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 ルイスが初めてグレンに会ったのは、5歳ほどのころだったろうか。

 仕事の都合でアルバーン公爵邸を訪れた親に連れられ、ルイスはグレンに出会った。


 セリティエ王国も、他国と同じように、獣人と人間の争いが起きていた時期がある。

 だが、数百年前。状況は変わった。当時の王が、獣人の女性と結婚したのだ。

 妃となった人は大変有能で、王国の発展に多大な貢献をした。

 彼女の働きの甲斐もあり、この国では人間と獣人が共存できるようになったのである。


 しかし、2つの種族が良好な関係を築くセリティエ王国においても、獣人の人口は少ない。

 獣人たちが、番というシステムを有しているからだ。

 獣人は身体能力に優れ、見目もよい者が多い。

 そのため、特に男性の獣人は女性の憧れの的となるのだが、結婚相手としてどうかというと、また別の話だった。

 番を見つけた途端に捨てられる可能性があるとなると、獣人と家庭を作ることを避けたがる者も多いのである。

 結婚し、子を持つ者が少なければ、人口はどうしても限られる。

 そんなことだから、ルイスが初めてしっかり話した獣人は、グレンだったのである。


「ルイス、です。ルイス・エアハート……」


 少々内気なところのあったルイスは、父のかげに隠れながらも、おそるおそる、といった様子で公爵家の嫡男・グレンに挨拶をする。

 おどおどしながら覗き見た彼には、たしかに、人間とは違う耳がついていた。


 銀の髪に、青い瞳。

 精巧に作られた人形や絵画を思わせる、美しい男の子。

 まだ幼かった彼は、美少年のようにも、美少女のようにも見えた。

 年端のいかないルイスでも、彼の見目のよさがわかったぐらいだ。

 王子様のようでもあり、お姫様みたいでもある彼に、ぽうっとしてしまった。

 なんだか恥ずかしくて、まっすぐに彼を見ることができない。

 親の後ろに隠れたままのルイスに、グレンは笑って手を差し伸べてくれた。

 

 

 当時のグレンは、公爵家の嫡男とは思えないほどにやんちゃで。

 その高い身体能力を生かして木に登ったり、5歳ほどとは思えない足取りで庭を駆けまわったりと、それはもう活発だった。

 どちらかといえば大人しいほうだったルイスは、そんな彼についていくことができず。

 木の下でおろおろしたり、グレンと一緒に走ろうとして転んだりしていた。

 しばらくそうしているうちに、グレンもようやく、自分とルイスの身体能力に差があることに気が付いたようで。

 木からおりてくると、


「ルイスはなにがしたい?」


 と聞いてくれた。

 内心ほっとしながらも、ルイスは「えっと」と言葉につまる。

 当時のルイスはまだ、自分たちの身分の差をはっきりと理解できる年齢ではなかった。

 けれど、初めて会った獣人で、美少女みたいな美少年で、「公爵家」の人で。

 そんな少年に近づかれ、じいっと見つめられたものだから、照れや緊張で言葉が出なくなってしまった。

 黙ってしまったルイスと、ルイスの顔を覗き込むグレン。

 ルイスが違う方向を向くと、グレンがそちらに移動する。

 そんなことを繰り返しているうちに、二人はぐるぐると回り始め、外から見ればそういう遊びをしているかのような状態になっていた。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう!


 初対面の男の子とのぐるぐる追いかけっこに、ルイスは大混乱である。

 そんなとき、ざあっと強い風が吹き、木々を揺らした。

 木の揺れる音に反応して、グレンの耳がぴこぴこと動く。


「……! みみ……」


 彼の頭についた、髪色によく似た白い耳。

 ぴんと立ったそれは、音を拾おうとして向きを変える。

 初めて見る光景を前に、ルイスは珍しそうに彼の耳を眺めてしまった。

 犬好きなルイスにとって、狼のようなグレンの耳が可愛いものにも見えていた。

 あとになって思えば、失礼なことだったかもしれない。

 しかしグレンは、ルイスの反応に怒るどころか、気をよくして。


「触ってみる?」


 にかっと笑って、そんなことを言ってくれた。


「……いいの?」

「うん」


 グレンが頷いてくれたから、ルイスはそっと彼の耳に手を伸ばす。


「ふわふわ……!」


 白い耳は、見た目通りにふわふわで、柔らかくて。

 ルイスはその感触に夢中になって触り続けてしまう。

 当然、獣人の耳にも触覚はある。

 触っていいとは言ったものの、耳を触られ続けたグレンはむずむずしてしまって。


「ルイス、くすぐったいよ」


 耐えきれずに笑うと、ルイスからも笑顔がこぼれた。


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