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暇つぶしの図書館で、誰かの残した童話をなんとなく読んでみた  作者: あまむら ちとせ


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孤独な塔で、王女は祈りながら待っていました

 さて。


 エリュグランドが、季節の王女の交代がされず、不幸にも冬が長引く数か月前。

 今、塔に立てこもって出てこない冬の王女パールは、どのような様子だったでしょうか。


 そっと覗いてみましょう。


 それは冬のパール王女が、秋を司る姉であるルチル王女と塔の主を交代し、エリュグランドは次第に秋から冬へと、いつもと変わらない季節の変化がありました。

 エリュグランドに、冬が訪れたのです。

 

 ただひとつ、違う点がありました。

 それは、王女たちをいつも見守る塔での世話係、ばあやのハンナが塔にいないことでした。




「それで、ばぁやの具合はどうなの?いつ頃この塔に戻れそうかしら?」

 心配そうな声で尋ねたのは、扉の向こうにいる王女様でした。

お尋ねられたのは、城から派遣された兵士です。

 塔は王女と世話係の一人しか入れない決まりです。

 兵士は扉越しに王女と話してます。


 扉の外の兵士は困った様子で、王女に返事をしました。

「王女様。世話係のばぁやはあまり良い具合ではないそうです。王様が、新しい世話係を使いに出すとの事で、今日はそのご報告に参りました」

「そうなの…。いいえ、新しい世話係はいりません。身の回りのことは自分で出来ます。ばぁやが帰ってくるのを待ちますから、お父様にそうお伝えくださいね」

「はぁ…しかし、お言葉ですが王女様、ばぁやはいつ帰ってくるかわかりませんよ。もしかしたら、帰ってくることは難しいかもしれません…」

「そんなことはないわ。ばぁやはきっと帰ってきます。それがひと月かふた月でも、私は待ちます。きっと春までには元気になって、またばぁやに会えるわ。新しいお世話係はいりません。身の回りのことは全部自分で出来ますから。お父様にそう伝えて。よろしくお願いね」

「はい、王女さまがそこまで言うなら…王様にはそうお伝えしましょう」


 そう言って、兵士は扉の前で一礼すると、雪の降る中、城に帰って行きました。


 王女は塔の中の、暖炉のある温かい居間に戻ると、そっと椅子に座りました。

 暖炉の中のたき火が、ときどきパキリ、と小さな音を立ててます。

 この暖炉は、いつもばぁやが、王女が寒くないようにと、火を絶やしたことがありませんでした。

 そんな優しいばぁやも、今はここにはいません。

 すっかり年老いたばぁやは、体調を崩してしまい、息子夫婦の家に療養に帰ってしまったのです。

 王女は心細い思いをしながらも、じっと塔でただ一人、ばぁやが帰るのを心待ちにしているのでした。

 


 この塔は、エリュグランドで一番美しい建物です。

 

 人々はこの建物を『季節の塔』と呼んでいました。

 平和な国は、王様と、その娘である4人の王女がおさめています。

 4人の王女は、春、夏、秋、冬の4つの四季を司る精霊たちの女王でもありました。

 この王女が季節の塔にとどまる時、妖精の国から季節の精霊たちがやってきてエリュグランドを駆け抜けると、国に散らばる季節の妖精たちが活発に動き始めるのです。


 春の王女メルリが塔に登れば、春の精霊たちが山や川を飛び回り、春が訪れます。

 

 夏の王女フローラが登れば、夏の精霊たちが大地を走り、夏が訪れました。

 

 秋の王女ルチルが登れば、秋の精霊が木々の合間を駆け抜けて、秋が訪れました。


 冬の王女パールが登れば、冬の精霊たちが氷をまとったドレスで踊り、国は雪に包まれるのです。


 そして、今、季節は冬です。

 季節の塔には冬の王女パールが滞在していました。

 冬の精霊たちは、軽やかに空を舞い、冷たい白い雪を大地に振りまいてました。


 この季節の塔は祈りの塔でもあり、王女たちが祈ることで妖精の国から季節の精霊を呼ぶことが出来ました。

 神聖な塔は、王女以外の人間が存在することを良しとしません。

 なので、王女以外には、たったひとりの世話係だけが、この塔に住んでいるのでした。


 塔の外では、朝からしんしんと白い雪が降り続いてます。

 暖炉の火がときどき音をたてる以外は、とても静かな夜です。

 ばぁやがいない今、塔の中は冬の王女さま一人でした。

 王女は、薪をそっと暖炉にくべて、そっと椅子に座り、じっとその炎を見つめています。

 ばぁやのいない夜は、なんて心細いのでしょうか。

 王女は、大好きなばぁやに早く帰ってきて欲しいと思っていました。

 元気になって、すぐに帰ってくると思っていたばぁやでしたが、1週間がたち、2週間がたち、いつまで待ってもばぁやは帰ってきません。

 

 ばぁやの様子を見に行きたくても、冬の王女はこの季節は塔の外へ出ることはできません。

 もし、外にでてしまったら、冬の精霊たちはすぐに妖精の国に帰ってしまうでしょう。

 一度帰った精霊は、また来年にならないと訪れてはくれません。

 冬の王女さまは、冬が終わるまでは、塔に留まるしかありませんでした。 

 王女は、ばぁやが心配なのと、もしかしたら、もう帰ってこれないかもしれないという不安、悲しみでいっぱいでした。


 王女は暖かな居間から出ると、精霊たちが立ち上る塔の中央の部屋に移動しました。

 ここは精霊たちが住む妖精の国と、この国を繋いでいる神聖な入口がある場所です。

 季節の精霊たちは、この金色の光が溢れ出るこの穴から、絶え間なくこの世界に流れてきます。

 くるくるとまわりながら、楽しそうにダンスをしながら塔のてっぺんからエリュグランドを旅しに行くのです。

 

 冬の精霊たちは寒い寒い冬を、ここエリュグランドに呼び寄せていました。

 それはエリュグランドに住む生き物たちにとっても、厳しい時期でした。

 パールはたった一人、この塔で待っていました。

 子供のころから、母の代わりにそばにいてくれた、優しいばぁやを。


 

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