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英雄は料理を運ぶ  作者: ネコ軍団
第4章 霧に蝕まれた町
18/32

第18話 呼び出される配達員

 配達が終わったマーティンは深夜近くに家へと戻っていた。


「ふぅ…… すっかり遅くなったな。さすがに一日に五十四件はきつかったな。フフ。みんなこんな状況でもスフレの料理を食べたいんだな……」


 ぼやきながら歩きマーティンは。家へ着いて扉を開け中へ入る。


「ただいま……」


 深夜近くになっているため、静かに扉を開けて家に入り、マーティンが小声で挨拶をした。当然、誰も迎えにう出て来ず、ひっそりと静まり返っていた。


「ってもうみんな寝てるよな」


 マーティンはみんなを起こさないように、静かに玄関からダイニングへ。


「うん!? なんだ…… 起きてたのか」


 ダイニングではテーブルの上に一枚の紙を置いて、ミアが黙って席に座っていた。うつむいているミアにマーティンが声をかける。


「ミア、ただいま」


 まったくマーティンに気づいてなかったのか、声をかけられたミアの体が、ビクッと痙攣したように大きく動いた。


「おっお帰りなさい……」


 慌てて立ち上がったミアが、目を軽く拭う仕草をした。彼女は泣いていたようだ。


「なんかあったのか?」


 ミアの異変に気付いたマーティンが尋ねる。うつむいたミアは少ししてから小さく頷く。


「はい…… 昼間に使者が来てお兄様の出征が決まったそうなんです」


 ロバーツが出征にでるという。マーティンはピンときた、これは昼間にガンドールの言ってたことだと。


「トトカノ火山の赤いオーク討伐か……」


 ミアが目を見開き驚いた様子で顔でマーティンを見た。


「マーティンさん…… 知ってらしたんですか? 町の人達にはまだ知らせてないのに……」

「あぁ。配達員ってのはいろんな人間と会うからな。自然と情報は集まるもんだ」


 笑顔を作りマーティンは、少し自慢げにミアに答えた。


「えっ…… ミア!? 何を……」


 手を伸ばし泣きそうな顔したミアがマーティンに抱きついた。


「ごめんなさい。失礼だとは分かってるのですが…… 少しだけ……」


 ミアはマーティンの胸に頭をつけて小刻みに震えていた。マーティンの足元の床に黒い点が一つ、また一つと増えていく。


「グス! わっわかってるんです…… 聖騎士団の役目は町を守ることだって…… グス! でも、私はお兄様が心配で……」

「ミア…… 大丈夫。ロバーツ…… 君の兄さんは強い人だ。必ず無事に帰ってくる」


 泣いて言葉につまりながら話すミア、マーティンはそっとミアの背中に手を回し、彼女を抱きしめ背中を撫でた。マーティンに抱かれたまま、ミアはしばらく震えていた。

 翌日、修道院からトトカノ火山に集結した、赤いオーク討伐のために聖騎士が派遣されることが発表された。危険が迫った町でまた出前が増加した。

 さらに二日後。イバルツの町から聖騎士が出征する日になった。彼らを見送るためにマーティンとロロとルルの三人は”竜の髭”の前に並んでいた。

 通りにはマーティン達と同じように、聖騎士を見送りにたくさんの人々が出てきていた。


「来たか」


 馬に乗った聖騎士達が門へと続く道を列をなして歩いて来た。見送る人々は聖騎士達に、声をかけたり花を手向けたりして見送っていた。


「お兄様!」


 ミアが隊列の最後尾にいたロバーツに声をかけた。ロバーツはマーティン達の前に来て乗っていた馬から降りた。ロバーツはミアの前に立って彼女の方に手をかけた。


「ミア。行ってくるな」

「はい」


 ロバーツはミアに笑顔で挨拶した。ミアの肩から手を離しロバーツは、しゃがんでミアの足元に立っていたルルとロロにも声をかける。


「君達がルルちゃん、ロロ君かな。いい子だね。ミアと仲良くしてやってくれ」


 二人の頭を優しくロバーツが撫でる。ルルとロロは少し緊張した様子で撫でられていた。


「うっうん」

「はい…… あの…… これ……」


 ルルがロバーツの前に、黒い紐を通した木のペンダントを出した。目の前にぶら下がったペンダントを、ロバーツはまじまじと見つめていた。ペンダントは丸い木の板に、紡錘形から角が生えたような模様が彫られていた。


「これは?」

「お守り…… ロロと作ったの……」


 笑顔でロバーツがお守りを受けと取る。ちなみにルル達が渡したのは魔族のお守りだ。魔法の勉強をしているミルフィが教えてくれたみたいだ。聖騎士に魔族のお守りというのもなんだが……


「ルルちゃん、ロロ君…… ありがとう」


 ロバーツはお守りを首にさげ、ルルとロロの頭を撫でて礼を言って立ち上がった。マーティンに顔を向けロバーツが頭を下げる。


「マーティンさん…… 妹をよろしくお願いいたします」

「あぁ。気をつけてな」

「では!」

 

 ロバーツはさっそうと馬に乗り、右手をあげて列へと戻っていった。ミアはロバーツの姿が見えなくなるまで黙って見送った。

 聖騎士団が赤いオーク討伐に出て五日が経った。ミアはロバーツのことを心配する素振りもみせず、ルルとロロの面倒を朝から夜までみていた。イバルツの町はひっそりと静まり返り、町の空気は重く人々の不安が乗り移ったような暗い雰囲気が漂っていた。マーティンは変わらず増え続ける出前の配達に追われていた。

 午前の配達が終わり、俺は”竜の髭”へと戻ってきた。


「あれ!?」


 ”竜の髭”の扉に閉店の札がかかっており、マーティンが声をあげる。


「どうしたんだ?」


 首をかしげてマーティンは扉を開けて店の中に入る。店の真ん中で席に座っていた、スフレとクグロフに声をかける。


「もう店を閉めるのか?」

「あぁ。今日はもう閉店だ。いやしばらくだねぇ……」


 二人の向かいにいて見えなかったが、スフレとクグロフの座る席に、もう一人男が座っていた。彼は白のローブに身を包んだ白髪の優しそうな老人だった。


「やぁ。マーティン殿。久しぶりですな」

「マウロ司祭……」


 老人は右手を上げてマーティンに挨拶をする。この老人はマウロ司祭。修道院の行事や儀式を取り仕切ってる人物、つまり修道院で聖女様の次にえらい人間だ。両手を組んで肘をついた姿勢になった、スフレがマウロに司祭に目を向けた。


「これで全員そろったね。話ってのはなんだい? マウロ」


 スフレとクグロフはマーティンが戻って来るのを待ってようだ。マウロ司祭はうなずいてゆっくりと口を開く。


「君達三人をフローレンス様がお呼びだ。すぐに修道院まで来てくれ」

「聖女フローレンスが俺達を……」


 確認するように、マウロ司祭が視線を動かしマーティン達を見る。


「そうか。じゃあ行くよ。マーティン、クグロフ」


 うなずいてスフレが立ち上がった。マウロ司祭がスフレに尋ねた。


「スフレ殿。なぜ君たちが呼ばれたのか聞かないのかね?」

「聞く必要ないよ。フローレンスには世話になってるからね?」

「そうだ…… 俺達は三人とも彼女には大きな借りがあるからな。だろ?」


 マーティンが視線をクグロフに向けた。は目が合うと彼は笑顔でうなずく。スフレは俺達の様子を見てニヤリと笑った。


「マウロ! あたしらは店を片付けたらすぐに行くってフローレンスに言っときな」

「ありがとうございます。では修道院でお待ちしております」


 マウロ司祭はスフレに頭をさげると、立ち上がって足早に”竜の髭”を出ていった。


「ほらマーティン! さっさと背負った荷物を片付けな。クグロフ。あんたは二階にいるミルフィをミアに預けて来るんだ」


 スフレはマーティン達に指示を出して厨房へと引っ込んだ。クグロフは彼女に続く。マーティンはリュックの中身を出して片付けて、棚の横のフックにリュックを引っ掛けてしまう。リュックを片付けたマーティンはスフレの閉店作業を手伝った。

 準備が終わり三人で”竜の髭”を出て修道院へと向かう。三人で修道院へと道を登っていく。


「もうすぐ修道院だな…… うん!? なんだ…… お前も呼ばれたのか……」


 気配がして振り返ると、マーティン達のすぐ後ろを褐色肌のダークエルフの少女が、肩を真っ赤な目をした大きな白いフクロウに掴まれた状態で飛んでいた。

 少女は黄色の瞳に白い長い髪のかわいらしい顔をして、長い黒のスカートに黒いマントをつけて頭には三角帽子をかぶっている。


「スフレー! クグロフー! マーティンー!」


 マーティン達に向かって叫びながら近づいてくる。マーティンの前までくると少女はフクロウから飛び下りた。華麗に着地した少女は三人に笑顔を向けた。


「ミリア。あんたもフローレンスに呼ばれたのかい?」

「はい!」


 少女は笑顔でうなずく。このダークエルフの少女はミリア。魔法学校の校長で豊富な知識を有している、いわゆる賢者と呼ばれる人物だ。幼い容姿のミリアだが、彼女はエルフですでに数百年を生きている。ミリアを連れてきた、フクロウの名前はヴァーミリオンという名だ。


「なんだ?」


 ミリアがマーティンを見て眉間にシワを寄せいやそうな顔をした。


「マーティンさん! ルルとロロは今日は家でおとなしくさせてるですよね? まったくこの間はひどい目にあったです…… はぁ」

「しつけえな。まだルルとロロを預けたのを根に持ってるのか。あれは俺が預けたんじゃねだろ。文句言うなら預けたスフレに言ってくれよ」


 マーティンが親指でスフレで指して答える。ラスティの事件の際に、ルルとロロ達を彼女に預けていた。その時にミリアはルルとロロに振り回されて大変だったのだ。


「それに…… 二人と仲良く遊んでたじゃねえか。どっちが子供がわからねえくらいにさ」

「ムキーー!」

「おっと! 残念でした」


 子供と言われ怒ったミリアが両手を上げ、マーティンに向かってこようとした。マーティンはそっと腕を伸ばし、彼女の額に手を置いて防ぐ。体格差があるため、額を押さられてミリアは、いくら手を伸ばしてもマーティンに届かない。悔しそうにマーティンをミリアが睨みつける。


「ムキーー! 手をどけるです!」


 向かって行けずにミリアは悔しそうに泣きそうになっている。二人を見たスフレがあきれて口を開く。


「マーティン! ミリアをからかうんじゃないよ。ミリアもいい加減にしな」

「はいはい」


 マーティンはミリアの額から手をどけた。ミリアは悔しそうに彼を睨みつけた。


「べー!!」

「あのなぁ…… この中で一番地位も高くて、年寄りなのにそんなガキみたいなことするんじゃねえよ」


 ミリアは目に涙をため、マーティンに向かって舌をだしていた。


「はぁ…… またあんたらの面倒を見るのかい」

「しょうがないよ」


 二人のやり取りにスフレが頭を抱え、クグロフが慰めていた。ミリアと合流し俺達は四人で修道院へと向かうのであった。

 修道院へ四人が到着した。マーティン達の前には高い壁に囲まれ、五つの尖塔を備えた、巨大な修道院が目の前にそびえ立っている。


「よくお越しいただきました。フローレンス様がお待ちです。こちらへどうぞ」


 修道院の巨大な扉の前で、マウロ司祭が待っていて彼らを案内する。マーティン達はマウロ司祭と一緒に修道院の中へ向かう。扉の先は廊下でまっすぐ行くと、ほぼいつも解放されてる礼拝堂へ続く。右の先は階段になっていて左に行くと学校として使ってる建物へ行ける。


「フローレンス様は礼拝堂でお待ちです」


 マウロ司祭は廊下をまっすぐ進み礼拝堂へ。


「ミアが言ったとおりだな」


 修道院の中には赤い霧の影響で保護された、宿のない巡礼者や旅人がたくさんいた。少し歩くと廊下の先に大きな木の扉がある。大きな木の扉の向こうに礼拝堂がある。マウロ司祭が扉を開けてくれて一緒に中へ。

 礼拝堂は長方形で白い壁で、天井は高く壁画と窓はステンドグラスで作られていた。一番奥には祭壇が置かれその前で、白いローブに身を包んだ女性がひざまずき祈りを捧げていた。


「フローレンス様、皆様をお連れしました」


 マウロ司祭が女性に声をかけた。女性は祈りを止め立ち上がり振り返る。振り返ったの女性は水色の綺麗な長い髪に、輝くような綺麗な青い瞳に高い鼻のおだやかな雰囲気の美しい。

 女性はマーティン達を見ると優しく微笑んだ。女性は聖女フローレンス。彼女は世界の教会のトップの存在で、各国の指導者も彼女の言葉は、無視できないほどの影響力を持っている。

 四人は聖女フローレンスの前に並び膝をついた。


「スフレさん、クグロフさん、ミリアさん、マーティンさん、お久しぶりです。申し訳ありません。急に皆さまをお呼び立てして……」

「気にしなくていいよ。あんたの頼みだ。さっさと話しを聞かせておくれ」

「フフ…… ありがとう」


 スフレが立ち上がって横を見て上に向かって手を動かし、マーティン達にも立つようにうながす。全員が立ち上がると、フローレンスが話しを始めた。


「ご存知だとは思いますが、我ら聖騎士団が赤いオークが集結したトトカノ火山に討伐に向かいました」


 フローレンスの言葉に相槌を打つ四人。眉毛をさげて悲しそうな顔をし、フローレンスは話しを続ける。


「冒険者と聖騎士で五百人を超える軍団を組織しましたが、千を超える赤いオークの集団は手強く……」

「聖騎士団は負けたんだね?」


 スフレの問いかけにフローレンスは小さく頷いた。マーティンは特に驚く様子もなく黙っていた。いまさら自分達を呼ぶってことは、事態が何か悪くなったと思っていたからだ。


「敗北した聖騎士団の生き残り二百人が北の砦に立てこもりました」


 急にマーティンは目を見開いてハッとしてフローレンスに尋ねる。


「ロッロバーツは?」

「大丈夫ですよ。彼は砦で生き残った聖騎士団を指揮しているようです」


 マーティンに微笑みうなずくフローレンス。ミアの悲しむ顔はみたくなかった彼は、ロバーツが無事と聞いてホッと安堵する。


「しかし…… 砦は赤いオークに包囲されています。食料も少なく生き残った二百人の聖騎士達は苦境にたたされてます」


 砦は包囲され食料もない、聖騎士達の状況はかなり悪い。フローレンスの言葉を聞いていたスフレが口を開く。


「あたし達に聖騎士団を助けてほしいってことだね」

「はい。騎士達に食料を届けて救ってください」


 フローレンスはマーティン達に頭を下げた。


「いいよ。あんたのためだ! なぁみんな?」


 スフレは躊躇することなく聖騎士を救ってくれという依頼を了承し、彼女はマーティン達に同意を求めた。三人の答えも同じだった。


「あぁ。俺はやる」

「僕もやるよ」

「やるです」


 三人が順に答えるとスフレが満足そうに笑った。マーティン達に断るいう選択肢はない。彼らは事情があってこの町にやってきて聖女フローレンスには世話になっている。それに砦が落とされたら、赤いオーク達はイバルツに迫ってくる。


「みんな。良いってさ」


 腕を組んで満足そうにスフレがフローレンスに笑って答える。


「ありがとうございます!」

「あたし達は四人しかいない。あたしらだけで聖騎士二百人分の食料や物資を運ぶのは無理だよ」


 スフレの言葉にうなずくマーティン。四人で運べる量には限界がある。


「馬車を使えばいいですよ」

「ダメだ。馬車だと城門を開くことになる。なだれこまれたらやっかいだ」

「あぁ。マーティンの言う通りだよ。あたしらは良いけど中の騎士に犠牲がでちまうよ」

「そうですか……」


 ミリアの提案を否定するマーティンとスフレだった。聖女フローレンスはマーティン達を見て微笑む。


「大丈夫です。マウロ司祭様…… 彼女をこちらへ」


 祭壇の横にある扉が開いて、マウロ司祭が入って来た。

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