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英雄は料理を運ぶ  作者: ネコ軍団
第4章 霧に蝕まれた町

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第21話 本領発揮

 草むらに身を隠しクグロフとマーティンの二人は慎重に野営地へと近づく。野営地の入り口が、わずかに見えるところで二人は止まった。

 入り口は幅五メートルくらいで、二匹の赤いオークが見張りとして左右に別れて立っている。片方だけやったら気づかれる。マーティンは瞬間加速術(アクセラレータ)で二匹を同時に倒そうと考えクグロフに伝える。


「俺が二匹ともやる。クグロフはフォローを……」

「いや。僕も手伝うよ。左の赤いオークは任せろ」


 首を横に振ってクグロフがマーティンの肩に手を置いた。マーティンはクグロフに向かって小さくうなずく。


「わかった」

「あぁ。君のタイミングでいいぞ」


 クグロフはマーティンの肩から手を離し右手を赤いオークに向けた。そっと右手をホワイトスノーにかけマーティンは足に意識を集中した。


「行くぞ。三、ニ、一!」


 素早く立ち上がったマーティンはホワイトスノーに手をかけた姿勢で飛び出した。瞬時に赤いオークとの距離をつめホワイトスノーを抜く。右腕を引き目の前に立っている、赤いオークに聖剣ホワイトスノーの剣先を向けた。急に現れ剣を向けているマーティンに赤いオークは驚いた顔をする。


「おっと。静かにしな」

「ギッ!?」


 マーティンが右腕を突き出した。聖剣ホワイトスノーの剣先が赤いオークの喉元へ向かって行く。赤いオークは叫べずにつぶれたような悲鳴をあげ首を貫かれた。

 ホワイトスノーの刀身をつたって、地面にポタポタと赤いオークの血が垂れていく。マーティンは視線を横に動かした。


「隣は!?」


 左手を赤いオークの顎にあて、ホワイトスノーを引き抜きながら隣の赤いオークを確認するマーティンだった。


「さすがクグロフ……」

 

 もう一匹の赤いオークは、喉元に手斧が刺さった状態で立っていた。事切れた人形のように二匹の赤いオークは地面に倒れた。


「流石マーティンだね。見事な動きだったよ」

「そっちもな。まさかこいつも自分の武器で殺されるなんて思ってないだろうよ」


 草むらの茂みから出て来たクグロフが、ゆっくりと歩いて近づいてきてマーティンに声をかけて来た。


「マーティン!!」

「どうした!?」


 慌てた様子でクグログがマーティンの背後を指差した。


「がうあ!!」

「チッ!」


 二人の十メートルくらい後ろに赤いオークが居て彼らを見ていた。


「あれは!? 角笛か!?」


 オークが首から下げていた、角笛を持ち口へ持っていき吹こうとしている。他の仲間に知らせるつもりのようだ。


「させるかよ」

 

 ホワイトスノーを力強く握りしめ、マーティンは足に意識を集中し足を踏み出す。神速移動(アクセラレータ)でマーティンは角笛をふこうとしていたオークの目の前まで一瞬で移動する。右手に持った角笛を口につけようとする赤いオークとマーティンの目があう。


「残念だったな。その笛の音は誰の耳にも届かない」


 マーティンはすれ違いながら、赤いオークの首を切り落とした。剣の軌道に右腕があり一緒に首と一緒にホワイトスノーが切り裂いた。噴き出した血がマーティンの振りかかり生暖かく少しドロッとした液体が頬を伝って落ちていく。赤いオークの背後へとマーティンは駆け抜けて振り返った。彼の目に右腕の先と首のない赤いオークの死体が仰向けに倒れ、赤いオークの首と右手首と角笛が地面に転がっている光景が見えた。


「ちょっと血を激しくぶちまけ過ぎたな……」


 腕の先と頭が無くなった首の付け根から、赤いオークの血がかなり出て地面を広範囲に染めていた。他の赤いオークに気づかれるのも時間の問題だ。


「クグロフ。早くスフレ達をここに呼べ」

「あぁ。わかった」


 クグロフは見張りが持っていた、松明を回してスフレ達に合図を送り呼ぶ。ミリアとスフレが野営地の入口へやってきた。


「柵にテントに侵入を知らせる角笛…… まるで軍隊だね……」


 スフレが野営地にならぶテントを見渡してつぶやいた。


「どうした?」

「いや…… 最初に話しを聞いたときからさ。いくらオークが強くても訓練を積んだ聖騎士と冒険者が負けるなんて考えづらくてね。」


 マーティンの問いかけに赤いオークを見ながらスフレが答える。


「それでね…… オークを統率してるのは誰なのかが気になってな」


 目つきを鋭くしてスフレがこちらをみた。聖騎士達が負けたのは、赤いオークが軍隊のように組織されていからだとスフレは考えていた。オークという魔物は好戦的で、本能として集団としてまとまることはできる。それはただの集団で軍隊ではない。数で大きく劣るとはいえ、実戦経験が豊富な聖騎士達が、負ける可能性は低いはずだ。


「あぁ。ここまでオークを軍隊のように、組織させるには誰かが統率を取らない無理だな」

「だろう?」


 マーティンはスフレの意見に同意した。そして二人が考えた一番の問題は、誰がこのオークを率いてるかだった。


「スフレ! そんなことよりここは先を急がないと」

「あぁ。そうだったね。ここで考えても仕方ないね。さっさと聖騎士達に料理を届けるよ」


 クグロフが急かし砦の方角にスフレが視線を向ける。


「そうだね…… 赤いオークのことよりまずは聖騎士達の腹を満たしてやらないとだね」


 マーティン達四人は野営地の入り口から中へ侵入した。

 野営地は柵に囲まれ長方形で、立ったまま入れるくらいの、大きなテントがいくつも並んでいる。マーティン達は身をかがめてテントの陰に隠れて慎重にすすむ。


「うん!?」

 

 先ほど同じく先導していたマーティンが振り返りみんなを止めた。松明を持った赤いオークが、テントの周囲を警備している。野営地の入り口の近くへと向かっている。先ほど始末した警備の二匹の赤いオークが見つかってしまう。


「こいつは始末しとかないとな」


 マーティンは腰の後ろに手を回し、ダガーを逆手に握って引き抜く。引き抜いたダガーは刀身が、十五センチでグリップと刀身を黒く塗ってある。駆け出したマーティンは赤いオークの横をすり抜けて背後に回り込む。


「うー!」


 静かにしろよ。マーティンは赤いオークの口を左で塞ぎ、右手に持ったダガーをオークの喉元にあてゆっくりと引いた。苦しそうに赤いオークがもがく。


「さよなら」


 マーティンはとどめに首筋に引いた、ダガーを戻してそのまま赤いオークの首の横に突き刺した。短剣を通じて彼の右手に硬い感触を感じ、同時に数滴の生暖かい血液が指にかかる。赤いオークはすぐに動かなくなり、マーティンは慎重に音を立てないように、赤いオークの顎をつかんでいた左手を引いて後ずさりしながら仰向けに地面に倒す。


「さぁ行こうか」


 赤いオークを倒したマーティンはスフレ達を手招きして呼ぶ。マーティンの元にみんなが集まる。倒れた赤いオークを見てスフレが笑った。


「腕はなまってないみたいだね」

「そりゃあな。俺は魔物が徘徊する場所に毎日出前に行ってるからな」


 スフレと話しながらマーティンはダガーを腰にしまう。周囲をうかがながらマーティンは、次の見張りが来る前に、さっさとここを離れるように皆に声をかける。


「行くぞ」


 慎重に身を隠しながら、マーティン達は野営地のさらに奥へと向かう。野営地を抜けて四人は城壁の前までやってきた。五メートルはあろうかという頑丈な城壁の前にマーティン達は佇んでいる。


「さてどうやって全員で城壁を上るか……」


 城壁を下から上へと見上げながら、マーティンがつぶやくとクグロフが胸を叩いた。


「大丈夫だ。僕に任せて……」


 クグロフは両手を赤いオークの野営地に向けた。


「えっ!? おい!?」

 

 けたたましい音を立てて野営地を囲んでいた柵が浮かび上がった。さらに野営地に置いてあったオークのものと思われる斧や縄なども浮かび上がってくる。

 空中で大量の柵が斧により解体されいく。カーンと言う音が平原に響く。そして城壁の前では解体された、柵が木材となって縄で階段となっていく。あっという間に、城壁の頂上まで届く木の階段ができあがった。


同時多発魔法(マルチタスクマジック)…… さすがです……」


 出来上がった階段を見ていたミリアが驚きつぶやく。


「ははっ。僕には君みたいな神級魔法は使えないからね。手数で勝負だよ」


 頭に手を置いて少し得意げに、笑いながらクグロフがミリアに答える。


「いやいや何を笑ってやがる! こんな音を立てたら赤いオーク達が気づくだろうが! せっかくここまで見つからずに……」


 マーティンがクグロフに叫ぶ。作業の音は大きく赤いオーク達はすぐにここへ集まって来てしまうだろう。ここまで見つからないように気を付けていたマーティンの努力は無駄に終わったのだ。しかし、クグロフは眉間にシワを寄せるマーティンにニヤリと笑いかける。


「これで良いんだよ。みんな僕が作った足場から城壁に上るんだ」

「はぁ!? なんだよそれ……」


 階段を指さしてクグロフが城壁の上れと指示する。


「ほら! もう敵が来たよ。さっさと上るよ」

「えっ!? クソ!」


 スフレが声を上げた。振り返ると松明と武器を持った、赤いオーク達がマーティン達に向かって駆けてくるのが見えた。スフレが先頭で階段を上り、ミリア、クグロフ、マーティンと続く。


「ウギャーー!」

「来やがったか」


 叫び声がマーティンに近づいてくる。赤オークが階段を駆け上がってきているのだ。マーティンはホワイトスノーを抜いて振り返った。

 先頭の赤いオークが、右手に持った斧を振りかざしマーティンへと迫って来る。マーティンは腰を右腕を引いて剣先を赤いオークに向けた。


「この!」


 力を込めてマーティンは右腕を突き出した。ホワイトスノーは二段ほど下にいた、赤いオークの胸に突き刺さる。


「何やってんだい! マーティン! さっさと上がって来な」

「えっ!? わかった」


 左足を赤いオークの肩にかけて蹴りだし、マーティンは赤いオークからホワイトスノーを引き抜いた。赤いオークは蹴られた勢いで続いてくる、赤いオーク達の上にへと落下しぶつかった。落ちて来た赤いオークをどかすため、駆け上がって来ていた赤いオーク達の勢いが一瞬だけ止まった。マーティンはすぐに前を向いて階段を駆け上がった。


「ふぅ…… 着いた」


 神速移動(アクセラレータ)で、城壁まで一気に駆け上がり、マーティンが一息ついた。階段の前に立つマーティンのすぐ横に、クグロフとミリアが居て、城壁の柵を背もたれにして座っていた。


「どきな」

「チッ! もう少しゆっくりさせてくれねえかな」

「うるさいよ。さっさとどきな。まったく戦場以外じゃのろまなのは変わらないね。そんなんだから女を宿敵に取られるんだよ」

「はっ!? うるせえな」


 マーティンは階段の前から、クグロフ達の元へ移動する。スフレは右手に聖槍グリーンデザートを握り、大容量バックパックはすでに下ろしたようで背負っていなかった。

 逆手に聖槍グリーンデザートを握り、顔の横まであげてスフレは階段の下を覗いていた。


「まだ…… もう少し……」


 つぶやきながらなにかのタイミングを測る。マーティンは立ち上がり、壁の柵から城壁の下の様子を見る。

 クグロフが作った階段を赤いオーク達が駆けあがって来ている。数は十匹ほどで、さらに階段の下には、数十匹の赤いオーク達が待機しているのが見える。


「今だ!」


 叫んでスフレが赤いオーク達に向けて槍を投げた。


「「「「「ぎゃ!?」」」」」」


 同時に複数の赤いオークの叫び声した。スフレが投げたグリーンデザートは赤いオーク達をまとめて貫いたのだ。スフレが右手を前にだし手首を上に曲げる。

 赤いオーク達を貫いたグリーンデザートは、スフレの右手の動きに合わせて地上へ落ちるすれすれで浮かび上がった。

 グリーンデザートに、体を貫かれた赤いオーク達は倒れた階段の下へと落ちていく。階段には赤いオークの血いくつも点々と垂れていた。


「ガウアア!」

「まだ来るのかい…… そうこなくっちゃね!」


 クグロフが作った階段の下に待機していた、赤いオーク達は仲間が死んでもひるまずに階段を上ってくる。スフレはニヤリと笑い右手を下に向けて下ろした。上空へと浮かび上がっていたグリーンデザートが階段の上へと向かって落ちて来る。階段をグリーンデザートが貫き地面へと落ちた。階段は聖槍グリーンデザートによって破壊された。足場を失った赤いオーク達が、目を大きく見開きながらこちらを見つめ落下していく。

 グリーンデザートは地面へと突き刺さり、同時に地面が隆起して棘のように鋭く尖って飛びだした。地上に残った赤いオーク達は突如出てきた土の棘に串刺しになった。落下した赤いオーク達は、棘の上に落ち地上に居た仲間たちと同じく串刺しになった。スフレが右手を前にだした、グリーンデザートは地面から抜け、彼女の手に戻ってきた。下を見て満足にそうな顔をしてスフレが軽く息を吐く。


「ふぅ…… これであの野営地のオークはくたばったかねぇ」


 満足そうに額の汗をぬぐうスフレ、城壁の下には階段の残骸と、いくつもの赤いオーク達の死体が転がっているのが見えた。


「あーあ。クグロフが魔法で作った階段もバラバラだよ……うん!? あいつ…… 魔法で柵を持ち上げていたよな。じゃあ…… こんなことしなくても……」


 何かに気付いたマーティンはクグロフに顔を向けた。


「ヴァーミリオンでクグロフが城壁に上がって、俺達を魔法で上に引き上げればよかったんじゃ……」


 マーティンの言葉に横にいた、クグロフは彼を見てため息をつく。


「はぁ…… わかってないな。それじゃあうちの奥さんを満足させらないだろ?」

「おっおう……」

「夫たるもの妻の要求には答えるべきだと思うんだ!」


 笑ってスフレを見てクグロフは目を輝かせていた。


「(はぁ…… そんなだから娘にまで尻に敷かれるんだよ。まぁ、でも目的を達成して妻の欲求も解決する…… ある意味優秀な夫…… んなわけねえな。この夫婦が変わってるだけだ)」


 満足そうにするクグロフの後ろでは、ミリアが引きつった笑いを浮かべていた。


「マッマーティンさん!? どうやってここへ?」

「うん!?  おぉ! 元気そうだな! 飯を持ってきたぞ!」


 声が聞こえてマーティンが、振り返ると城壁の上にたくさんの聖騎士達が立っていた。

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