07ダークエルフ
光ある場所に影あり。
白は黒がなければ、ただの白だ。
影があるから光は輝けるのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
流石に買った俵の量が多かったので台車を購入した。
もちろん、引くのはアリエスの役目だ。
「……お前のものだろ、買ったのは」
「面倒だからやれ」
ジト目で見られても俺は台車を引く係を変わらないぞ。
「ん? 何だ、あれ……」
その途中で気になる物が目に入ったのでアリエスを置いて、木々の裏側に入った。人間の街で言うところの路地裏か。
太陽の光が届かずに薄暗かったが、それが奴らをのさばらせていたのだろう。
その店の前には一人の少女が座っていた。
白髪赤眼、褐色肌だが耳の先が尖っている。
エルフには間違いないが、ダークエルフってやつだろう。
ただその、ダークエルフの少女は鉄の首輪と両手両足を鎖で繋がれていた。
死んだ魚の様な目をしている。
未来の一切を諦めた様な目だ。
「奴隷をお望みですか?」
「奴隷……?」
エルフの男が話しかけて来た。
壮年っぽい見た目だ。
この店の店主なのは間違いないだろう。
「どうしてこの子は奴隷なんだ?」
「それは簡単ですよ。彼女が褐色だからです」
「それだけか?」
「ええ。ダークエルフは大昔、邪神と契約を交わしてエルフ族を裏切った恥知らず共の子孫なんですよ。その者達が我々と同じ身分でいる事など許されない。この小娘が奴隷になるのは当然の報いなんですよ」
「……ふうん」
店の前に置かれた看板には金貨百枚と書かれていた。
彼女の値段だろう。
「お前、名前は?」
「……ぁ」
「名前は何だ?」
「………ぅ…ルナ……」
「ルナ。お前は生きたいか?」
「…………生き……るぅ……?」
「そうだ。さっさと答えろ」
「生き、る……!」
声に力が入った気がした。
少しだけ、その目にも生気が戻る。
それだけで答えを聞けた様なものだ。
「こいつ俺が貰うわ」
グイッとルナの腕を持ち上げて、無理矢理立たせた。
その腕は皮と骨しか無いのでは?と思うほどに細かった。
「それはどうも、では金貨百枚になります!」
わざとらしい作り笑顔を浮かべて両手を揉むエルフの男。
だが、何か勘違いしている様だな。
「誰が買うなんて言った?」
「―――――え?」
「俺は貰うと言ったんだ。力尽くで奪わせてもらうぞ」
“傲慢”によって、大気を支配する。
この奴隷商館を中心にして暴嵐を巻き起こし、破壊した。
暴嵐はさらに周囲の木々まで吹き飛ばして、ようやく止んだ。
騒ぎを聞きつけてアリエスがやって来た。
「ちょっ、何やってるんだお前!」
「カッカッカッ!」
風の刃でルナの首輪や鎖を破壊して、脇に抱えて走り出す。
アリエスも慌てて台車を引いて追って来た。
「このっ、なんて事をしてくれたんだ!」
「さっさと走らねえと殺されるぞー」
「え? …………ひいっ!?」
アリエスは後ろを見て、顔を青ざめた。
エルフの大軍勢が殺気丸出しで後を追って来たのだ。
流石にあの数のエルフに襲われればどうなるか、アリエスは想像したのだろう。
必死に荷台を引いて走った。
「あ、の……!」
「黙って付いて来い」
「…………っ」
それだけ言って、家に着くまで口を閉ざした。
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