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第52話 「……ゲーム機叩き割ろうか?」

「……どういうことですか、せんぱい」

「そのままの意味だ、三咲ちゃん」


 糸唯ちゃんには、文芸部を真面目にやりたいという想いがある。これまでの俺たちのやり方では、きっと満足させられない。


 だから、部活動のあり方を変えようという話だ。


「突然すぎます! 思いつきでものをいわれても困ります……もちろん、糸唯ちゃんの想いは尊重したいですけど……」


 たしかに、これは思いつきの発言だ。深い考えなどないのでは、といわれれば否定できない。夏に遭遇したことを除けば、出会ってわずか数日。信頼関係も何も築けていない。


 それでも、俺は提案したのだ。


 ぶっちゃけてしまえば、糸唯ちゃんの失望する姿を見るのが耐えられなかった、というのが大きい。つまり、かわいい転校生をないがしろにできなかったってわけだ。


 よくわかっていることだが、自分は超がつくほどの転校生オタク。その本能が、糸唯ちゃんを求めている。下手なことはしたくない。


 ……下心しかないねえ。最低野郎を名乗るにふさわしい。


「三咲ちゃん、糸唯ちゃんとは俺の何倍も深い関係にあるんじゃなかったのか?」


 きのうの発言を掘りかえす。


「そんなこといいましたっけ?」

「確実にいってたな。俺がそのことをツッコんだ記憶がある。俺より大事な人の願いを、三咲ちゃんはスルーするっていうのか?」

「ぐぬぬ……そういわれるとせんぱいに反論できませんね」


 自分の過去の発言に、足をすくわれたというわけだ。発言には責任を持たなくちゃあならない。


「じゃあ、部活改革案には賛成するのか?」

「うーん……」

「ゲームならどこでもできる。ここにこだわる必要はない」

「知っていましたか? ゲームをする楽しさの半分は、ルールを破ってするところにあるんです。背徳感がたまらないんですよ」

「その主張はよく理解できた。それで、結論はどうなんだ」


 三咲ちゃんは、首を傾げたり、うなり声をあげたりしながら悩む。


「糸唯ちゃんを文芸部に入れるのはもちろん賛成ですし、活動を本格化させるのに異論はないですけど……」


 ゲームのことが気になるんです。そんなところだろう。


「三咲ちゃん。悪いおこないをしていれば、いつかは裁きが下るんだ。それが偶然にもいまだった。それだけの話だ。もう、校則違反は控えなくちゃならない」

「はい」

「だから、部活が本格的になってから、ゲームをやめればいいんだ。それだけだ」


 ここで、三咲ちゃんは俺の発言の真意に気づいたようで、若干沈んでいた表情に、明るさが戻っていきつつあった。


「ゆえに、きょうはまだギリセーフってわけだ。最後の締めとして、みんなでゲームをしよう!」


 随分と都合のいい考えだな! 


 自分で考えておきながら、ついツッコみたくなってしまう。


「ん?」


 糸唯ちゃん、困惑。目をぱちくりさせていらっしゃる。


「きょうで区切りをつけるだけのことだ。それ以上もそれ以下もない」

「すみません、ちょっと何をいっているのか」

「つべこべいわない。だまされたと思って、糸唯ちゃんも、学校でやるゲームの愉しさに身を委ねてみようじゃないか。この際、校則のことはいったん忘れよう。うん、それがいい」

「でも、でも……」

「もしバレたとしても、君には責任を負わせないことを約束するから!」

「たぶんそういう問題では……」


 抵抗する糸唯ちゃんだったが、俺の強引な説得(?)のおかげか、途中で諦観の域に達し、ゲームをすることになった。


 転校二日目で、道を踏み外させるような先輩ですみません。ともあれ、おめでとう、糸唯ちゃん。これで君にも〝校則破り〟の称号が与えられたようだね。


 ……不名誉すぎないか、その称号。


「一回だけですよ、一回だけですから……」



 それから三十分が経過した。


「うおおおお! いっけー! そこだ!」

「さすせん(=さすがせんぱい)です! ですが、ここで負けるわけには! 一位の座を奪われたままではいられません!」


 俺と三咲ちゃんが盛り上がっていたのはもちろんのこと。


「おふたりとも、私をお忘れですか?」

「げ、後半からアイテム使って怒涛の追い上げをみせている? わりと近いぞ! いつの間に差が埋まりつつある、だと!?」

「せんぱい、まずいです。糸唯ちゃんに抜かされました」

「いけ! 私! あともう少し!」

「ぐ、負けられない戦いになってきたみたいだな!」


 ……糸唯ちゃんも完全にとりこまれていた。ゲームの魔力には、誰も逆らえないものらしい。


 今回も、いつもと同じく例のレースゲームで盛り上がっていた。最初にきいたところだと、糸唯ちゃんはこの手のゲームは未経験だといっていたのだが……。


「一位ッ! やった〜」


 小さくガッツポーズを決めたのは、なんと糸唯ちゃんだった。


「どうしてなんですか、せんぱい? どうして私が負けたんですか?」

「終わったことでぐずぐずするな。いまさら何をいったって変わらない。負けるべくして負けたんだ……」

「糸唯ちゃんに負けたことじゃありません、せんぱいに負けたことに対してです」


 レースゲームの順位は、以下の通りである。



 一位 葉潤糸唯


 二位 成竹祐志(俺)


 三位 綾崎三咲



 ビリは三咲ちゃんというわけだ。なぜ……。


 それも、これが第一回目ということでもなく、すでに三回終えてのことなのだ。過去三回とも、糸唯ちゃんは同じ順位を保っている。ビギナーズラックとかのレベルじゃないぞこれ。


「わかったよ。だから、悔しい気持ちは俺じゃなくて糸唯ちゃんにぶつけることだ。俺に負けたことで悔しがってないことくらいバレてるぞ」

「せんぱいはお見通しですか、はいはいすごいすごい。わ〜。せんぱいって半端ないですね〜」

「……ゲーム機叩き割ろうか?」

「一難去ってまた一難ですか」

「また一難、の方は自業自得だけどね」



 さてと。


 ゲームを嫌がっていて、なおかつ初心者だったはずの糸唯ちゃんが一位だったのは予想外だった。


 なんだろう、一気に糸唯ちゃんがただ者でない気がしてきた。


 ……訂正。トンネルで体育座りして歌ってた時点でただ者ではないとわかっていたか。それとはニュアンスが変わってくるけれどもね。


 俺たちは、ゲームの天才を前に戦意喪失し、第四回目のレース終了を機に、ゲームのスイッチを切った。


 それから片付けもろもろを済ませると、糸唯ちゃんはさきほどの状態からスイッチを切り替えたかのように、文芸部のことについて話し始めた。

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