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【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました  作者: はづも
3章 番の愛と呪い

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16

 こうして、この騒動は幕を閉じた。


 クラークが話した通り、グレンは、みなの前でルイスが己の番であることを証明していた。

 嗅覚と聴覚を頼りにできないよう、耳と鼻に栓をされ。

 その状態で、離れた場所にいるルイスを見つけ出すことを求められた。

 ルイスが隠れる場所を指定したのは、カリーナの父であるオールステット公爵だ。

 彼はカリーナの父だから、娘の話が真実であって欲しかったし、できることなら処罰もしたくなかった。

 だから、簡単には見つけ出せない場所にルイスを隠したが、耳も鼻もろくに使えないはずのグレンに発見され。

 番を持つ獣人も、この様子なら本当に番なのだろうと話し。

 その場にいたみなが、ルイスこそがグレンの番であると認めざるを得なかった。


 みなの前で見事に番を探し出してみせたグレンの主張は、真実であったと扱われ。

 いもしないグレンを探してホテルを動き回ったカリーナは、嘘をついていたと断定された。

 二人の動きは、あまりにも違いすぎたのだ。


 東方に連れ戻されたカリーナは、これから相応の罰を受けることになるのだろう。



***



 開け放った窓から風が入り込み、ルイスの金の髪を撫でる。

 まだ早い時間帯だが、すでに太陽が出ており、少しの風も心地いい。

 外の空気を味わいつつも、ルイスの表情はどこか陰っていた。


「……」

 

 自分たちが番であったことを認められ、疑いの目を向けた者たちからの謝罪も受けて。

 元の生活に戻れるはずなのに、彼女の気分は晴れない。

 

「ルイス。朝方はまだ冷えるよ」


 そんな彼女の肩にそっとショールをかけたのは、寝起きのグレンだ。

 そのまま彼はルイスの隣に立ち、ともに風を感じ始める。

 くああ、と彼があくびをしたものだから、ルイスはふふ、と笑みをこぼした。

 社交の場などでは見せることのない、リラックスしたグレンの姿が、なんだか可愛く思える。

 グレンの主張が認められた日、二人はグレンの私室で夜を共にした。

 すれ違いも解消し、自分たちの関係が公にも認められ。

 感情の高ぶった二人は、初めて身体を重ねた日のように、情熱的なときを過ごしたのだった。


「……あまり眠れなかったのか?」

「眠れはしたのですが、なんだか、早くに目が覚めちゃって」


 グレンにたっぷり愛された翌朝は、疲れから起床が遅くなることが多い。

 なのに今日はグレンよりも早く起きていたから、彼を心配させてしまったようだ。

 ちなみに、彼に包まれて幸せいっぱいになったところで、ルイスの記憶は途絶えている。

 ので、眠れなかった、ということはない。

 むしろ、心地よい疲労感と幸福感から、一人のときよりもぐっすり眠れているだろう。

 だというのにどうして、早くに目が覚めてしまったのかといえば――。


「カリーナの件が気になって、落ち着かない?」

「……そう、みたいです」

「……四大公爵家の獣人が、あんな嘘をついたわけだからな。謝罪だけでは済まないだろう。でも、きみが気に病むことじゃない。カリーナだってオールステット家の獣人だ。相応の罰も覚悟のうえだったはずだよ」


 やり方こそ間違っていたが、カリーナは、本気でグレンに恋していた。

 でも、彼女はグレンの番ではない。既に番を見つけている獣人のグレンが、彼女に心変わりすることもない。

 グレンが、他の女性を見ることは絶対にない。生涯、ルイスだけを愛し続ける。

 その事実に安心もするが、あったかもしれない未来を考えると、少しだけ怖くなった。

 ルイスは偽物で、カリーナこそが真の番だったら。

 長い時をかけて積み上げてきたものが、一瞬で壊れていたのだ。

 

「……獣人にとっては、夢のような話」

「ルイス?」

「ミリィたちがそう言っていた意味が、今になって理解できたような気がします。ミリィがよく、あなたに『でかした』と言う理由も」

「俺も、最初は本当に驚いたよ。きみを抱いた翌朝、番だってわかったんだから」

「っ……!」


 自分からグレンに迫ったことを思い出したルイスが、ぷるぷると震えながら頬を染めた。


「あの、その日の話は、ちょっと……!」

「はは、ごめんごめん」

「悪いと思ってる感じがしないです!」


 むう、とルイスは下からグレンを睨みつける。

 身長差があるため、どうしても見上げることになってしまうのだ。

 彼は、面白そうに笑いながら、ぽんぽんとルイスの頭に触れた。

 余計にむううっとなるルイスだったが、おどけた様子だった彼の雰囲気が、すっと変わったことに気が付く。

 青い瞳は愛おしそうに細められ、じっとルイスをとらえた。

 子供をあやすように頭に触れていた手は、ルイスの柔らかな金糸を優しく撫で始める。


「……一夜の思い出にならなくて、本当によかった」

「……私も、そう思います」


 グレンがルイスの頬に触れ、少し屈んだことを合図に、ルイスも背伸びをする。

 二人の唇が、重なった。


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