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おはようございます お嬢様

まどろみに体を許しているとレースカーテンがさっと開くような音がした。


小鳥がさえずる歌が聞こえる。


嗚呼、今日も、部屋に籠ってパソコンと、にらめっこする一日が始まるんだ。


ブワっと花のいい香りがした。


ラベンダーにイランイランの香りが混ざっているような。


母親がアロマテラピーにはまっていたので覚えた香りだ。


「お嬢様。起床の時間でございます」


お嬢様。お嬢様か。


さて、パソコンをシャットダウンし忘れたかな?


女もすなる乙女ゲーをすなる時代を男もしてみむとするなり。


そんなノリで何か心から欠落したものを埋め合わせようと買ってみたんだっけか。


なにせ、俺はニートだから、普段こなすゲームもフリーゲームや基本無料のアプリが中心。


お小遣いも限られていて、5000円もする乙女ゲーを買うなどというのは一大イベントだった。


そんな乙女ゲームが俺に語りかけてくる。


マウスとキーボードはどこだ。


手元をさぐるが見当たらない。


「お嬢様!早く起きないと、朝の朗読会に遅れてしまいますよ」


耳元で大声で聞こえたものだから、ばっと目覚める。


周囲を見渡すとフリルと花柄で彩られた部屋。


そう。まるでファンタジーのお嬢様の部屋のよう。


俺を呼んだのは赤髪の美少女。


「あ、あんたは」


「シャルロッテお嬢様。早くお起きになられてください。私が叱られます」


シャルロッテ。


どうやら、それが俺の名前らしい。


そうだ。あの時、トラックにひかれた俺は。


まさか、俺は乙女ゲームの世界に行ってしまったのか?


バカな。


そんなことあってなるものか。


だが、妙に肩がこる。


それが、胸のせいだというのに気づくのに時間はかからなかった。


女になっているだと!?


いや、それはお嬢様と呼ばれている時点で気づくべきだった。


こうなってしまった以上は、お股を確認するしか……。


「お嬢様!早くしてください」


「はいはーい。わかりました」


あまりにすごんだ顔でせかされるので、女体を堪能する間もなく着替えさせられ、そそくさと朗読会なるものが開かれている部屋に行かされた。


「青い空、白い雲、嗚呼、騎士様。あなたに待ち焦がれ、恋している私は小鳥のようにあなたの元へ飛んでいきたい」


どうも、吟遊詩人が詠む恋愛騎士道物語を周囲のご令嬢たちは朗読しているようだ。


「あなたに逢えないなら、嗚呼、いっそのこと死んでしまいたい」


そうだ。彼女に会えない今生の世ならば、生きている意味がない。


そう思ってふらふら歩いていたら、トラックにはねられたんだっけ。


そんな俺が、どうしてこんなところでお嬢様然としてのほほんと過ごしているのだろうか。

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