら話し始めようと皆を手招きした。
王女たちが、ルカンド王に近寄り耳を傾けたとき、王の間を守る兵士の声が、重厚なドアの向こうから聞こえてきた。
「失礼致します、王よ!急ぎの知らせでございます!」
緊張を孕んだ兵士の声にただならぬ気配を感じて、一同は顔を見合わせた。
「うむ、はいりなさい!いったいどうしたのだ!」
大きなドアが開き、一人の兵士が王や王女の前にひざまづき、こう告げた。
「はい。たった今、クリーナの村から使いの者が訪れまして、パール様のお付きのばぁやであるハンナが息を引き取ったそうです」
「ああ、ハンナ。遅かったか」ルカンド王が悲しそうにため息をついた。
「まぁ、どうしましょう、パールが聞いたらどんなに悲しむか」
王女たちも沈痛な面持ちで顔を見合わせた。
城の外ではしんしんと雪が降り積もっていた。
その雪は止む気配もなく、エリュグランド全土を白く染めていくのだった。




