02 くっ、殺せ!ってテンプレだけど結構気に入ってる。
転生が実行され、気が付くと森の中に立っていた。
服装はシンプルなシャツとズボンだけで、異世界で違和感のないものになっていた。
それでも車に轢かれた時の感覚は残っていたので、少し不安になりながら自分の手をグーパーして見る。
頭もちゃんとあるか、触って確認するとちゃんとあった。
何の問題も無かった。その時だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
イサミ 十八歳 男
《種族》 魔王
《称号》
・転生者 ・魔王
・七つの大罪を宿し者
《スキル》
・傲慢
・嫉妬
・憤怒
・強欲
・怠惰
・暴食
・色欲
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目の前にゲーム画面の様なものが浮かび上がった。
一目でそれが俺のステータスだと分かった。
最初に注目が行ったのは種族の項目だ。
どうやら俺は“魔王”という種族になってしまったらしい。
と言っても頭に角なんて生えていないし、背中に翼も生えていない。
だが、身体の内から湧き出る力はとんでもないもので、地面を蹴っただけで抉らす事も可能だろう。
そして一つ一つのスキルを確認し終わえ、しばらく森を歩いていると女の悲鳴が聞こえた。
「くっ、殺せ!」
そこには木に紐で吊るされた女騎士がオークに集られていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
豚の頭の肥満体、あれがオークか。イメージ通りの姿だ。
ただ一体だけ特殊な個体がいた。
豪華な装飾が施されたマントを羽織り、白金の鎧と蒼い青龍刀を握っている。
図体も他のオークよりも数倍デカい。
さらには流暢に人間の言葉で話し出した。
「我は色欲の魔王アスモデウス様の弟子、オークロードである!」
誰も聞いていないのに勝手に自己紹介をし出した。
オークロード……。オークの上位種か?
「くっ……。殺せ!」
女騎士は苦渋の表情を浮かべながら叫んだ。
金髪碧眼の女騎士は純白の上等な鎧で身を包んでいるが、その鎧はボロボロだ。オークとの戦闘があったのだろうか、胸当ての部分が半分剥がれている。その下はシャツだったが、大きな乳房がたゆんたゆんと揺れていた。
それを見て、不本意ながら俺はオークと一緒ににやけてしまった。
だが、それも仕方のない事だ。
あのおっぱいは男のロマンだ。
「男を喜ばせる身体をしおって!」
オークロードもにやけ面で言う。
「大人しく、その身を我に捧げるが良い!」
「くうっ……! や、やめろぉおおお!」
オーク自慢の腕力で女騎士の服を裂いた。
大きな果実が露となる。
ゲスな笑みを浮かべて、オーク達は女騎士に手を伸ばし―――――。
「おい、やめとけ」
別に助ける義理なんて無い。
だが、気に入った女を他人に抱かれるのは、あまり気分の良いものではないぞ。
俺の声に反応して、オーク達がこちらを見て来た。
「ナ、何ダ、貴様……! ロード様ニ無礼ダ、ゾ!」
一匹の普通のオークが近寄って来た。
話し方が外国人が話す日本語みたいになっているのは、下級のオークだからだろう。
だが、そのオークは俺の肩に手を置いた。
「五月蠅え」
「ピギャッ」
まるで蠅でも払うかのように、腕を振るった。
オークは腕ごと吹き飛び、潰れて絶命した。
「汚い手で俺に触れるな」
ポンポンと肩を掃う。
オークなんぞに触れられて、俺の肩が穢れてしまった。
その間、女騎士とオーク達は目を見開いて、驚愕をあらわにしている。
「何者だ……!」
「魔王」
俺はただ、そう答えた。
何が気に入らなかったのか、オークロードは憤怒を露にして巨大な威圧感を放つ。
「貴様が、魔王だと……!? 馬鹿にするな! 魔王とは我が色欲のアスモデウス様を含めて、たったの七名しかいない、高貴なる方々の名称! それを貴様如きが名乗るなど、身の程を知れ!」
そんな事を言われてもな……。
俺は七人の魔王を消し飛ばし、そして七つの大罪達をその身に宿している。種族も魔王、称号も魔王。俺が魔王なのは紛れもない事実のはずだが……?
「貴様には色欲の魔王アスモデウス様第一の部下、このオークロード様が鉄槌を下してやろう!」
喧しい雄叫びと共に凄まじい勢いで魔力が上がって行く。
その魔力を使って、オークロードは一つの魔法を放った。
炎が荒れ狂い、嵐の様に逆巻いて俺に向かって来た。
木々を薙ぎ倒し、通った地面を焼いている。
凄まじい威力だ。
「炎熱嵐!」
「“動くな”」
するとピタッと嵐が動きを止めた。
まるでイサミの命令に従ったかのように。
「な、何だ……!? 何をしているのだ! さっさと我の命令に従え! その男を焼き殺せぇえええええ!」
豚がみっともなく喚く。
「“豚共を焼き尽くせ”」
そして、炎の嵐は進路を反転させた。
悲鳴を上げるオーク達を呑み込み、猛威を振るう。
そして、炎の嵐が消えた頃には、そこに生きているのはオークロードだけとなった。
右半身は炭化して、息も絶え絶え。
何とか生きているって感じだ。
「グウウウウゥゥゥ…………!!」
痛みに耐え、睨みながら唸っている。
何故、お前がそんな力を?とでも言いたげだ。
まあ、魔王だと分からせるにはこれが一番いい方法だと思ったんだ。
色欲の能力は、あまり戦闘向けではない。
というかオークには使いたくないタイプの能力だ。
ならば別の魔王の能力を見せたほうが手っ取り早いだろう。
「俺の傲慢の能力は“絶対支配”。森羅万象、万物の事象を支配する」
その言葉でオークロードはハッとする。
ようやく気付いたらしい。
さて。では、さっさと殺そうか。
「“テメェの首をへし折れ”」
オークロードは忠実に命令に従って、自分の首に手をかけた。
自慢の腕力でミシミシと骨が軋む音がする。
その音を聞いて恐怖したのか、オークロードは提案をして来た。
「ま、待て……! と、取引をしよう……!」
「言ってみろ」
「わ、我を助けてくれれば、女をやろう! 若く美しい娘ばかりだ!」
「それは魅力的な提案だな」
若くて美しい娘か。
人間の三大欲求の一つに数えられるくらいだ。
俺にも性欲はある。
若い娘が貰えるとなれば、かなり魅力的と言える。
「だが断る」
ボキッと鈍い音が響いた。
オークロードの首の骨がへし折れた音だ。
「悪いな。欲しい女は自分で手に入れる主義なんだ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや高評価、感想など作者のモチベーションアップに繋がりますのでぜひよろしくお願いいたします。