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第48話 「さすがはお嬢様」

 三咲ちゃんたちと別れてからも、糸唯ちゃんのことが忘れられそうになかった。


 トンネルで出会ったときにはわからなかった、可愛さ。もはや(とりこ)になっている。


「ただいま〜」

「ゆーくんおかえりなさい!」


 玄関に円花が待ち構えていた。やけに明るいお出迎えである。


「なにか楽しいことでもあったんですか」

「そんないうほどのものでもないよ」

「そうですか」


 その言葉をもらえて一安心だ。


「でも、私ってわかっちゃうんです。ゆーくんの仕草を事細かに分析済ですから」


 円花はあたりを黙って一周歩く。静けさで耳が痛い。


「女、ですよね」

「……」


 やっぱりバレてた。バレてもいいとはいったものの、ここまで即効でバレるとは思っていなかった。


「いい訳とかはいりませんよ? どうせ無駄ですから」

「なあ、それにしても怒りすぎじゃ……」


 瞳は邪悪に侵食されつつあった。段差のせいで、俺は見下ろされるような形になっている。恐怖は二割増しだ。


「怒ってませんよ? あ、ポケットの中にカッターナイフとかホチキスとかスタンガンとか入ってるのは護身用ですから安心してください。

 

 別にゆーくんを傷つけようとか、そんなんじゃありません。再教育をしてあげなきゃいけないと思ったんです。


 これは私の愛情ですよ? 怖がることじゃありません。素直に受け取ればいいんです。拘束はしません。痛い思いをしたくないなら、賢明な選択をするのをお勧めするまでですから。


 おわかりですか?」


 夏休み分のヤンデレが、一気に解放されたような勢いだ。早口でまくしたてていたせいか、半分くらいはききとれていない。それでも、恐るに値する内容だったことは確かだろう。


 確実に怒ってるが、「怒ってる?」なんてきいても無駄だということが明らかになった。


「それで、俺はなにをすればいい?」

「いいえ、特にはありません。今回は」

「次回はなにかあるみたいじゃないか」

「そうです。今回はさながらイエローカードなんです。次回は一発で退場です」


 どうも、猶予を与えてもらえたらしい。


 それなら、次回に食らう罰則はなんだろうか。考える間もなく、円花は続けた。


「次回があれば、例の契約は永久に破棄しようと思っています。なんせあの葉潤糸唯さんと会ったんですよね。どうも転校生で、私たちの高校の生徒らしいじゃないですか」

「やけに詳しいな」

「転校生の噂くらい、すぐ耳に入ります。それも可愛い女子となれば特に」


 自分の想定は甘すぎたようだ。この短時間で、すでに情報を掴んでいるとは。


「さすがはお嬢様」

「褒めてもらえて悪い気はしませんね」


 そういうと、円花はふと気がついて俺に部屋の中まで入るよういった。


 食卓にむかいあうように座り、話を再開する。


「私は変わりました。ゆーくんが他の女の人と仲良くしようと、もう過剰反応することはありません。心が広くなったんです」

「それじゃあ、さっきのはいったい……?」

「心が広くなったといっても、すべてを受け入れるだけの広さはありません」

「というと?」

「彼女は危険なんです」


 トーンがひとつ下がる。深刻なことのように捉えているらしい。


「私の座を、奪おうとしているんです……! ですから、受け入れられないんです」


 口を開けるしかなかった。


「転校生で、可愛くて、従順そうで、しかも私みたいに面倒くさそうなタイプでもない。完全に上位互換ではないですか! あ〜〜っっ!」

「……」


 バタンと机に突っ伏し、円花はうなる。


 いわんとすることはわかった。今の自分なら、理想の転校生のスペックがどちらが上か問われたら糸唯ちゃんと答えかねない。


 まだ出会って一日目、判断を下すには早すぎるかもしれないがそれが現在の正直な感想なのだ。


「ゆーくん! なぜ黙るんです? 私を慰めの言葉をもらえないでしょうか……」

「自ら上位互換とかいわれたらさ、こちらもなんて言葉を返せばいいかわからないよ」

「まずいですね……このまま義妹の座を奪われるなら、闇討ちも考えなくては……」

「なんで義妹なの? スピード離婚とかやめてよ? それにすぐさま命を狙わないで?」

「現実は非情なんです。なにかしら手をうたないと……」


 なんか突っ伏しながら色々で考えてるみたいだよ。まだ出会って一日目で絶望するのははやすぎやしないか?

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