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第6話 「大輔さん、これ以上おちょくるとヘッドロック以上の制裁を加えますよ」

 家に帰る頃には日が沈み、とっくに暗くなっていった。


「楽しかったですね、祐志さん! 欲しい洋服を買えたので、私は満足です」

「そ、そうだな。ハハハ」

「何か気に障ることでもありましたか?」

「ノープロブレムです」


 金銭感覚の違いをいまだに飲み込めていない。買い物代で十数万がポンと出るってどういうことなんだ。iPh○neの最新機種くらい高いぞ。


「いよいよ、初対面ですね。もしかしてそれで緊張しているんですか?」

「その通りでございます」


 親父のRINEによると、あと十五分もしないうちに自宅に帰ってくるそうだ。白羽母と一緒に。


 俺が一番気にしているのは、白羽母ほかならない。気安くiPh○ne級の軍資金を出せる理由が知りたい。

 あと、円花さんの丁寧な言葉遣いは親譲りなのだろうか。

 だとすると、バリバリのキャリアウーマンかな。金銭感覚の違いは収入が相当高いから、言葉遣いは厳しい教育による結果。そういう勝手な仮説を立ててみる。


「祐志さんのお父様はどのような方なんですか? 会う前に知っておきたくて」

「親父かー。ひとことでいうなら、変人。何考えてるのか半分くらいわからない。なんだろう、大人の皮を被った子供?」

(けな)しているようにしかきこえないんですが……ぜひいいところも知りたいです」

「うーん。でも、変人っていうのは短所であり長所なんだよな。それ以外だと……いざというときに頼りになる。ふだんはおちゃらけてるけど、きちんとしているとまるで別人」

「いいお父様みたいですね」


 もちろん、と俺は答える。いい父親だと思う。ちょっぴり変人だけど。


「それじゃあ、円花さんのお母さんのことも教えてもらえるかな」

「はい。母はとてもしっかりした人です。私の原点だと思います。『一度決めたことは、最後まで貫き通す』────初志貫徹。母の好きな言葉で、私の座右の銘です」

「すごい……自分なんかすぐに諦めがちだから尊敬するよ」


 裏を返せば頑固で諦めが悪いだけですから、と彼女は付け足す。


 ……すぐに諦めがちといったが、訂正させてほしい。来るかもわからない転校生を十年も待ち続けた俺を『頑固で諦めが悪い』といわずにどうする。初志貫徹を体現したような人間じゃないか。


「あとは、これはいうか迷うんですが……」


 遮るように、インターフォンが鳴った。


「悪い、その話はまたいつかの機会に」


 モニターを覗く。アロハシャツにサングラス姿の父と、黒いスーツの女性が映っていた。


「はーい」


『祐志、俺だよ俺。重要な話があるから今すぐ鍵を開けなさい。さもなければマイハニーがピッキングして開け……って痛いからやめてください、わかりました、マイハニーはやめますから、だから暴力は反対と何度も話し合ったじゃないか! やめてくれ、グアアアア!!』


 情報が多すぎる。オレオレ詐欺のようなセリフだなぁと思ったら、いつの間にヘッドロックをかけられている親父。断末魔の叫びにも思える発狂。

 不安に駆られながらも、鍵を開ける。


「はじめまして、成竹祐志くん。私は白羽夏蓮(しらはねかれん)。大輔さんの妻になる人よ。お邪魔するわね」

「こちらこそはじめまして。どうぞこちらへ」


 なお、親父はヘッドロックをかけられたままで、ダウンしかけている状態である。


「いけない、これだと靴が脱げないじゃない」


 夏蓮さんがヘッドロックの思わぬ欠点に気づいたことで、ようやく親父の首は解放された。途端に親父の息が荒くなり、「冗談で技をかける新妻がどこにいる!」と必死に声を荒げた。


「円花さんのお母さんってもともと()()()()()なの?」


 荷物を置き、ふたりが洗面所へいったのを見計らって問いかけた。


「あんな姿はじめてみました。正直、ただの見間違いだと信じたいのですが」


 洗面所から、「大輔さん、これ以上おちょくるとヘッドロック以上の制裁を加えますよ」と冷たい声がきこえた。平謝りする親父の言葉もきこえる。


「人って、知らないだけで色々な一面があるんですね」

「そうだな」


 少しして、俺・円花さん・親父・白羽母が食卓に座る。それぞれの親と子が向かい合うような配置だ。


「わかっているとは思うが、正式に報告しなければならないことがある。父さんと夏蓮さんは結婚することになった。まだ届けは出していない。というのも、ここでふたりの意思を確かめておきたいからだ」


 親父は、真剣な眼差しでこちらを見つめる。ややあって、夏蓮さんに目配せをした。


「大輔さんとはここから遠い場所で知り合ったの。詳しい事情は省くけど、食べ放題の店でやけ食いをしているところを────」

「夏蓮さん、馴れ初めは話すと長くなるから」


 親父が口をはさむ。俺も同じことを思っていた。


「ごめんなさいね。さて、本題に入るわ。裕志くんは笹倉グループというのは聞いたことがあるかしら?」

「笹倉グループというと、あの日本有数の?」

「そうよ。私の元夫が、笹倉グループの人だったの。私は彼のおかげで、就職先は優遇された。資産も相当あって、将来は安泰といってもよかった。でも、私はあの人とは別れた。あの人の何もしないところに腹が立ってしまったの。与えられた資産をさも自分の努力によって得たように語るのがどうも我慢ならなかったの」


 夏蓮さんは、呆れるようなため息をつく。


「それに見かねて、円花が小さい頃に、私は彼に別れることを告げた。揉めに揉めたわね。世間体がどうなの、人としてどうなの……そこでついカッとなって強硬手段に出たのよ。『離婚させてください。条件は、仕事はそのままに、そして資産の一部を私に譲与すること。条件飲まないと命が危ないですよ』と。彼は怯えきっちゃて、この不平等な条件を飲んだのよ。そして離婚が成立。意味わからないでしょ?」

「祐志、俺もよくわかってないから安心してほしい。要は夏蓮さんはすごい人ってことだ」


 ツッコミどころ満載だから半分くらいスルーします。これはただの作り話だと思えば万事解決。元夫がガクブルするレベルってことは、そうとう格闘技が強いのだろう。


 ……さてだ。仮に、元夫が本当に笹倉グループの人だったとしたら。


 円花さんはガチのお嬢様────の血を引いていることになる。俺はそこまで求めてないんですけども。


 次に父の話があり、最後に夏蓮さんがいった。


「────というわけだけど、私たちの婚約に異議を唱えるようなことはないかしら?」

「はい。親父、いや父さんと夏蓮さんが決めたことなので、自分が口出しをする余地はありません」

「円花くんは?」

「私も同じ意見です」

「……よし、これで祐志と円花くんが納得した上での婚約になるな。ちょっと待っていてくれ」


 父は荷物の中から、黒い小箱を取り出す。


 ……なぜか見覚えがあるんですが。


「夏蓮さん、これを受け取ってください」


 パカっと開くと────。


「大輔さん、これはどういうジョークかしら」


 そうである。同じような小箱を、なぜか円花さんが持っていた。きっと取り違えてしまったのだろう。


 ……その後、親父はこっぴどく叱られたのであった。

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