表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

11

 引っ越しの翌日から、ルイスの花嫁修業は始まった。

 もし、グレンの番が平民出身の者であったなら、「庶民の出なのだから仕方がない」と多めに見てもらえたかもしれない。

 実際、そういった家も存在する。

 番が平民であった場合、すぐに高位貴族の水準まで育てることはできないからだ。

 しかし、ルイスは子爵家のご令嬢で、グレンの幼馴染だ。

 生まれを理由にして、奥様教育から逃げることはできない。

 ルイスも、そこは覚悟のうえでグレンとの婚約を結んでいる。




「ルイス。今日は、俺は近くにいることはできないが……応援しているよ。もしつらいことがあれば、すぐに頼ってくれ」

「ありがとうございます、グレン様」


 ルイスも含めた家族揃っての朝食を終えた二人は、グレンの私室で過ごしていた。

 今日のグレンは、仕事の都合で、夕方まで公爵邸に戻ってこない。

 出発までの短いときであっても、彼はルイスとの時間を作った。

 彼女は今日から、厳しい教育を受けることになる。

 そんなルイスを支える意思を、はっきりと彼女に示したのだ。


 グレンの腕の中で、ルイスは静かに目を閉じる。


 ずっと、彼とこうすることを望んでいた。

 叶わない夢だと思っていた。諦めていた。

 けれど、今、こうして抱き合うことができている。


 頑張る理由は、それで十分だ。


「グレン様」


 大好きな彼の名前を呼んで、顔をあげる。

 グレンの胸に手をおいて少し背伸びすると、ルイスの意図を察した彼も、身をかがめてくれた。

 小柄なルイスと、長身のグレン。立ったままキスをするには、互いの協力が必要となるのだ。

 二人は、そっと口づけを交わす。

 それぞれこれから予定があるから、軽く触れ合わせただけだ。

 たったそれだけの行為でも、ルイスを安心させてくれる。


「……いってらっしゃい、グレン様」


 教育初日だというのに、グレンは不在なのだ。

 きっと、本当は心細いはずだ。

 なのにルイスは、弱音を吐くこともなく、微笑んで、グレンを送り出してくれる。

 健気な番の頭を撫でると、グレンはもう一度彼女にキスを落としてから、仕事に向かった。




 初日は、現在のルイスが、各分野にてどのくらいの力を持っているのかが試された。

 公爵家の面々を育て上げた講師たちと、現当主の妻である、グレンの母。

 そんなメンバーの前で、ルイスはダンス、テーブルマナー、教養など、様々なテストを受けていく。

 緊張してしまい、本来の力を出し切れなかった部分もあるが、それも含めて今のルイスの実力で、彼女の精一杯だった。

 彼らからのルイスに対する評価は、「子爵家の娘としては上出来。しかし筆頭公爵家の嫁としてはまだまだ。更なる教育が必要」であった。

 おおむね、ルイス本人やエアハート子爵家の者たちが思っていた通りの結果だ。


「グレンの番のあなたを、私は大いに歓迎しています。しかし、それはそれ。これはこれ。アルバーン公爵家の当主の妻としてふさわしい水準まで、きっちり指導いたします。覚悟はいいかしら」

「はい。グレン様の隣に立てるよう、精一杯取り組ませていただきます。ご指導のほど、よろしくお願いします」

 

 グレンの母の言葉に、ルイスは力強く頷き、深くお辞儀をする。

 迷いのない返事に、義母となる人も満足そうだった。

 公爵家当主の妻として、厳しい表情をしていた義母の様子が変わる。


「……私も最初は苦労したから、あなたの気持ちも、少しはわかるつもりだわ。一緒に乗り越えていきましょう。あなたなら、きっと、大丈夫よ」


 優しく、穏やかな口調だった。

 グレンの父は獣人だが、母親は人間だ。

 運のいいことに、グレンの父は早い段階で番を見つけ、結婚し、家庭を築いていた。

 その相手が、他国の貴族階級出身の彼女である。

 貴族ではあったが、爵位はそう高くなく。

 さらに他国の人間ともなると、セリティエ王国に合わせた学びなおしが必要だった。

 筆頭公爵家の妻、番として選ばれた女として、相当な叩き上げを行ったのだ。

 今のルイスと似た立場にある義母は、ルイスに必要な教育を施しながらも、彼女を支えるつもりだった。



 グレンの家族はみな、グレンの初恋の人で幼馴染のルイスが番であったことを、歓迎している。

 教育で手を抜く気はないが、グレンの父も母も、息子の番嫁を可愛がる気満々であった。

 指導すべきところはしっかり指導するが、可愛がるときは可愛がる。

 それも、家族総出で。

 厳しさと、愛情。その両方を一身に受けながら、ルイスは新しい生活を始めていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ