05勇者が住み着いてるんだが
村人から家を貰って一週間が経った。
この家が使われなくなってから、何十年も経っているはずなのに埃も溜っておらず清潔さが保たれていた。視ると半永久的な清掃魔術がかかっており、汚れやほこりが溜らない様になっていた。
木造の造りだが、キッチンや風呂があるなど、かなり日本の住宅っぽい。しかも縁側に和室まであった。
この家に来てすぐに魔法使いとやらは俺と同じ、転生者なのではないか?と疑った。この家にはすでに魔法使いが住んでいた痕跡は何も残っていなかったので、その疑問を解消する術は何もなかった。
それでも生活するには不便は一つもない。
庭にはハンモックが備え付いていて、昼はそこで寝る事も出来る。
最高の暮らしだった。
「イサミ! ご飯だぞ!」
――――そう、こいつがいなければ。
「……なあ、何でお前いるの?」
「なぁ!? この前も話しただろ!」
「いや、忘れた」
「はあ!?」
全く、煩い奴だな。
アリエスは前の様な鎧や剣などは纏っておらず、軽装にエプロンを付けて片手にはおたまを持っている。
どこの主婦だよ、ってツッコミたくなるがもう慣れた。
「私は勇者だからな、お前の監視をするために残ったのだ」
「いや、別に結構ですけど」
「拒否できる権利などないのだ!!」
「ええー……」
暴論だ。
「私が嘘の報告をしなければ、本当なら勇者協会の全勢力がお前を殺すために襲ってくるのだぞ!」
そう。アリエスは湯者協会とやらから派遣された勇者で、そこへの報告を偽った様なのだ。
本当は【新たな魔王が発生。大罪全てを宿している。剣の勇者、敗北】なのだが、【オークロードの討伐を完了。新たに色欲の魔王アスモデウスの痕跡を発見した。随時、追跡と監視を進める】と報告したらしい。
しかも、追跡は「しばらくの間は連絡を取る事が出来ない」の隠語らしく、これで勇者協会から解放されたとの事だ。
「別に俺はそれでもいいけど……」
「ダメだ! 勇者協会の全勢力なら、お前など一瞬で葬られてしまうぞ!」
「だって、お前みたいなのがたくさんいる感じだろ? お前が何人いても、俺は殺られる気はしねえけどな」
「くっ……!」
何も言い返せないのが悔しいのか、グギギ……と歯を食いしばって、ちょっとおたまを握る拳に力が入りバキッと割れた。
だが、何かを思い出した様で自身満々の顔になった。
「だ、だが、勇者最強の星の勇者様は私などとは格が違うぞ!」
「星の勇者?」
「ああ! 歴史上最強の勇者と呼ばれていて、たった一人で勇者協会とやり合ってもいいぐらいの実力を持っているのだ!」
「え、それじゃあ勇者はその人一人でも良くないか?」
そんなに強い勇者なら、他が足手まといになる心配がある。
なら一人で全てやった方が早そうだが……。
「星の勇者様はサボり癖があるからな! あの方が逃げたら、私達がその仕事をやらねばらないないという、大切な仕事があるのだ!」
「で、お前もここでサボってる……と」
「だから違う!!!」
ビュンッ、と折れたおたまを投げて来たので、すっと避ける。
「大体、お前が家事を何一つとしてしないから私がやっているのだろう!」
「いつも助かってるよありがとうアリエス愛してる」
家事はアリエスが勝手にやってるだけだが、一応感謝くらいはしている。
ありのままの本心(笑)を伝えた。
だが、一週間も一緒に過ごしている仲だ。
冗談くらいは分かってくれると思っていたのだが――――。
「なっ、愛してるって、おま、お前……! そんな……!」
――――なんか、めっちゃ照れてる。
何だコイツ、こんな乙女だったか?
……まあ、いっか。
「んじゃ、飯にするかー」
「だって、私達は勇者と魔王で……!」
一人でコントをしているアリエスを無視して、食卓テーブルに向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人で食卓を囲む。
小さな机だが、頑張れば四人くらいなら座れそうだ。
今日の昼食は肉の入ったスープだ。
アリエスが作る料理だって、最初は心配だったがかなりの腕前だった。
だが意外に美味だ。おかわりだって、何度も出来る。
でも流石に米が主食だった日本人の俺にとって、米が無い生活は苦痛に感じて来た頃だ。
「そうだ、イサミ。村長から分けてもらった食料がもう尽きたんだが」
「んじゃ、街に買いに行くか」
「え?」
買い出しに行くことになった。
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