◇ 図書館のパソコンに見知らぬ誰かが書いた童話を見つけた。
暑さをしのぐ為にいつも行っている図書館のパソコンに、誰が書いた童話が少しずつUPされていきます。読んでいるのは自分だけかも?なんとなく毎日ドキドキしながら図書館を訪れる主人公のひそかな楽しみです。
夏の図書館は、エアコンがガンガン効いてて過ごしやすい。
私は、なかなか涼しくならない古いエアコンがある自分の部屋にいるのが辛くて、夏休みはいつも近所にある図書館で過ごしていた。
ここ数年は温暖化のせいか、とにかく死ねるほどの熱量で外を歩くのもつらい。
私は遅い朝食を食べ終えると、すぐに家を出た。
あまりの暑さに元気をなくした街路樹の陰を歩き、いつもの図書館へ向かった。
この図書館には、大人が本を読むスペースと、学生が勉強できる机が並ぶ部屋、ちいさな子供たちが絵本などを読むための広間と来館者が居られる場所がいくつもあるが、私のお気に入りは図書館の二階にある長机が並ぶ小さな部屋だった。
ここは人が少なくて、持ってきたノートパソコンやタブレットを使って読書や作業ができる。
パソコンも数台備え付けられていて、自由につかえるのだ。
ここにはいつもあまり人がいない。
椅子の数は30個ほど並んでいるが、今日いるのは5人だった。
私はいつも気に入って座っている一番後ろの右の椅子に座った。
ここにはパソコンが設置されている。
私はいつもこの席が空いている時は陣取ってネットを眺めたり、図書館の本を読んだりして暇をつぶしているのだ。
いつも通り電源をいれて、ぼんやりと画面を眺めていた。
古いパソコンなのでタッチパネルではない。マウスを動かしてネットを始めようとすると、いつもとは違う画面になった。
見慣れないショートカットが画面の端に表示されている。
私はなんとなくこれをクリックしてみると、画面が開いた。
どうやら文章を書くためのフリー素材のソフトであるらしかった。
ファイルは一つだけ。
◇SCENE 1
とだけ書かれていた。
誰かが書いた文章なのかな。
何が書いているだろう。こんな誰でも見られるところにファイルを残して。
そんなことを思いつつも、興味に駆られてクリックしてみた。
開いてみると、誰かが書いた創作の文章だった。
私はちょっと悪いかなぁと思いつつ、その文章を読んでみることにした。
◇SCENE 1
冬の王女のお話。
これは沢山の妖精たちが集う国、「エリュグランド」の話です。
エリュグランドは四季豊かな、妖精たちの国でした。
エリュグランドの中央に位置する湖、ティゼール湖には、水の上に浮かぶ季節の塔がありました。
エリュグランドの季節の塔は、それはそれは大切な役目がありました。
塔の中央にある王座に、季節をつかさどる王女が鎮座すると、妖精たちの世界とつながる魔法の扉から季節の妖精たちが溢れ出て、エリュグランドに四季を呼び寄せました。
季節の塔と、4人の王女たちが、規則正しく巡る季節を統一していたのです。
春には、春の王女、メルリが。夏には夏の王女フローラが。秋には秋の王女ルチルが。冬には冬の王女、パールが、その季節には塔に住まい、エリュグランドの季節を統一していたのでした。
平和に暮らしていたエリュグランドにある事件が起こりました。
毎年、季節の変わり目には季節の王女たちがそれぞれの季節が訪れる前に、次の季節の姉妹の王女と交代するのが習わしでした。
しかし、その年。
春が訪れようとしているのに、冬の王女が塔から降りてこないのです。
王女の姉妹や、王女たちの父親である国王が再三促しても、王女は悲しい顔をして首をふると、塔の窓の扉を閉めてしまい、いつまで経っても塔から出ようとしません。
お陰でその年のエリュグランドには、春が訪れず、寒くて厳しい冬が長引くことになりました。
人々は震えながら、春を待つしかありませんでした。
国王は困り果てた末、国におふれを出しました。
冬の王女を塔から連れ出した者に褒美を与える。
それを聞いた人々は、こぞって季節の塔を訪れ、何とか冬の王女を塔から連れ出そうとしましたが、どれも失敗に終わったのでした。
と、ここまでしか書かれてなかった。
どうやらこの話はファンタジーというよりは、童話のようだ。
季節の塔から、季節が変わろうとしているのに駄々をこねた冬の王女が塔に立てこもっていて、人々が寒い冬に迷惑しているらしい。
なんという我儘な王女なのだろう。
毎日暑い思いをしてる私からすると羨ましい話ではあるが、冬にこんな話は寒そうで読みたくないだろうな。
ここまでしか書かれていないということは、これから続くのか、はたまた案だけで終わるのか。
気になるところだけれど、残念ながらファイルはひとつしかないので先を読むことはできない。
前日、ここに座った人が書いていったのだろうか?
私は昨日は夕方までここに座って漫画を読んでいたので、夕方以降、訪れた人なのかもしれない。
そのうち、この続きが読めることがあるかもしれない。
この席が空いているときに、また覗いてみよう。
果たして続きは書かれるのだろうか。
一日坊主で終わるのか…
暇なとき 覗いてみよう!