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第33話 「今後の振る舞いにはお気をつけくださいね?」

 三咲ちゃんがお腹を空かせているとのことだったので、昼食をとることにした。公園のそばにあるコンビニまで出向き、おのおの好きな食材を選ぶ。戻ってベンチで食べる予定だ。


「あ! せんぱい、ラーメンとかどうですか?」

「残り汁はどうするんだよ」

「ぜんぶ飲みますよ、せんぱいが」

「俺の体をボロボロにする気なのかな」

「そんなことより間接キスですよ、うれしくないんですか」

「ノーコメントだ。これ以上セクハラよばわりされたくない」

「くっ、バレてましたか」

「バレバレだよ。ほら、まじめに選ぶぞ」


 円花さんはすでに会計まで済ませていた。パンとおにぎり、それにお茶くらいだったかな。


「じゃあこれしかありませんね」

「トルティーヤ? 変わり種だな」


 肉と野菜が、薄いナンのようなものに挟まれている食べ物だった。一口サイズで全四個入りらしい。


「量の割に高いのでせんぱいのお財布をいじめられますね」

「先輩に奢らせる気満々じゃねえか」

「あとで半額だけ返しますから」

「もう半分は?」

「じゃあ、会計お願いしますね〜」

「おい!」


 トルティーヤの入った容器を俺に手渡し、コンビニの外へとスキップ気味で立ち去る三咲ちゃん。あっという間に自動ドアをくぐり抜け、こちらにむかってあっかんベーまでしている。


 はぁ……。ちゃっかりしてるんだかしていないんだか。




「せんぱいはやはり尊敬に値しますね」

「ぜったい都合のいい先輩としか思ってないだろ」

「親友もどきと思ってますよ。感謝してくださいね」

「上から目線にもほどがある」

「だってせんぱいってお友達少なそうじゃないですか」

「うぐっ……だがしかし。三咲ちゃんだって、こんな俺に構うくらいには友人が少ないんじゃないですか」

「傷口を塩で塗りたくる大会はこれでやめましょう、虚しくなります」


 滑り台の上にあるベンチに腰掛け、それぞれ食事をとりはじめていた。


「……………」


 円花さんは、こちらの会話にまったく反応せず黙々と食事を進めている。一口で50回くらい噛んでるんじゃないかという勢いで、咀嚼音(そしゃくおん)がよくきこえてくる。


「円花さーん、大丈夫ですか?」

「はいなんの問題もありませんし怒ってなんかいませんし別に嫉妬なんかしてるわけじゃありませんはいそうです心配しないでください祐志さん?」


 口の中のものを飲み込むと、彼女はそうまくしたてた。表情が死んでいて、焦点が一箇所に固定されている。


「ごめんな、あとでゆっくりおはなししような〜」

「そういう問題じゃないんです。楽しそうにしている姿を見せつけられたせいか、つい苛立ってしまっただけなんです。ですから、三咲さん?」

「はい?」

「今後の振る舞いにはお気をつけくださいね?」


 鋭い眼差しで射竦めた。みているこちらがいたたまれなくなってくる。昼食前のことがある。あの瞬間から、円花さんは三咲ちゃん敵とみなしたのだろう。


 円花さんは、俺が異性と楽しそうにしている様子を見るのを、極端に(いと)う。自分にだけ愛情が注がれないことを疎む。


 そんなのわかっているのだが、ここで三咲ちゃんを無視するわけにもいかない。

 もう、三咲ちゃんと出会った瞬間から詰みの状況だったんだ。


「わ、わかりました」


 和やかな雰囲気の食事は一転、張りつめた雰囲気となる。黙々と口を動かすほかない。買った弁当の中身を、次々に胃の中に収めていく作業を続ける。


 食べ終わって食休みを終えると、円花さんはふと口をひらいた。


「祐志さん、滑り台滑ってもいいですかね」

「もちろんいいが、他人の目は気にしないのか」

「あの女の方だって堂々と滑っていらしたじゃないですか」


 三咲ちゃんと出会ったときに、下に段ボールを敷いていたことを思い出す。


「三咲ちゃん、例の段ボールはどうしたんだ?」

「あー、下にありますよ。放置したままでしたね。私が……」


 そういう前に、円花さんが駆け足でとりにいった。


 ここから下まではそこそこ距離がある。戻ってくるまでには時間があるわけで。


「そういや三咲ちゃんはなんで滑ってたんだ?」

「毎日のルーティンなんです。いつもは学校に来る前に朝練と称して滑っています」

「滑り台部でも目指してるのかな」

「もちろん冗談です。朝じゃなくて放課後です」

「毎日滑ってるのかよ」


 滑り台ガチ勢がここにいた。




















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