8
グレンとルイスが、
「私、頑張りますね」
「ああ。俺も、きみを支えるから」
「グレン様……」
「ルイス……」
と、抱き合いながら、二人の世界に入り込んでいたころ。
開け放たれたドアの陰では、二人の男女がひそひそと話していた。
「離れないわね、あの男」
「邪魔だね」
「自分の番だからって、このまま独り占めするつもりなのかしら?」
「独占欲大爆発厄介男。……まあ、わからなくもないけど」
「もう、声をかけてしまってもいいんじゃないかしら?」
「それだと、義姉さんが可哀そうじゃない?」
彼らは、次期当主であるグレンに対して、辛辣な言葉を向ける。
さらに覗き見ともなると、そこらの使用人などにできることではない。
こそこそとする二人の耳には、グレンによく似た狼のような耳が生えている。
獣人女性の名は、ミリィ・アルバーン。16歳。
さらさらロングの黒髪に、赤い瞳を持つ女性だ。
女性としては背の高いほうで、小動物のようなルイスとは違い、凛とした顔立ちをしている。
狼のような耳は白っぽく、銀髪と白耳の組み合わせのグレンよりも、獣人であることがわかりやすい。
男性のほうは、クラーク・アルバーン。15歳。
グレンと同じ銀髪碧眼に白い耳を有しているが、彼とは雰囲気が異なる。
グレンはややワイルド系だが、クラークは、どちらかといえば可愛い系統。
このまま成長すれば、甘い顔立ちの男性になりそうだ。
彼らは、グレンの弟妹だった。
ただの人間であるルイスはまだ、彼らの存在に気が付いていない。
しかし聴覚も嗅覚もいいグレンは、弟妹が自分たちを覗き見ていることに気が付いていた。
だが、そちらには目を向けない。
どうした、と声をかけることもない。
グレンは――兄の番に興味津々な二人に対して、邪魔だ、どっか行け、ぐらいに思っていた。
ミリィとクラークも、グレンが自分たちに気が付きながら放置していることを理解しているので、さらにグレンへのあたりが強くなる。
「この家で暮らしていくのに、お義姉さまと関わるのは自分だけでいいとでも思っているのかしら」
「それって本当にルイス義姉さんのためといえるのかな? 味方は多いほうがいいと思うけどね」
「嫌ね、視野の狭い男は」
「独占欲が強すぎて、いつか愛想を尽かされそう」
「獣人のお兄様にとっては唯一の人でも、人間のお義姉様は他の人だって選べること、わかってないんでしょうね」
「僕、不安になってきたよ」
小声ではあるが、グレンには全て聞こえている。
流石に渋い顔になったグレンの耳が、音を拾おうとして動くものだから、ルイスも彼の様子がおかしいことに気が付く。
「グレン様? どうかしましたか?」
「あー……。いや……なんでも……」
「でも、お耳が……」
ルイスは、彼の耳が示していたほうへ視線をやる。
そこには、ドアの陰に半分身体を隠しながらも、ルイスが気が付いてくれた喜びでぱあっと笑顔を見せるミリィと、ひらひらと手を振るクラークの姿があった。
――み、見られてた!?
二人きりだと思い、グレンにぴっとりとくっついていたらこれである。
ルイスは、
「気が付いていたなら、言ってください!」
と、涙目でグレンに抗議した。