第19回 食べ物のトラウマ
突然悲哀と恐怖を漂わせ始めたエッセイもどき第19回です。
そんなにホラーな内容でもなく、命に関わるやつでもないので安心して読んでください。
トラウマ。誰にでも何かしらあるものです。
どれくらい覚えているか、どれくらい恐怖を覚えるかは内容によって異なると思いますが、ろくでもないものであることは確かでしょう。
で、食べ物の場合は割と強烈に残ると思うんです。
というのも食べ物は実物(実存する物体っていうのかしら?)なので、それを目の前にするとトラウマは否応なく呼び起こされるわけです。トラウマの相手が人間なら二度と会わなければ被害を少なからず抑えられるでしょう、場所であれば行かなければ同様。
しかし食べ物は人生に欠かせない存在。そして自分の意思でコントロールできない場合が多々あります。冠婚葬祭に関する食事、仕事や人間関係の付き合いで行く食事、全容を細かく把握できないコース料理、存在を見落としていてうっかり出会ったあの食材。うむ、実にありそうな罠。
食べ物は調理方法で姿を変えるものですが、調理される前の食材そのものにトラウマを覚えてしまった場合、どんな姿で遭遇しようがトラウマは呼び起こされます。これも厄介。
というわけで食べ物のトラウマが一際恐ろしいと思う私の気持ちを理解いただけましたでしょうか。では実例の紹介です。
まずは大葉。えっ、大葉?と思われそうですね。でも間違ってないです。
大葉はどの調理方法で出てきてもアウトです。無理です。
その発端は小学校低学年の頃、自宅で何故か天ぷらを揚げて夕飯にするという謎のイベントがありました。なんで自宅にそんな器具が揃っとるんやと昔の私は謎に思いました。
しかしまあ具材は野菜ばっかりでして、キッズが好きそうな海老とか魚とか肉とかはなかったのです。(肉はそもそも一般的に天ぷらにならない。)
お年頃の私は野菜なぞ食べとうないわと反旗を翻し、でも何も食べないとお腹が空いたままなので仕方なく一番食べやすそうな大葉の天ぷらをばくばく食べました。それがいけなかった。
大葉の天ぷらを5個ほど食べたあたりで猛烈な気持ち悪さと吐き気に襲われ、身悶えながら呻き続ける羽目になったのです。恐らく天ぷらの衣を大量摂取しすぎたせいで油も摂り過ぎたのでしょう。正直めちゃくちゃしんどかった。まあご家庭メイドの天ぷらなので油がうまく切れてなかったり、そもそも油が天ぷら向きじゃなかったりとか色々あったのでしょう。
それをきっかけに私は大葉がトラウマになり、以来どんな調理方法で出てきても大葉を見た瞬間「ウッ」と拒否反応を示すようになりました。食べろと言われれば我慢して食べますけど……
若さゆえの過ち、の一言では片付けられない悲劇として今もなお私を苦しめているのです。おのれ大葉、というかむしろ自宅で天ぷらをやり始めた両親に責任を問うべきでは?(逆ギレ)
続いてユッケです。
これはもう理由は明白ですよね。腹を壊しました。
確かユッケを食べたのは近隣在住の知人と夕飯に行った時で、当時大学生にして滅多に飲み会など行かなかった私は珍しくも居酒屋に入り、「ほえー、大人の飲み屋ってこんな感じなのかー」と初心者オーラ全開できょろきょろ辺りを見回しながらご飯を食べていました。酒は飲めん。
そこで人が頼んで出てきたのがユッケで、あまり見ないものでしたので興味本位で深く考えずに箸を伸ばし、うめえなーなどと呑気に食しておりました。その日は大丈夫だったんですけどね。
問題は翌日。強烈な腹痛に襲われて最寄りの内科に駆け込み、診断は食中毒。
それだけならまだ良かったんですけどね。その2日後に大事な予定が控えており、「頼む明日までに治ってくれ……じゃないと予定があ……」と祈りながらベッドで悶えました。あまりのプレッシャーと恐怖にストレスを感じまくったのを覚えています。これ以上胃を苦しめないで!!
それ以降ユッケは完全にダメです。姿を見るだけで本能が拒否反応を示します。
飲み会で行った居酒屋のメニューでユッケを時々見るんですが、「こいつあやべえ……地獄への招待状じゃねえか……」と恐れおののいてその文字列を視界から外しています。
とまあ大きいトラウマはこの2つですね。
他にも細かいところで苦手な食材とか料理はあるんですが、大きな被害とまではいかないので。
いかんせんこの先の人生が何年続くかわからない時代。トラウマはこれ以上増やしたくないところです。そのためにも節度をわきまえた食事と安全のための衛生知識! これは忘れずに生きていきたいと改めて思いました。
ではまた。




