父と娘
父、ディアール卿は、口うるさい人物として貴族から嫌われている人物のようだった。
貴族が贅沢をするばかりで、庶民に重税を課しては、農業や商業の発展を阻害するのはダメだと主張していたのだ。
正直、元々、前世では凡夫の息子でニートであった身としては、共感できることだらけだ。
だが、ハイソサエティーにおいては、ただの煙たい説教のように受け止められているようだった。
父は行政の実務の地味な仕事をするべく、コツコツと寝る間も惜しんで働いているようで、娘である自分が会える機会も限られていた。
あまりに仕事中心人間で、子育て方針は放任主義のようで、そりゃあ、娘もわがままに育つよねといいうわけだ。
その娘の奔放っぷりっから、父も余計に嫌われるという悪循環が巡りに巡っていた。
俺は、父の仕事の邪魔をしないよう慎み深く生きることにした。
転生して、1週間もしないうちに「あなた変わったわね」「人が変わったみたい」と周囲から言われることになった。
そりゃあ、まあ、本当に人が変わったのだから当たり前である。
元々、ニートな僕は引っ込み思案で自己主張がない。
だけど、ところどころに頑固でオタク気質で、こだわりがある。
それが、なにがどう巡ってか、おしとやかで、それでいて芯があって、凛としている。
そんな、好転した女性像の評価に結び付いたのだ。
そんなばかな。
俺は苦笑するしかなかった。
僕が転生する前の、シャルロッテお嬢様は、お茶会や朗読会のような貴族的な娯楽にも興味があったようだったが、僕はもともとは、オタク気質な男なもので、父親の仕事についても興味があった。
都市開発や農地開墾、商業の自由化など、まるで、ニートだった頃にやりこんだ経営シミュレーションゲームみたいなことを計画しているので、ついつい面白く感じて、父の書斎にこもっては資料を読み漁っていた。
そして、自分だったら、こうやるのになんて。
現代の叡智をもってすれば、改善点があるのではないかと思いにふけった。
ははっ。
こんなことをしても無駄なのはわかっている。
父の仕事を継ぐのは兄レモディエールだ。
こんな中世の男女の役割分担が決まっている世界では、俺は子どもを産み育てることだけが求められ、男の仕事になんてものは手を出せるはずがないのだ。
待てよ。
子供を産むってことは男とあんなことやこんなことをするってことだよね。
いろいろとこわすぎるんだけど……。