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英雄は料理を運ぶ  作者: ネコ軍団
第5章 赤い霧の主

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第25話 再度の出前

「てめえら! 何を見てやがる!」


 マーティンは思わず叫び立ち上がって腰のスノーホワイトに手をかけた。橋の上に立つ人々はジッと彼を…… いや彼の子供ルルとロロをジッと見つめ続けていた。橋に立つマーティンの足元でルルとロロは泣いてる。


「ごめんな……」


 ルルとロロはマーティンの叫び声に驚いてビクッと震えた。彼はしゃがんでルルとロロをギュッと抱きしめた。


「大丈夫…… ミアはきっと無事だ」

「「うん……」」


 二人はマーティンにしがみつき、また静かに泣きだした。マーティンは二人の背中をさする……


「マーティン…… 今日はうちにおいで一人じゃ大変だろう」


 スフレがそっと近づきマーティンの肩に手をかけて話しかけてくる。彼の腕の中にいるルルとロロはまだ泣いてる……


「ありがとう。今日は世話になるよ」

「じゃあ行こうか」

「「わっわっ!?」」

「おっおい…… もう……」


 グイっとスフレが両腕を伸ばし、ルルとロロをマーティンからかっさらった。ルルとロロをスフレは、一人ずつ両腕に乗せて抱えた。昔からよくこの格好で彼女の腕に乗って散歩していた二人は、怖がる様子もなく笑顔を見せる。


「なんか。今日のスフレかっこいい……」

「うん。勇者様みたい」

「ははっ。だろう? ほらクグロフもいつもと違ってかっこいいだろ?」


 背筋を伸ばし右手を曲げ胸の上に置き、ドヤ顔でクグロフはポーズを決めた。


「こら…… もう…… クグロフのこともほめてやれよ……」


 ルルとロロはポーズを決めるクグロフを見て微妙な顔をした。スフレは二人の顔を見て楽しそうに笑っていた。いつもと同じように振る舞う、スフレ達に二人は少しずつ元気になっていきその姿を見たマーティンは心の中でスフレ達に感謝する。


「みんな。帰るよ」


 マーティン達は家に帰ろうとイバルツの町へと向かう。だが、彼らの前でロバーツが立ちはだかった。


「待ってください。マーティンさん! 少し話しを……」

「ダメだ。あんたも妹をさらわれて焦るのはわかるが、今日はそっとしておいておくれ。話があるなら明日にしな」


 冷静な口調でスフレが諭すようにロバーツに話しをする。


「はっはい…… 申し訳ありません」


 ロバーツはあっさりと引き下がり俺達の前から引き下がった。


「悪いな。お前も辛いだろうに……」


 ロバーツの横を通り過ぎたマーティンは彼の肩に手を置いて声をかけ”竜の髭”へと戻るのであった。

 翌日…… 疲れていたせいか普段よりも遅く、日が高くなった頃にマーティンは目を覚ました。いつもは客でにぎわう店内で、ルルとロロとミルフィは三人が静かに遊んでいた。マーティンは三人から少し離れた入り口に近い席に座って様子を見ていた。ルルとロロの二人は少し大人しいが、ミルフィも遊び相手になってくれて、少し気が紛れているようだ。


「期限は明日の十二時か…… ミアと子供…‥ ルルとロロとアイッテに渡せばミアは助かる…… でも、そうなったらきっとルルとロロは二度と…… ミア…… ごめんな。俺は…… どうしたら……」


 三人が遊ぶ姿を見つめてつぶやくマーティンだった。ミアの為に子供を差し出すことはできない、かといって彼女を見捨てることはできない。昨日からずっと考えがまとまらないで気持ちばかりが焦る。


「スフレ。ちょっと出かけてくる」

「あぁ。よろしくね」


 日が傾き出した頃、クグロフがスフレに声をかけて出かけていった。夕飯の材料を買いに行ったようだ。


「なんだ!? 今日は営業してないぞ」


 クグロフが出て言ってから、数分で店のドアが激しく叩かれた。


「ボロいんだからそんなに叩いたら壊れるだろうが!」


 激しく叩かれる扉に文句を言いながら、マーティンは対応しようと立ち上がった。


「待ちな!」


 厨房から慌てた様子でスフレが出て来てマーティンを止めた。


「ミルフィ、ロロ、ルルを連れて二階に行ってな」

「えっ!? でっでも……」

「いいから! 早くしな!」


 厳しい顔でスフレはミルフィに、ルルとロロを二階に連れて行くように指示した。意図がわからずちょうちょするミルフィだったが、スフレの迫力におされて二人を二階へ連れて行った。


「いいよ。出な」

「なんだったんだ……」


 スフレはそういうと厨房へと引っ込んでしまった。マーティンは首を傾げて店の扉を開ける。

 

「おぉ! マーティン! ちょうどよかった。入らせてもらうぞ。みんな!」

「えっ!? おいおい!?」


 扉をあげると何人もの町の人達が、マーティンを押しのけて店になだれ込んできた。マーティンは人に押され店の真ん中へときていた。ふと扉の方をみると、外にもたくさんの人がいた。

 一人の男が彼に近づいて来て大きな声で話かけてきた。


「聞いたぞ! お前の魔族の子供を差し出せば、赤い霧を止めてもらえて赤いオーク達も居なくなるんだろ?」


 男の言葉にマーティンは一気に不機嫌な顔に変わる。彼らは橋にいたが町の人たちに話を聞いてマーティンの元へとやって来たようだ。


「さぁ! 子供達を早く連れて行くんだ! なんだったら俺達が連れて行くぞ!」


 両手を広げて男がルルとロロを連れて行けと言う。その言葉にマーティンが驚いて声が出せないでいると、周囲の人間はうなずきながら男の言葉に同調し始めた。


「たった二人の子供を出すだけで私達は平和になるのよ」

「そうだ。お前の子供は魔族の子だろ? そんなのさっさと放り出せ」


 マーティンは怒りで手が震えた。頭に血が一瞬で上ったが、怒りが大きすぎたせいで、すぐに冷静になり町の連中の言葉に耳を傾けマーティンは怒りを溜めて込んでいく。


「なぁ? お前も本当はあの子らのこと邪魔だと思ってんだろ?」


 何も言わない俺は、みんなに同調したと思われのか一人の男がニヤニヤしながら肩を叩いて来た。彼はもりろん彼らに同調したわけではない。彼らのクズっぷりに呆れてただけだ。マーティンは右手をスノーホワイトへ……


「うわ!?」

「「「「ひぃ!!!」」」」


 ドーンという大きな音が店内にこだまし、足元が揺れガラス戸がガタガタと震えた。マーティンが振り返ると厨房の入り口で、デッキブラシを持ったスフレが仁王立ちをしていた。


「あんたら何の用だい? 今日は営業してないよ」


 眼光鋭くマーティンを囲む男達を見渡して、低い声で淡々とスフレが話す。迫力のあるスフレにさっきまで、騒がしかった男達は黙ってしまった。


「町のためにマーティンに子供達を差し出すように説得を……」


 男が言い訳を始めるとスフレが彼をにらみつける。


「ひぃ!」


 鋭い目をスフレに、睨まれた男は情けない叫び声をあげた。叫び声をあげ怯んだ彼だったが、必死にスフレに食い下がろうとする。


「だが…… マーティンもそれで良いと……」

「ふーん。本当にマーティンは納得してるのかい?」


 怖い顔でこちらを向いてスフレが問いかけてくる。


「そんなの当たり前だろ」


 周囲の男たちはマーティンの言葉にホッと安堵の表情をした。


「ルルとロロは誰にもやらない。全員すぐに出ていけ!」

「だってさ。さぁ出ていきな」


 ニヤッと笑いスフレは店の出口を指した。すぐに動かない男達に彼女は、両手でデッキブラシを横に持ち、近寄って押し出し始めた。


「まっ待ってくれ! この町はどうなる?」


 人々は必死にスフレに抵抗する。


「私達だって本当はいやなの! でもあの子達さえ‥…」

「それに橋に居たのは魔族なんだろ? 魔族を魔族に返すくらい良いじゃないか!」


 押し出されようとしてる町の人々はこらえながら、口々に好き勝手なことを言っていた。こんなの聞く価値も意味もないけどな。


「黙れ! 魔族だろうが二人は俺の子供だ! これ以上騒ぐならどうなるかわかってるのか?」


 右手でスノーホワイトを抜きマーティンは、剣先を町の人々に向けた。町の人々は彼の迫力に固まっている。


「マーティン! 剣をおさめてください!」


 綺麗で力強い声が”竜の髭”に響いた。声に反応してみんながいっせいに振り向いた。


「フッフローレンス様……」


 小さな声でマーティンの前の男がつぶやくのが聞こえる。

 ”竜の髭”入り口にフローレンスが立っていた、そのすぐ後ろにクグロフとロバーツが見える。ニコリとマーティンに向かって微笑み、フローレンスはゆっくりと店内の奥へと入ってくる。


「ロバーツより話は聞きました…… マーティン。あなたにはいつも苦労をかけます」


 マーティンの前に立った、フローレンスは静かに頭を下げ謝罪した。周囲が彼に謝る聖女に騒然とする。


「聖女様! 何をされているんですか!? 早くこいつに魔族の子供を差し出すように言ってください!」


 一人の男がフローレンスに近寄って来てマーティンを指した。


「やめろ!」


 慌てて叫びながらロバーツが、男とフローレンスの間に体を入れた。


「いいのですよ」


 落ち着いた声でフローレンスは、ロバーツを止めて立ち上がった。


「小さな子を犠牲にして自分達だけ助かろうなんて恥を知りなさい!!!!」


 フローレンスは近寄って来た男を叱りつけた。いつもにこにこと、微笑みを振りまく優しい聖女フローレンスが声を荒げる姿は迫力があり、騒然としていた”竜の髭”は水を打ったように静かになった。

 男も後ずさりしながら、それでもすがるようにフローレンスを見つめ、なんとか声をだす。


「でっでも…… こいつの子供を渡せば……」

「マーティンの子供を差し出せというなら。あなたは家族と離れ修道院にこもり一生一人で過ごすと主に誓いなさい」

「えっ!? それは……」

「自分で大事な人を全て捨てる覚悟がないなら今すぐに口をつぐみなさい! 自分が大切な人や家族と別れる覚悟がある者だけがマーティンから子供を奪いなさい!!! さぁ!!!」


 声を大きくし両手を広げ、フローレンスは男を煽っている。いや…… フローレンスは男にだけ話しているのではない。ここにいる全ての者に向けて訴えかけているのだ。町の人々は一人、また一人と静かに”竜の髭”から出ていく。


「マーティン…… 悪かった」


 最初に店に入って来た男が、ぼそっとマーティンに謝って出ていった。みんなが出ていくとスフレは、デッキブラシを下ろし入り口の扉を雑に閉める。


「まったくしょうがないやつらだね」

「いや…… あいつらはただ自分たちを守りたかっただけだ。そんなにせめてやるなよ」

「甘くなったね。あんなやつ昔のあんたならあいつら即あの世行きだったのにさ」

「それはあんたもだろ」


 スフレの肩に手を置いてマーティンが声をかける。彼の言葉にスフレは呆れた顔をしていた。


「マーティン…… ルルとロロに会わせてもらっていいですか?」

「えっ!? わかった」

「じゃあ、あたしが呼んでくるよ。ここで待ってな」


 スフレは二階にルルとロロを呼びに行った。フローレンスはクグロフに案内され、店内の席の一つに腰掛けた。ルルとロロを連れてスフレが戻ってきた。

 店のフロアに入った二人を見た、フローレンスは優しく微笑みかける。


「ルル、ロロ、こちらにいらっしゃい」


 手招きしてルルとロロを呼ぶフローレンス。ルルとロロは少し緊張した様子だった。


「聖女だ」

「フローレンス様……」


 緊張して動かない二人にフローレンスは、歩み寄りしゃがみルルとロロの顔を交互に見つめる。


「うふふ。二人とお話するのは久しぶりですね」

「えっ!? 僕達は聖女としゃべったことないよね」

「うん…… いつもみんなとフローレンス様のお話を聞くだけだよ。ちゃんとお話するのは初めて……」

「フフフ」


 優しく笑うフローレンスを見て、ルルとロロが不思議な顔をする。二人は修道院の学校に通ってるから姿を見たり、説教を聞いたりはあるだろうけが聖女と直接喋る機会はなく初対面のはずだった。


「(実は二人フローレンスと話したり、おむつをかえてもらったり食事を食べさせてくれたり世話になったことがたくさんあるんだぞ。赤ん坊の頃だけど……)」


 マーティンは困惑した様子の二人を微笑ましく見つめている。


「二人はミアのことは好きかしら?」

「ミア先生? 大好き!」

「わたしも‥… 大好き……」


 笑顔でミアが好きと答えた二人はすぐに寂しそうにうつむいた。


「僕…… さっきの話が聞こえた…… みんなやミア先生のために…‥ 僕はアイッテのところに行ってもいい」

「私も…… みんな…… ミア先生を助ける」


 二人に駆け寄ろうとするマーティンにフローレンスが手を向けて止めた。


「ルル、ロロ…… ありがとう。二人がみんなを助けると言ってくれてミアも喜んでますよ。でも…… 同時にお父さんを苦しめてますよ」


 驚いた顔で二人はマーティンを見た。フローレンスは二人の頭を優しく撫でた。


「私もあなた達のこと大好きです。だから二人がアイッテのところに行ったら悲しいですよ」


 フローレンスはルルとロロを優しく抱きしめた。ルルとロロは嬉しそうに笑っていた。


「あなた達を渡さずにミアを助ける方法はあります。探しましょう」

「うーんと…… じゃあこれ……」

「これ!」


 少し考えてからルルがポケットから、一枚の紙を出してフローレンスに手渡した。ロロはフローレンスに向かって得意げにルルが出した紙を指さしている。小さな長方形の紙で裏に、ルルの文字が書いてるのがマーティンにはわかる。紙を見たフローレンスは笑顔になった。


「これは出前チケットですね!」

「うん! 出前するチケットをミルフィお姉ちゃんと作ったの…… お父さんにミア先生を助けてもらおうと……」


 出前チケットを手作りして二人は、マーティンにミアの救出を依頼するつもりだったようだ。二人がこちらを見てうつむいた。


「実はわたくしもなんですよ」


 ニコッと微笑みフローレンスが懐から、出前チケットを出して二人に見せた。


「でも…… どうして聖女様がチケットを……」

「それは…… シスターロレンスの机から拝借したんですよ。あっ! これは三人だけの秘密ですよ!」


 ルルの問いかけて舌を出して、フローレンスはいたずらに笑って答えた。二人は驚いた顔をしたがフローレンスにつられて笑う。立ち上がりこちらへ来てフローレンスは、ルルの手作り出前チケットと正規の出前チケットをマーティンに差し出した。


「ミアは主の大切な子供でありわたくしの大事な姉妹です。お願いできますか?」

「できないな」


 マーティンの回答に驚いた顔をするフローレンス、そしてルルとロロの表情が曇った。


「俺は配達員だからな。出前チケットで運べるのは料理だけだ」


 悲しそうに泣きそうな顔になるルルとロロ…… クグロフとスフレがマーティンを睨みつけていた。


「でも…… もし相手が魔物に拘束されてたら勝手に助けることはできるかな…… いってえな!! 何するんだよ!!」


 まどろっこしい回答をするマーティンの背中をスフレが平手で叩いた。


「何カッコつけてんだい! あんたはうちの専属の配達員だろ! 注文を受けるのはあたしだよ! あんたに断る権利なんか微塵もないからね!!」

「確かにそうだけど…… 三人は俺に依頼してただろうが!」


 フローレンスはマーティンの事を軽く睨みつけた。横に立つロバーツは苦笑いをしていた。


「なんだよ…… 二人まで…… お父さん悲しくなるだろ……」


 ルルとロロはマーティンを冷めた表情で見ている。


「はぁ…… それではお願いします」

「あぁ。心配しないでいい。必ずこいつにやらせるから!」

「なっ!? こっこら!」


 マーティンの頭をワシぐ神にして、強引にスフレはフローレンスに頭を下げたさせた。さらにスフレはフローレンスとルルから、出前チケットを受け取り強引にマーティンのポケットにねじ込む。


「届けるのはあの子の好きな”竜の髭”の……」

「「タマゴサンドとアップルジュースだよ!!」」


 ルルとロロの声が揃った。フローレンスは驚いた顔をして、スフレは声をそろえた二人を見て笑った。


「あぁ。そうだね。美味しく作って上げなきゃね」


 スフレは腕をまくる動作をした。ルルとロロは嬉しそうに笑っていた。マーティンは単独でクロツカの森に囚われたミアに出前を届けることになった。

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