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第28話 「じゃあイケナイJK家庭教師とふたりきりの勉強会、とかどうですか?」

 椅子に拘束されたうえにお仕置きプレイをされた事件は無事終息した。書類に血判(けっぱん)までして、円花さんは誓ってくれたんだ。しばらくは問題も起こらないはず。


「祐志さん、夏休みもいよいよ明日からですね」

「そうですね、円花さん。楽しみですね」


 そんな期待に応えてくれたかのように、夏休み前日────今日まで特筆すべき案件は起こらなかった。


 騎里子とは、唇が触れてしまって以来まともに会話を交わしていない。こちらが話題を切り出そうとしても、すぐどこかへ逃げてしまうのだ。釈然としないが、結果的に円花さんの感情が掻き立てられないという面ではありがたかった。


 三咲ちゃんは、日々夜中までゲームに勤しんでいたせいで体調不良らしい。ここ五日くらい学校に来ていない。電話をしてみた限りでは溌剌(はつらつ)としているから、きっとズル休みになってるんだろう。


 夏休みになれば、彼女たちと接触する機会も自然と減り、円花さんの機嫌を損ねることも同様に減る。ここから一ヶ月近くは安全だ。


「夏の課題は終わらせましたか」


 学校から帰宅した後、リビングのソファに腰掛け、俺は円花さんと雑談をしていた。


「つい数時間前に配られたばかりじゃない? もしかして時間軸が違う?」

「先生に頼んで、三日前には全教科の課題を調達済みです」

「フライングゲットじゃないですか」

「先行特典に、いくつか追加の問題もいただきました」

「まさかの初回限定版だったの?」

「どれもなかなか手応えがあってよかったです。さらに課題がほしいところですね」

「その様子だと、夏の課題は全部終わった感じなのかな?」


 はい、と会心の笑みで相槌を打つ円花さん。私立出身の転校生だから、我が輝院高校の課題がとるに足らないということなのだろうか。それにしても速すぎる。


「答えとか写してないよね」

「そこまで私も腐っていません」

「そりゃあすごいな」

「なんせこの三日間寝てませんからね」

「頼むから夏の課題に全力を注ぎ過ぎないで! 俺たちの夏休みはこれからだ、だよ」

「ついに最終回ですか」

「まさかの打ち切りエンド? ここからが本番じゃないの?」


 さすがにここで最終回はないと思う。まだ行事すらやってないよ、俺たち。恋のライバルとか、まだ出てないよ。


「冗談はともかく。祐志さんも夏だからって勉強を疎かにしてはいけませんよ」

「うわぁ、耳が痛いな」

「安心してください。私が祐志さん専属の美人JK家庭教師になりますから」

「自分で美人というメンタルよ」

「じゃあイケナイJK家庭教師とふたりきりの勉強会、とかどうですか?」

「やらしさ倍増してんじゃん」


 というか、そもそもイケナイじゃなくてイケテナイではなかろうか。


「頑張ったらご褒美がありますよ」

「物で釣られるのもな……」

「いいえ。私の体でご褒美、し・て・あ・げ・ま・す」

「無理に体を張らないで! 暴走の予感しかないから!」

「じゃあ、代わりに祐志さんの血を飲んでもいいですか?」

「もはやご褒美でもないじゃん。ただ血を飲みたいだけでは」

「まさかバレるだなんて、さすがは祐志様! ご聡明ですね!」


 大仰そうに褒められると、嬉しいどころか逆に腹立たしいよ。


「で、家庭教師をやってくれるのは事実でいいんだな?」

「はい。帰宅部ですし、暇つぶしには持ってこいかと」

「それじゃあ、よろしく頼む。かなりひどいだろうから、手はかかるだろうけど」

「問題ありません。数学以外ならいけます!」


 過去に勉強を教えてもらったときのことを思い出す。英語の解説はかなりうまかったが、数学になった途端、からきし教えるのが下手だったのを思い出す。


「その言葉、信頼していいんだな」

「もちろんです。ダメならその教科は諦めましょう!」

「すごいスタンスだな」

「無料なのは一ヶ月までですからね」

「金取る気だったの?」

「お友達を誘えば図書カード五千円分、というのはどうです?」

「もはや塾じゃん」


 やけにボケてくる円花さんだが、きっと夏休みになったのがうれしくてたまらないのだろう。果たして、いったい全体どこに夏休みがうれしくない学生がいるというのだ。


「夏休み、勉強以外に何かやります?」

「もしかして勉強漬けの夏にしようと思ってたのかな」

「祐志さんと一緒にいられれば他になにも求めませんから」

「ほら、夏祭りとか旅行とか花火大会とかさ、いろいろあるじゃん」

「宿題を終わらせてから考えましょう」

「ちぇ、優等生だな」

「そんな豪華なイベントに参加しすぎると、私の理性が保たれなくなりそうなので」

「自己分析がしっかりしていなさる」


 イベントを終えて一気に仲が深まるというのはよくある話だよな。だから、あえて避けるという策略と。悪くないが寂しいな。かといって、他の女子みさきちゃんくらいしかいないけどといってバレたら。また椅子に縛られる気がする。


 ……難しいな! 扱いが!


「でも、ひとつくらいはやりたいですよね。というわけで、宿題が終わったらなにをしたいか、考えておいてください」

「円花さんは考えないの?」

「祐志さんに指示されたいんです。なにからなにまで……」

「M属性も持ち合わせていたんだ」

「ドSの円花様がよかったですか? 縄でしごかれたかったですか?

「そんなことは一言もいってないよ?」


 夏休み、なにをしようか。しっかり考えないと、あっという間に終わりそうで怖いな。お盆とか突入したらもはや終わったようなものだし。

 まぁ、朝起きたらいいアイデアが浮かんでいることだろう。きょうは考えるのをやめよう。そして課題を進めよう。

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