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極道に女は要らぬ

 長五郎が4年生になったある日の事・・・

「あにき!おはようございます!」

「ん、おはよう、それじゃ行こうか辰」

「へい!」

俺の後をぴょこぴょこと付いてくる毬栗頭の鼻タレ3年坊主はうちの組の代貸の正さんの息子で辰治という

甲斐甲斐しく俺について回って既に舎弟気取り、正さんは親の背中を見ないで若の背中を追いかけてるなんて苦笑いしていたが俺は悪い気どころから正直ちょっと気分が良かった。

「長ちゃーーーーん!待ってーーーーー!!」

「あ!冴子のあねご!」

俺の名を呼びながらこっちに向かっておさげ髪の娘が走ってくる

名前を二階堂冴子といいどういうわけだかずっと同じクラスで腐れ縁という奴だ

美人で頭も良くて勉強もできるが気が強いしおせっかいなのがうっとおしい・・・

この女も俺のあとを始終付いて回って小っ恥ずかしいったらありゃしない・・・

「冴子おめぇ、恥ずかしいから大声だすんじゃねえ!女のくせにもそっとお淑やかにできねえのか」

「もぅ!またそんなこと言って・・・長ちゃんがあたしの事置いてけぼりにするから悪いんでしょ!」

「そうだよあにき!女の子に優しくしないといけないってうちのかーちゃんもいってるよ!」

「そうよ!そうよ!たっちゃんは優しいなぁ~・・・長ちゃんも男ならもっとレディに優しくしないとだめよ?」

年中こんなやり取りをしてるが全くこいつらも飽きないものだ・・・俺もだけど

「チッ・・・なにがレディだごじゃっぺが!侠客に女なんか必要ねえんだぃ!」

「でも長ちゃんのお父さんだってお母さんと結婚したんでしょ?」

「そ、そりゃあそうだけどよぉ・・・屁理屈言うねぃ!こいつめ!」

冴子の額にピン!とデコピンを放った

「あー!いった~い!長ちゃんのバカ!」

「全くこんなの相手にしてられねぇや、おい辰!ガッコまで競争だ!よーいドン!」

「あ!あにき~!置いてかないでよ~!」

女と仲良く歩いて登校なんて小っ恥ずかしいのは俺の性にあわないので思わず駆け出してしまった

後ろの方で冴子がギャーギャー騒いでるがほっとこう


ダダダッと通い慣れた道を駆けて抜けていくと辰治が遅れて追いついた

なんとか俺に付いてきたようだった、ぜえぜえと肩で息をしている

「ふふん、このくらいで息が上がってるんじゃ修行がたりないぞ辰」

「ひぃひぃ・・・あ、あにきはなにやってもすごいからオイラじゃ勝てないよ・・・あーつかれた」

どかっとその場に辰治が座り込むと俺は冴子の姿が見えないのに気づいた

「なんだ冴子のやつまだこないのかトロくせぇやつだ」

「あにきが迎えにいってあげたら?」

「バカッ!んなことできるか!・・・ほら、教室いくぞいつまで座ってんだ」

グイッと辰治の腕を引いて校舎へむかった

「それじゃああにき、また後で」

「おう、しっかりやれよ」

下駄箱に外履きを入れながら辰治はしばしの別れを告げた

上履きを履いて教室に向かいドアをあけて室内をぐるっと見渡すとまだ半分ほどしか登校していないようだった

するとクラスメイトの一人がこちらに気づいた

「あ!筑波、今日は二階堂と一緒じゃないの?」

「まあな」

「彼女置いていくなよー」

「バカッ!そんなんじゃねえや!」

こういう冷やかしをしょっちゅう言われるので俺はどうも冴子がちょっぴり苦手だ

「よう、まだ時間もあるしビー玉でも弾くかい?」

「いや、俺宿題やってくるの忘れたからそれやらないといけないんだよね・・・」

「チッ、付き合い悪ぃな」

仕方なく席について持参した本を読んでいるとクラスメイトの女どもが声をかけてきた

「ねー筑波くん、冴子一緒じゃないの?」

「一緒じゃねえ」

「ふーん、もうそろそろ来てもいいころなんだけど遅いね」

ふと時計を見ると確かに遅い、あの後歩いて来たとしてもとっくについてる時間だ

冴子に限ってサボるなんてこともしないだろうしガラにもなくちょっと心配になった

「ねー筑波くん、冴子迎えに行ってあげたら?」

「なんで俺が!」

「だって・・・ねぇ?」

意味ありげな顔で女どもはニヤニヤしながらお互いを見ていた

「チッ・・・つきあってられねぇや」

俺は逃げるように席をたった

「どこいくのー?もうすぐ先生くるよ!」

「便所だよ!べ・ん・じょ!」

そういいつつも俺の足は下駄箱へ向かっていた冴子が気になっていたからだ

始業時間も差し迫ったこの時間は下駄箱付近はしーんと静まり返っていた

ふと冴子の上履きがはいってるとこをみるとやはりまだ来ていないようだった

「ったく・・・世話の焼ける女だ」

悪態をつきながらも俺の足は外へ向かっていき小走りで校門を飛び出していった

通学路を遡っていくと今は使われてない古い倉庫のほうで狂ったように吠える野良犬の声が聞こえた・・・嫌な予感がした

倉庫の裏手に回ると泣きべそかいて腰を抜かしてる冴子がいた

周りに大人はいない・・・助けを呼ぶ暇もない・・・ここは俺がやらないと

俺が行かなきゃ男が廃る

「ワンワンワン!!!!」

「いやあああああ!!!こないでぇええええ!!!!」

俺は犬と冴子の間に割ってはいった

「冴子!!!」

「ちょ、長ちゃん!」

「冴子!俺の裏に隠れてろよ!てめぇこのクソ犬!!!どしょっ骨引っこ抜くぞこんちくしょう!!」

俺は野良犬に食ってかかる、犬の土手っ腹を思い切り蹴り上げると犬が腕に食らいついてきた

「長ちゃん!!!!」

冴子が悲鳴のような声をあげた

犬の牙は腕に深々と食い込んでいたが頭がカーっときていてちっとも痛くなかった

食らいついて動かない犬の鼻っ柱を足元に落ちていたブロック片をもったもう片方の手で思い切り殴りつけた

「てめぇこの野郎!くたばりやがれ!!」

ゴンッ!ゴンッ!

「キャン!」

という声をだして犬は鼻血をだして尻尾を巻いて逃げていった

「どうでぇ馬鹿犬が!筑波長五郎を舐めるんじゃねえや!・・・冴子!大丈夫か!?」

そういって後ろを振り返ると顔をぐしゃぐしゃにしてその場にへたりこんだ冴子がメソメソと泣いていた

「ごめんね・・・長ちゃん・・・ごめんね・・・ううっ・・・」

「馬鹿ッ!・・・オメェが謝ることがあるかよ、侠客はよおめぇみたいなのを見捨てられねぇんだ」

「でも長ちゃん私のせいで・・・こんなに血が・・・」

「このくらいどうってことねえよ、おめえのほうは大丈夫か?」

「うん・・・大丈夫・・・ありがとね」

「ほら、立てるか?もう大分遅刻しちまったな・・・」

冴子の手を引いて立たせると冴子が怪我した俺の手を取った

「保健室の先生に見てもらおうね?あたし今はハンカチしかないからこれ巻いてあげる・・・」

女の子モノの可愛らしいハンカチを取り出すと震える手で巻いてくれた

カッとなった頭が冷えてジワジワと痛みだしたのもなんだかちょっぴり痛みが和らぐ気がする

「さてと、二人揃って怒られるとするか」

「うん・・・二人で怒られようね・・・あのね長ちゃん」

「んだよ」

本日2度目の登校をしようと学校への道を並んで歩いていると冴子が神妙な顔をしながらこっちを向いた

「あたしね・・・長ちゃんがきっと助けてくれるって思ってたの」

「バカタレ・・・たまたまだよたまたま」

「ううん・・・長ちゃんのこと信じてたから・・・あたしね・・・長ちゃんの事好き」

突拍子もないことを言われて思わず赤面してしまった

「な、な、な、何いってんでぇ藪から棒に・・・冗談いうなぃ!」

「冗談じゃないよ?・・・長ちゃんが立派な親分になったらあたしのことお嫁さんにしてくれる?」

頭も顔もまたカーっと熱くなった、冴子が変なことをいうからなんだか冴子が急に愛おしくみえる

「な、何言ってやんでぇ!・・・極道に女は必要ねぇ・・・ねぇけど・・・」

「けど?」

不安げな顔で冴子は俺の真っ赤になった顔を覗き込んだ

「その・・・なんだ・・・ま、まあ考えといてやる・・・」

どぎまぎしながらそういうとさっきまで泣きべそかいてた冴子の顔がパァっと明るくなった

「うん!あたしずっと待ってるからね!長ちゃん大好き!」

冴子は嬉しそうに俺の腕にすがりついた

「いてててて!ドジ!そこァ噛まれた所だ!」

「あっ!いっけなーい!ごめんごめん!」

と言いつつ手はギュッと握って話さなかった冴子だった・・・

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