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第39話 「なら、私があんたと付き合ってあげてもいいのよ?」

「お邪魔するわね」


 玄関に騎里子を入れた。もちろん、円花さんの靴たちは靴箱の中にきちんと収納してある。しまわなかったらバレるよな。女子のサイズのローファーとかスニーカーとかが目につけば一発だからな。そこを隠すくらいの配慮はできた。


「いい家じゃない」

「珍しく騎里子が褒めている。ああ、そうだな。きっと明日は季節外れの大雪でも降るんだろうな」

「褒めてないわよ。こんないい家、ユージには不釣り合いすぎると思っただけよ」

「じゃあどこがお似合いなんだ」

「森の中で野宿……?」

「もはやそれはサバイバルなんだよ」

「どんなによくても、せいぜい毒キノコを食ってバッドエンドっていうのがユージの限界じゃないかしら。つまずいて、近くの岩に激突してバッドエンドが一番ありそうね」

「薄情だ」

「薄情呼ばわりされるだけ、日頃のおこないが大変よくないということよ」


 玄関で罵りあうのもあれなので、手洗い等々をやらせ、リビングに招く。二階には円花さんがいるんだ。いかせられるはずもない。


「二階にいってユージの部屋までいきたいわね」


 絶対ダメだ、なんて口を滑らせそうになる。急に大声を張り上げたら、二階に行かせたくない意図がダダ漏れになってしまう。


 あくまで沈着さを保ったまま、こたえる。


「俺の部屋なんて面白みのかけらもないと思うけどな」

「ベッドの下にいかがわしい雑誌とかがありそうだから探してみたいのよね」

「男子高校生をなんだと思ってる」

「ただの変態、ユージはそれ以下よね。いうまでもないのだけれど」

「ならいうなし」

「ユージの前である程度暴言を吐き続けないと体に毒なのよ」

「とっくに毒まみれだ。おかげで残念な人間がひとりできあがった」

「そこまで卑下(ひげ)することはないじゃないの。たとえ私でも、あんたを残念な人間とまでは思ってないわ。口ではそう罵ってもね」

「…………」


 これまでと口調が変わり、トーンが落とされたことで、真面目な話をする空気へと一転した。


「……要件を教えてくれ」

「白羽円花のことよ」


 円花さんのことを切り出されてもおかしくないとは思っていた。だが、こんな急に、よりによって最初に述べたのがこのことだった。


「俺が愛してやまない転校生、彼女は理想の体現者。一挙一動芸術品、見惚れぬ男はどこにいる。天使の醸すオーラには、眩すぎて目も開かぬ──────」

「あんたが転校生好きだってことくらい私も充分にわかってる。だから、気づくのよ」

「なにに、だ」

「あんた、白羽円花を〝転校生〟とはさほど考えていないんじゃないかしら」

「……どうしてそう思う?」


 俺は疑問を投じた。


「ここ十年間のあんたの狂気っぷりはわかってる。転校生を渇望していた姿は、もはや懐かしいとまであるわね」

「いまだって転校生は好きで好きでたまらないが?」

「だとしても、最近は転校生についてのひとりごともきこえない。一見すると、転校生熱が冷めたようにも見えるわね。でも、私はそうは思わないの」




「……あんたたち、付き合ってるんじゃない」

「なにをいってる、俺と円花さんが付き合ってるだなんて、またまたご冗談を」

「ユージ、まさか私の目を誤魔化そうとでも思ったわけ? ふざけないでよね、これでも十年近くは幼馴染をやってるのよ。バカにしないでよね」

「だとしても、付き合ってはいない」

「友人以上恋人未満ってところじゃない? 合ってるかしら。いちおう確認よ」



 大体合ってるじゃねえか。まさか義妹とまではわかっていないだろうけども。


「そんなところだよ」

「現に、ここに白羽さんがいるんでしょう?」

「……」

「ユージは爪が甘いのよ。残り香っていうのかしら、部屋中にユージ以外の女の人の匂いがする。ユージの家にいる女の人なんて、家族にいなければあの女の子しかいないじゃない」

「三咲ちゃんという選択肢がないとでも?」

「あの子がいるなら、もう少し騒がしいじゃない。それに、わざわざ隠す必要もなさそうじゃない」


 必死になって誤魔化そうとばかり思っていたが、それは無駄だったらしい。すべてとまではいかないが、騎里子には見抜かれていたんだ。


「お見事だ」

「まぁ、いまの関係ならよかったわ。もし付き合ってなんかいたら磔の刑にしているところだったわ。睡眠薬で寝かせた後、椅子にでも縛ってやろうと思ったわね」


 おい騎里子、睡眠薬を飲ませるな。それに、目的は異なっていても、椅子に縛り付けるという発想に至る女子よ。円花さんじゃあるまいし。


 実は似ているふたりなのかもしれないな。物理的な暴力か愛情表現かという方向性の違いで別物に見えていただけなのかもしれない。


「外道の極みだな」

「終わりよければすべてよし、ってところじゃないかしら。要は屈服させるためなら、手段は問わないということよ」

「悪辣な幼馴染だ」

「ひねくれユージにはぴったりの幼馴染だと思ってるわ。そう思わない?」

「え? あ、ああ……」


 皮肉でいったのではなさそうだ。だとすれば……。


「さっき言質はとったわね。ユージと白羽さんは、〝友達以上恋人未満〟だって」

「ん? たしかにその通りだが」  




「なら、私があんたと付き合ってあげてもいいのよ?」




 時が止まった。


「おい、冗談もほどほどにしておけ」

「付き合わない理由もないんじゃない? 十年来の幼馴染で腐れ縁のクラスメイト、悪くないと思うのだけど」

「こんな俺に恋愛感情が湧くのか?」

「好きだから付き合うってのがすべてじゃないでしょ? あんたの面倒を見れそうなのが私だけ。だから付き合うの。付き合っても、そんなに変化はないから安心しなさいよ?」

「付き合わなくてもいいなら、無理して付き合わなくてもいいなじゃないか?」

「手に届くときに、もらえるものはもらっておく主義なのよ……ともかく!」


 騎里子は大きく息を吸う。


「あんたとユージが恋人じゃないなら! 別に! 私が付き合ってあげてもいいんだからね!」


 二階で人の動く音がする。


 階段を全速力で駆け下り、ドアを薙ぎ払うように開ける。もう、天啓は無意味になった。作戦は決裂だ。いまさら後悔しても遅い。


「月里騎里子さん。あなた、いまなんとおっしゃられましたか?」

「何度でもいってあげるわ。成竹祐志は、あんたが取らないなら私が取るってだけのこと。中途半端な関係が一番よくないと思い知らされたんじゃないの?」

「問題ありません。私は祐志さんと結婚しますから」

「口から出まかせをいっても無駄よ。さっさと敗北宣言をしなさい」

「結婚しますから」

「だから負けを認め────」

「……結婚、しますから」


 あの暗黒を含んだ目で、円花さんはいすくめる。


「ガチでヤバい女みたいね。なおさら燃えるじゃない。このヒロインレース、負けるわけにはいかないわ!」


 両者が相見(あいまみ)える。


 女同士の怖さを、痛感せざるをえなかった。




 円花さんには、もうお淑やかさの面影もない。明々白々、ヤンデレである。そしてヤバいやつである。転校生であり、義妹でもある。


 あの騎里子は、俺の幼馴染。ツンデレのデレを引いたような性格は、今後どう変化していくのか、まだ未知数。知り合ってから最も長い女。


 三咲ちゃんは、後輩かつ同じ文芸部。ハラスメント(を宣告する)のが大好きで、懐き具合は類を見ない。



 この三つ巴で、この先────騎里子の言葉を借りるなら────ヒロインレースがおこなわれるのだろう。


 圧倒的に優勢な立場にあるのは、円花さん。しかし、展開は読めたものではない。


 果たして、いったい全体どうなるのか。


 ……ともあれいまは。


「この変な女!」

「暴力を振るわれるのは淑女としてどうかと思いますよ」

「正論は大嫌いなのよ!」


 口論をどう辞めさせるか、その方法を思案しなければならないらしい。


 俺は肩をすくめるしかなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。第二章、完結です。

よければブックマークや評価をいただけると励みになります。次回の更新は九月を予定しています。


というのも、新作「隣に住む変態なお姉さんに愛されたいけど、年下の女友達のせいで全然うまくいかない件について」(仮)の書き溜めの時間を捻出するためになります。こちらは八月中に公開です。ぜひこちらも読んでいただけると嬉しいです。


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