乙女の情事
あいつ一体なんなの?
私の……じゃなかった俺のなんなの?
俺の正体が男だと知っているのにキスをした。
ホモなの?
君のことをずっと見ていたってストーカーなの?
心の中が、すっかり迷える乙女になってしまった俺は、ベッドで昼間のスナップショットを思い出し、じたばたしていた。
恥ずかしすぎるし怖すぎる。
イケメンだからいいかなんて少し現金なことを考えている自分に嫌気が差している。
「おーい。部屋に入っていいか?」
「は、はい!」
ヒロイスが酒場の部屋にずかずか入ってくる。
「建前は乙女なのに……」
「だけど、本当はおじさんだよね?」
ぐさっ。
「キスしたこと気にしてるの?ふふふ」
「な、な、な……何を言う!」
「かわいい」
「お、男同士でしょうがー!」
「だけど、体は僕は男で君は女だよ。男と女がベッドの上でやることと言えば、わかってるよね」
ベッドの横に彼が座っていることに気が付いた。
「この体は純潔なんだぞ」
「知ってる。ステータスを見ればわかる」
「!?」
「言うのを忘れてたね。僕も転生民なんだ。だから、日置籠郎君のことはよーく知っている」
「知っているならなぜ」
「前から、君のことを好きだったって言ってるでしょ。男だろうと女だろうと関係ない。君のことが本当に好きなんだ」
「俺は……私は……むぎゃあ」
それから一晩、布団が跳ね、ベッドが軋む音が鳴り響いた。
ステータスを見る。
肉体:経験済
なんてことだ。
私は女として経験を積んでしまった。
しかも、こんな行きずりの男と。
反乱軍としては、きっと、私との子が生まれれば、王国と戦う大義名分を得られることだろう。
だから、愛しているだとか好きだとか適当な嘘でたぶらかし、私を抱いたに違いない。
なんてひどいやつなんだ。
だけど、目が妙に輝いていて、何より優しかった。
まるで、本当に私のことが好きであるかのように。
いや、騙されてはいけない。
油断ならない相手であることには違いないんだ。
ブラシで長い髪をとかしつつ、女の身支度をしながら、そんなことを考えていた。
「お、おはよう」
酒場のマスターが目を合わせてくれない。
気まずい。
「お前も女になったんだな」
!!
昨晩の情事は周囲に当たり前のように知られていた。