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英雄は料理を運ぶ  作者: ネコ軍団
第3章 赤い霧事件の始まり
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第11話 不安な恋の芽生え

「おい! こいつらを営倉にぶち込んでおけ! 軍規違反だ」


 ロバーツの声が森に響き。彼の後ろに居た騎士達が、女性配達員を襲った三人に向かっていく。マーティンは笑って小さくうなずいて剣から手をはなすのだった。


「やめろ!」

「いやだ助けてくれ」

「離せ! 離せーー!」


 体をひねったり暴れたり抵抗するが三人は、騎士達にがっちりと押さえられ引きずられていってしまった。ロバーツは黙ってその光景を見つめてため息をつく。


「はぁ……」


 こちらを向いてロバーツは剣をおさめ、申し訳無さそうにマーティン達に頭を下げた。


「マーティンさん。すいませんでした。バカどもが出前の邪魔をして……」

「俺はいい。邪魔されたのは彼女だ。謝るのなら彼女に謝れよ」

「面目ない……」


 ロバーツは気まずそうに頭に手を置いていた。


「さて……」


 マーティンは地面に落ちていたリュックを拾い上げた。彼は女性配達員の前に行くと、腕を伸ばしてリュックを差し出した。


「これ…… もう奪われないように気をつけてちゃんと届けろよ。あと死体が転がってるような危険な場所を通るときは迂回することも考えろ」

「コク……」


 女性配達員は黙ってうなずいてうつむいてしまった。


「えっ!? ちょっといくらなんでも…… そんなに強く言ったつもりは……」


 拳を握り女性配達員は、肩を振るわせて目から、マーティンの目の前で大粒の涙を流し泣き始めた。


「わっ!? こら!?」


 女性配達員はマーティンに抱きつき、胸に顔をうずめて泣き続ける。マーティンは右腕を伸ばして静かに地面にリュックを置いた。


「ありがとうございます。私達は…… この近くの村に…… でもそこが赤いオークに……」


 泣いて言葉につまりながら女性配達員が話しを始めた。


「なんとか生き残って…… 配達員に…… 赤いオークが怖くて…… でも配達をしなくちゃで…… そしたらあいつらに……」


 女性配達員は赤いオークに村が、襲われイバルツに逃げて配達員になったようだ。配達員になり森へとやって来たら赤いオークの死体が転がっており、彼女はパニックになっていたところをあいつらに捕まったのだろう。


「まだ泣くのか……」


 女性配達員はマーティンの胸で泣きながら震え続けている。


「わかった。辛かったな…… もう大丈夫だ……」


 そっと慎重にマーティンは、泣きやままない彼女の背中をさすり優しく声をかける。これはマーティンの娘であるルルが泣いた時に彼がいつもやっていることだった。

 

「はい……」


 落ち着いたのか女性配達員の震えが、徐々におさまり泣き止んだ。ゆっくりと女性配達員が、顔をあげマーティンの足元にあるリュックを拾って背負った。


「もう行きます。配達がまだなんで!」


 森の奥を見つめる、女性配達員の表情はすっきりとして少しだけ凛々しく見えた。


「そうだな…… 依頼人はきっと君の料理を待ってるよ」


 女性配達員はこちらに振り向き、こちらに小走りで近づいてきた。マーティンの目の前で立ち止まり頭を下げ、すぐに顔をあげるとニッコリと微笑んだ。


「あの! 私はメルって言います。あなたのお名前は?」

「俺か…… 俺はマーティン…… おっおい!?」


 メルは俺の横に立ち、背伸びして頬に口づけをしてきた。少し甘くていい香りがして、柔らかくてプニッとした感触がマーティンに伝わる。


「えへへ。本当にありがとうマーティンさん…… 今のはとりあえずのお礼です。今度はちゃんとお礼をしますね」


 メルは頬を赤くし、リュックのベルトを持って森の奥へと歩き出した。


「いまのはミアには言った方がいいのか? いや…… やめておくか」

「なんだよ!? うるせえな。余計なするなよ」


 マーティンは振り返りロバーツを睨みつけると、彼は気まずそうに目をそらすのであった。ロバーツの態度にマーティンは不服そうに口をとがらせ頭を掻く。


「ったく…… それよりもあの子が言ってた赤いオークってここに転がってるやつらか?」

「えっ!? はっはい! そうですね……」


 ロバーツが慌てて返事をする。表情は変わらないが、マーティンと視線を合わせようしない。見た目と行動の通り真面目なロバーツは嘘をつくのが下手なようだ。

 赤いオークに伝染病とか別に興味もねえが、さっきの態度が腹が立つので少し突っ込んでやる。


「しかもあの赤いオークは伝染病で凶暴化するらしいな」

「はっ!? なんでそれを…… いっいや! でっ染病なんかないです…… ただ人を襲う赤いオークの集落が近くに出来たみたいで……」


 だんたんとロバーツの声が小さくなり、語尾が聞き取れなくなっていく。マーティンはジッと彼を見つめさらに問い詰めていく。


「本当か? ただのオークなら冒険者ギルドに任せられるだろ? さっき料理を持っていった冒険者が文句を言ってただぞ?」

「いえ…… それは…… あっ! 聖女フローレンス様の命令なので僕にはよくわかりません!」

「チッ」


 全てを聖女のせいにしてごまかすロバーツに軽く舌打ちをするマーティンだった。ただ、聖騎士である彼がこれだけ必死に隠すということは、ガンドールが言ってたことは本葬なのだろう。しかし、凶暴化した赤いオークという事実だけなら特に隠す理由はない。何か別な理由があるようだ。


「マッマーティンさん! 次の配達があるんじゃないですか?」

「えっ!? あぁ! そうだったな」


 マーティンには次の仕事がある。赤いオークのことは気になるが、彼はロバーツの慌てる顔が見えたので満足することにした。


「あいつです!」


 叫び声がして振り返ると、戦闘用の銀の防具に包まれた馬に乗った聖騎士と、その周りはさっき引きずられていった三人の聖騎士がマーティン達に向かってきていた。馬がマーティンは前に止まった。顔をあげたマーティンは騎士の顔を見て笑った。


「貴様が私の部下を傷つけてくれたのか?」


 馬上からマーティンを見下すような視線を向けた騎士はメロリーだった。マーティンを見たメロリーは驚愕の表情を浮かべる。


「おっお前は…… クソ!」

「なんだ。あんたか…… 連れを変えたのか? どっちもクズで役に立たなそうだ……」

「黙れ!」


 不機嫌そうにメロリーは、マーティンの言葉を遮って彼を指さした。


「ロバーツ殿。彼は聖騎士を暴行しました。すぐに捕まえてください」

「ちげえな。俺がこいつらに襲われんだけど?」

「お前には言っていない! 配達員風情が僕にしゃべりかけるな!」


 茶化すように笑う、マーティンを怒鳴りつけメロリーは彼を睨みつけた。静かにマーティンはメロリーをジッとみながら膝を曲げ体勢を少し低くし剣に手をかけた。ロバーツは冷静な口調でメロリーに話を始める。


「メロリー様。申し訳ありません。彼の言う通りです」

「フン! ロバーツ殿はこんな小汚い配達員どもの証言で聖なる騎士達を営倉にいれるつもりなのですか?」


 メロリーはロバーツに向かって問いかける。少し考えてからロバーツは顔をあげ、毅然とした態度でメロリーの問に答える。


「はい。配達員が嘘を言う理由がありません。軍規違反で厳しい処置をするのが妥当です」

「ぐぬ! この者らは不自由な暮らしの中で僕に尽くしてくれた忠実なる部下だ!」

「あなたに尽くしても聖騎士は民に尽くさなければ意味はないのですよ。それに…… 守るべき民に簡単にのされる聖騎士を大事な部下というあなたも恥ずかしいですよ」

「貴様!!! ゲルニカの田舎貴族風情が無礼な!!!!!」


 ロバーツの言葉を聞いてメロリーは激しく怒り出した。マーティンはロバーツの言葉に吹き出しそうになるのを我慢し、ホワイトスノーに手をかけ足を踏み出す。剣を抜きながらメロリーが、乗った馬の背後に回り込むと、馬の尻を軽く突き元の場所へと戻った。彼の一連の動きは誰も反応できなかった。


「ブヒヒーーーーン」

「うわ!? なんだ!? どうした!? ぎゃーーー!」


 馬が剣で突かれたことに驚き、前足をあげていなないた。突然のことにバランスを崩しそうになった、メロリーは必死に馬をなだめようとする。だが、彼の奮闘虚しく馬は勢いよく走り出してしまった。走る馬の蹄の音が森に響いていく。


「ロッロバーツ殿! 助け…… うわあああ!?」

「えっ!? メッメロリー様!?」


 メロリーは走る馬の首にしがみついたまま、森の奥へと向かっていく。途中でメロリーを追って来たと思われるアレックとすれ違った。アレックは暴走する馬にしがみつくメロリーを慌てて追いかけていく。助けを求めたメロリーの声が、離れていきすぐに聞こえなくなった。残った三人の騎士達は呆然とその光景を見つめていた。


「おい。ご主人様が行っちまったぞ。追わなくて良いのか? それともまだ俺達に話があるのかい?」

「「「ひえええええ!!!」」」


 剣に手をかけてマーティンは残った三人の騎士達を睨みつけた。三人の騎士達は顔見わせると、悲鳴をあげメロリーを追いかけて森の奥へと走っていった。


「申し訳ありません。マーティンさん……」


 マーティンに駆け寄ってきたロバーツがまた謝ってきた。


「気にするな。君のせいじゃない。さっさとあいつを追いかけてやれよ。馬が暴走して怪我をしてるかも知れないぞ」

「えっ!? はっはい。わかりました。暴走した馬を追いかけます」


 自分が暴走させてくせに、わざとらしく馬が勝手に暴走したように話すマーティン、ロバーツは慌ててそのまま森の奥に体を向ける。まぁこの場でマーティンの動きを把握できる者などいるわけがなかった…… マーティンは右手をあげロバーツの背中に声をかける。


「じゃあ。後はよろしくな」

「はい。マーティンさん! あと…… 神速移動(アクセラレータ)とは良いものを見せてもらいました。ありがとうございます」


 振りむいたロバーツは笑顔で右手を、あげて挨拶をして前を向き歩き出した。マーティンは自分の動きに反応したミアの兄に感心するのだった。


「あっ! そうだ!」


 ロバーツなにかを思い出しまたマーティンに振り向いた。


「あの妹は今日も?」

「あぁ。多分な……」

「いつもすいません。迷惑ならやめさせます」

「いや…… 俺も助かってるからな。むしろこちらが礼を言いたいらいだ」

「そうですか。よかったです」


 ロバーツは少し安堵した様子で、うなずき嬉しそうに再度前を向き歩き出した。


「(しかし…… ロバーツは神速移動(アクセラレータ)のことを知ってるのか。この間アイラがロバーツは、俺の過去を知りたがってるみたいに言ってたな。余計なことをしちまったかもな……)」


 背中を向け歩くロバーツの背中をマーティンは黙って見つめていた。

 出前を終えたマーティンは町に戻って”竜の髭”へと続く通りを歩いていた。


「あっ! ルルちゃん、ロロ君! お父さん帰ってきたよ」


 通りの前にルルとロロと手をつないだミアが立っていた。ルルとロロの二人はマーティンを見て駆けてきた。


「おかえり! お父さん!」

「おかえりなさい……」

「ただいま」


 マーティンはしゃがんで両手を広げ、走ってきた二人を受け止めた。左右の腕でマーティンは、同時にルルとロロを抱きしめる。ミアは二人の後を追って近づいてきた。しゃがんで子供を抱きしめる、マーティンに体をかがめて顔を近づけ微笑む。


「まだお仕事ですか?」

「あぁ。次の配達で今日は終わりかな。そっちは?」

「お店が落ち着いたので三人でお散歩です。ねぇ? ルルちゃん、ロロ君?」

「あっ……」


 ルルとロロの二人はミアの言葉にうなずき、うれしそうにマーティンから離れ、ミアの元へと戻り彼女の服の袖を掴む。


「うん! じゃあね。お父さん」

「お仕事…… 頑張って……」


 二人は笑って手を振っている。マーティンは嘘でもいいから、もう少しだけ名残り惜しそうにしてくれないかと少し寂しく思うのだった。マーティンは静かに立ち上がり二人の面倒を見てるミアに声をかける。


「悪いな。学校が終わっても二人の面倒まで見てくれて」

「いえ。私にとってルルちゃんとロロちゃんと接するのは修行の一環ですから」


 交互にミアはルルとロロを見て、優しく慈愛に満ちた表情を浮かべていた。ミアはこの間から学校が終わった後、マーティンが店に戻るまでルルとロロの世話をしていた。人間と違う種族と交流を持つことが、シスターの修行となるという。

 まぁ、ルルとロロは魔族の血を引くとはいえ、生まれた直後からマーティンと一緒に人間として、暮らしてるから魔族っぽくはないが……


「ねぇ!! ミア先生! 早く広場に行こうよ」

「ごめんね。じゃあマーティンさんまた後で」


 ロロがミアの袖を引っ張って早く行こうと急かす。ミアはマーティンに笑顔で挨拶をした。


「おぉ! また後で! ルル、ロロ、ミアの言うことを聞いていいこでいるんだぞ」

「うん!」

「はい!」


 三人は仲良く並んで手をつなぎ歩いていった。ロロが顔を上げ、ミアと一生懸命に話してる。


「本当に…… ルルの言った通りだ。ミアの前だとあのロロが大人しいな」


 マーティンが三人の背中を見てつぶやく。ルルからの情報によると、ロロはミアに恋心を抱いているとのことだった。


「魔族と人間の恋か…… まだそんなにはちょっと早い気もするが…… それに…… そんなのは不幸にしか…… チッ! やなことを思い出しちまったな。さっさと店に戻ろう」


 マーティンは大きく首を横に振り、ミア達に背中を向け”竜の髭”へと戻るのだった。

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