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【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました  作者: はづも
3章 番の愛と呪い

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15

 そんなカリーナの姿に、ルイスは胸を痛めていた。

 ルイスは、カリーナに聞きたいことがあってここまで来た。

 どうしてこんなことをしたのか。グレンのことが好きだったのか。

 その答えを、カリーナの口から聞きたかったのだ。

 だが、もう。今にも泣きだしそうなカリーナを前にして、そんな質問を投げかける気はなくなっていた。


 カリーナは、嘘をついてまで手に入れようとするほど、グレンのことが好きで。

 けれどグレンは、カリーナの気持ちにはこれっぽっちも気が付いていない。

 ここまでしても気が付いてもらえないこと、自分を見てもらえないことに、カリーナはひどく傷ついている。

 二人が話す様子を見て、ルイスはそう理解した。


「グレン様」


 ルイスは、グレンとカリーナのあいだにそっと割り込む。

 彼の胸に手をおくと、ゆるゆると首を横に振った。

 もうやめてあげて、そう言うかのように。


「理由がなんであれ、彼女はこれから罰を受けることになります。だから、もう……。ここでの質問は、やめておきましょう」

「あ、ああ……。けど、ルイス。きみも、聞きたいことがあったんじゃ」

「私のほうはもういいんです」

「そう、なのか……?」


 ルイスはグレンに向かってほほ笑む。

 本当に用は済んだのだろうか、と思ったのだろう。グレンはルイスを気遣う様子を見せていたが、ルイス自身の言葉を優先して、引き下がってくれた。

 番二人のやりとりを見て、カリーナは肩を震わせ……くつくつと、笑い始める。


「ははっ……! あははっ……」

「カリーナ様?」

「見せつけてくれるじゃない。番様の余裕ってやつ? 私は大丈夫ですーもうやめてあげてくださいーって?」

「そんな、つもりじゃ」

「違わないでしょ! グレンに全く相手されない私に、同情したのよね? そんなのいらない。いいわ、言ってやるわよ!」


 カリーナは、その小さな体で、すう、と息を吸った。


「私は、グレンのことが好きだった! 番を騙ってまで奪い取ろうとするほどに! 私こそが番だと主張すれば、ルイスとの婚約を解消させて、自分のものにできると思ったのよ!」


 カリーナの叫びに驚いたのは、グレンだった。


「俺の、ことが……? だが、そんな嘘をついても、きみ自身の番が現れたら……」

「関係ないわよそんなの! 私は、グレンのことが好き! ずっと好きだった! 私の気持ちは、番なんかに消されたりしない!」


 カリーナが生まれたオールステット家は、長く続く獣人家系だ。

 数百年前、セリティエ王国の王妃として、獣人の女性が選ばれたことをきっかけに、この国では獣人と人間が共存できるようになった。

 彼らは、番だった。

 その王妃の孫娘が降嫁してきたことで力を強め、四大公爵家にまで上り詰めたのがオールステット家。

 数代前に獣人の血が入ったばかりのアルバーン公爵家とは違い、オールステット家は、この国を象徴するような、歴史ある獣人家系なのである。

 

 しかし、獣人家系の存続はそうたやすいことではない。

 結婚後に番が見つかり、配偶者と愛する人が別となった代もあった。

 まだ子供がいなかったのあれば、番である愛人の子が家を継ぐことも。

 夫婦ともに生涯にわたって番は見つからず、平和に過ごした者もいる。

 オールステット家の獣人は、結婚後のトラブル回避のため、嗅覚の発現後、諸国を旅して番を探すことも多い。

 カリーナの両親は獣人だが、やはり正式に婚姻を結ぶ前に旅に出ている。

 その結果、出会う可能性のある範囲に番はいないとされて。

 互いが番ではないことを知りながら結婚し、それなりに上手くやっている。


 そんな家に生まれたカリーナだから、獣人の番のことは、よく知っていた。

 長く続くカリーナの家系でも、早くに番を見つけて円満に結婚した者のほうがずっと少ないのだ。

 カリーナの両親のように、番が見つかることすらない者が多数派だ。

 番に出会えたとしても既に婚姻後で、家庭の形が歪になることことも少なくない。

 だからこそ、番がすぐそばにいた幼馴染だったグレンのケースなんて、ありえない、夢物語だと感じる。

 番の呪いに振り回されてきた家系だからこそ、番というシステムに反発したくなる。

 自分だけは大丈夫だと、思いたくなる。


 カリーナの赤い瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。


「私は絶対、番の呪いなんかに負けたりしないんだから! だから……私のことを見てよ、グレン……。絶対絶対、あなたのことを忘れたり、しないから。番の呪いに、勝ってみせるから」

「カリーナ……」


 もう止まらなくなり、わあわあと泣き出したカリーナは、控えていた兵に連行されていく。

 彼女はこれから、裁きを受けるのだろう。

 筆頭公爵家の者が、愛する人を手に入れたいから、という身勝手な理由で番を騙ったことへの、裁きを。


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