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 アルバーン公爵家の一室の広いベッドに、くったりと横たわる女性が一人。

 グレンとの交わりを終えたルイスだ。

 獣人であるグレンは、普通の男性よりも体力があり、まあ色々と旺盛である。

 そんなグレンと昨夜、今朝と続けて身体を重ねたものだから、ルイスはもうへろへろだ。


 熱い一夜の影響で、ルイスの起床時間は遅めだった。

 そこからさらに時間が経過した今、すでにお昼時になっていた。

 思えば、昨日の夕方ごろにアップルパイなどの焼き菓子を口にしたのが最後で、それ以降はなにも食べていない。

 ルイスのお腹は、きゅるきゅると音をたてた。


 ベッドから離れて身なりを整えていたグレンの耳は、しっかりとその音をキャッチする。

 流石は獣人、といったところだろうか。

 申し訳なさそうにベッドまでやってきた彼のシャツのボタンは、半分ほどあいている。


「……俺に付き合わせてしまって、本当にごめん。今、使用人に昼食を持ってくるよう頼むから」

「……はい」


 元はといえば、彼に迫ったのもルイス。

 人間の女性である彼女を気遣って、行為を中断しようとした彼を引き留めたのも、ルイス。

 なので、グレンはなにも悪くないのだが、彼は自分の体力に付き合わせてしまったと、しゅんと眉を下げた。

 白い耳など、垂れるを通り越してぺったりとしている。

 ルイスだって、あなたは悪くないと思っているのだが、もう体力も気力もなく。

 さらにすっかりお腹もすいてしまったものだから、力なく微笑むことしかできなかった。


 身なりを整え、情事の痕跡を消したグレン。

 彼は二人分の昼食を部屋まで持ってくるよう、使用人に指示を出した。

 ルイスがやってきたのは、昨日の明るい時間帯。二人は、グレンの私室で一夜をともにして、昼になった今も一緒にいる。

 グレンの私室でなにがあったのかは、使用人も理解しているだろう。

 しかし、余計な口を出すことはなく、グレンの指示に従った。


 グレンのおかげで、ルイスはようやく食事にありつくことができた。

 ちなみに、ついでに服も用意してもらっており、ルイスは動きやすい簡素なワンピースに身を包んでいる。

 せっかくの昼食をありがたくいただきたいところだったが、彼女は食事を進めることなく、戸惑っていた。


「グレン様。昼食を用意していただけたことは、ありがたいのですが……。これは……?」

「え? 大変かと思って……」


 グレンの私室におかれた二人掛けの椅子に、並んで座り。

 彼は、当然のように、スプーンをルイスの口に向けて運び、食事を差し出していた。

 いわゆる「あーん」である。

 たしかに体力は相当に削られたし、身体もところどころ痛む。

 だが、自分で食事をとれないほど弱ってはいない。

 その旨を伝えると、グレンは「……嫌か?」と、ちょっと首を傾けながら、寂しげにそう言った。


「んっ……。んんっ……。嫌では、ありませんが……」


 その姿が、まるで飼い主に叱られたあと、そっと近づいてくる大型犬のようで。

 自分よりもずっと身長が高く、筋肉もしっかりついた逞しい男性のことを、可愛い、と思ってしまった。

 そんな顔を、そんな仕草をされたら、強く拒絶することはできない。

 

「じゃあ……いいか?」

「はい……」


 控えめにスプーンを差し出すグレンの可愛さといじらしさに負け、ルイスは「あーん」を受け入れた。


 これが、獣人と、その番……!


 ルイスはそれなりに衝撃を受けているが、受け入れてもらえたグレンはもうにっこにこである。

 これも美味しいよ、次はなにが食べたい? と、上機嫌にスプーンやフォークを動かし続ける。

 二人は仲のいい幼馴染だったから、グレンは元々、ルイスに対して優しかった。

 しかし、ここまでではない。

 番だとわかった途端に、ルイスを撫で、キスをし、手ずから食事を与える。

 こんなにも愛され、甘やかされることはなかった。

 彼のあまりの変わりっぷりに、「番を見つけた獣人って、すごいのね……」と思うルイスであった。


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