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プロローグ

 『厄憑(やくつ)きリヴィ』


 伯爵令嬢リヴィ・キャンベルが不名誉なふたつ名を授かったのは、彼女が7歳を迎えた年のことであった。


 キャンベル家当主である父ルドリッチとともに、貴族仲間の茶会に参列していたリヴィは、茶会に招かれていた占星術師から予言を授けられることとなった。


 予言を授けられる、ということに特別な意味はなかった。「せっかく茶会の席に占星術師がいるのだから、子どもたちの未来を占ってもらうのも面白かろう」と参列客の誰かが言ったためだ。

 そこでリヴィを含む十数名の子どもたちが、皆が見守るなか占星術を受けることになった。


『この子は勇敢な騎士となり、国土防衛に多大なる貢献をすることだろう』

『この子は良家へと嫁ぎ、子宝に恵まれ温かな家庭を築くことだろう』


 占星術師は子どもたちに次々と幸多き予言を授けた。

 そしてリヴィの番がやってきた。占星術師はリヴィのルビーレッドの瞳をじっと見つめ、それから恐れおののいたように叫んだのであった。


『この子は呪われている。赤い目と髪は不吉の象徴。リヴィ・キャンベルは凶星の下に生まれ、王国に破滅をもたらすだろう』


 初めのうちこそ誰もこの予言を信じなかった。茶会のよい余興であったと笑い飛ばして終わりであった。リヴィのルビーレッドの目髪は、宝石のようで美しいと貴族仲間の間では評判であった。その美しい少女の目髪が、まさか不吉の象徴であろうなどと信じる者はいなかった。


 しかし茶会から1か月あまりが経った頃、王国が未曾有の豪雨に見舞われ、盆地に位置するキャンベル家の領地は甚大な被害を受けた。

 その後も取引先企業の倒産や、家族・使用人の怪我が続き、ルドリッチはいよいよおかしいと感じ始めた。占星術師の予言のとおり、本当にリヴィがキャンベル家に不幸をもたらしているのではないかと疑いを抱き始めたのだ。


 ルドリッチは占星術師の元を訪れた。リヴィが本当に呪われているというのなら、どうすればいいのか指南を仰ぐためだ。

 占星術師はルドリッチの耳元でこうささやいた。


『リヴィ・キャンベルの呪いは不吉な目髪の色に由来する。ゆえに呪いを解くすべはない。しかし娘を隔離し外界との接触を断てば、呪いの効力が他者に及ぶことはないだろう』


 ルドリッチはこの助言を受けて、リヴィを一時的に自室へと隔離した。3度の食事を自室でとらせ、風呂とトイレを除き部屋の外へ出ることを禁じたのだ。ルドリッチにとっても半信半疑の処置であった。


 リヴィが孤独に過ごす時間は1週間が過ぎ、2週間が過ぎた。その期間、家族・使用人は事故に見舞われず、以前の混乱が嘘のように家業も順調であった。

 ルドリッチはついに占星術師の予言を信じ始めた。リヴィは呪われている。リヴィに自由な生活を許せば、キャンベル家のみならず、王国にも災いをもたらす結果となる。


 リヴィが孤独に過ごす時間は1か月が過ぎ、2か月が過ぎた。初めのうちこそリヴィの隔離に反対していた母は、しだいに何も言わなくなった。きょうだいや使用人らもリヴィの境遇に慣れ始めた。

 

 リヴィの身柄は子ども部屋から屋根裏部屋へと移された。

 扉には外側から鍵がかけられ、生活の自由は奪われた。

 『厄憑きリヴィ』などと不名誉なふたつ名で呼ばれるようになった。

 

 リヴィが孤独に過ごす時間は1年が過ぎ、2年が過ぎた。


 食事や衣服は最低限の物しか与えられなくなった。

 友人と会うことも、ささやかな手紙を送ることも許されなくなった。

 屋敷で暮らす誰もがリヴィをさげすみ、1人の人間として認めなくなった。


 リヴィがどれだけ耐えても惨めな生活に終わりなど来なかった。

 そうして10年の歳月が流れた。

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