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第18話 「歳をとっても少年の心を忘れないことが大事だと、よく思い知らされるよ」

「祐志、どうして早く帰ってきたかわかるかい?」


 円花さんが大暴走をしていた最中、親父がいつもと違う時間に帰ってきた。あれがなかったら円花さんは限度いうものををしらずに、僕に襲いかかっていたかもしれない。


「さぁ、まるで見当もつかない。わざわざ帰ってくるくらいの理由なんて存在してたかな」

「ヒントをいうと、夏蓮さんもそのうち帰ってくるぞ」

「まさかのスピード離婚ですか? やっぱり親父が愛想つかせてしまったんじゃないのか? イエスかノーで」

「ノーだ。そんなことはない。むしろ日々彼女からの暴力(あいじょう)は増える一方だよ。一度ヘッドロックで気絶してしまったくらいなんだよ」

「それって愛情ではない気がするんだけど」

「愛の鞭だ。そして、暴力と書いて愛情と読ませる」

「意味わかんねぇ」

「それでこそ祐志の父じゃないか」


 そういうのは自分でいっちゃダメやろ。


「じゃあ他に全員で集まって語らうことなんてあったっけ」

「重大発表があるんだ」

「わかった、そんな重要なことではないと」

「私にとっては大事なことなんだ」


 だいたいこのタイトルの動画でガチの重大発表をしたのをあまり見たことがない。たいがいタイトル負けしたような内容が続くのだ。


 ピンポーン


「お、ようやく愛しのマイハニー……失礼、夏蓮さんが帰ってきたじゃあないか。ちょっと待っててなー」


 親父はスキップしながら玄関へとむかう。少しすると、夏蓮さんを引き連れて戻ってきた。仕事帰りのようで、スーツ姿だった。


「ただいま、祐志くん。そして円花も」

「お帰りなさい、お母様」

「円花くん、ずっと気になっていたんだけど、お母様と呼んでいるのに何か理由でもあるのかな」

「なんでしょう、ずっとお母様と呼んできたので、理由を深く考えたことはありませんね」


 すごいな、ずっと「お母様、お母様」と呼んできたのか。不思議だな。本人としてはそれが当たり前だからなんとも思わないんだろうけど。


 親父が珍しくスーツに着替え直し、前回と同じ配置で食卓につく。


「これから重大発表をしようと思う」

「どうぞ」

「きかせてください」

「わたくし、成竹大輔と」

「白羽夏蓮は」

「「結婚しました〜!!」」

「……は?……え?」


 円花さんも同じような反応だった、だって、前にこうやって話したときに、結婚するっていってただろう。それはもう、とっくに結婚していると思ったわけさ。


「いやぁ、なかなか届けを出しにいくタイミングがなくてね。いつの間にか宣言してから時間が経っていたというわけさ」

「親父って届けのひとつも出せないくらい忙しい仕事だっただな」

「もちろん、出しにいく時間くらいはあったさ。でも、結婚した気分になっていたからな……」

「つまり出し忘れ続けてきたと。そんな大人がどこにいるんだってか。成竹大輔くらいか」

「イエスアイアム」

「自信満々にい雨ようなことじゃないよ、親父」

「夏蓮さんとうまく時間が合わなかったり、こちらにも事情がそれなりにあったことはいわせてほしいよ。そんなに私も落ちぶれてはいないさ」


 とまぁ、これまで円花さんは義妹でもなんでもない、ただの転校生でありクラスメイトだったわけだと。義妹だからで許していたことも多かった気がするな。それはまあいいとして。


「確認するまでもないと思うけど、さすがに届けは出したよな?」

「もちろんさ。いや、実にいい日に届けを出せたよ。大安吉日に出せるとは。ついでに宝くじでも買っておけばよかったよ。一等でも当たりそうじゃないか」

「宝くじで当てるなんて、ロイヤルストレートフラッシュ出す方がよっぽど簡単そうだ」

「でも父さん、実は一発でロイヤルストレートフラッシュを出したことがあるんだぞ」

「親父のことだからイカサマでもしたんじゃないの?」

「自分の父親すら信頼できないのかね、祐志は」

「親父だから信用ならないんだ」


 親父とのやりとりを見て、円花さんが笑う。


「仲のいいおふたりなんですね」

「好きではないけど嫌いでもないからな」

「ファザコンでも父さんは受け入れるぞ」

「大好きですぅ、なんて一言もいった覚えがないんですけど」

「さびしいこというじゃないか。ほら……って、どうして夏蓮さんは首を……」


 夏蓮さんにヘッドロックがかけられそうになっている親父。


「あなたがすぐペチャクチャうるさい口を開くからですよ?」


 閑話休題。


 暴力に屈した父は、話をもどす。


「まあ、正式に夏蓮さんは成竹夏蓮となったわけだよ。白羽君も、きょうから成竹円花君となるね」

「学校でも成竹で呼ばれるんですか?」

「そこに関しては学校の方に話をつけてある。これまで通りの呼び方だから気にすることはないよ。記名ももちろん白羽で問題ないよ」

「よかったです、安心しました」


 それはよかった。成竹はこの学校には知る限りだと俺しかいない。それで円花さんの苗字がなるたけに変わったりでもしたら、今度こそ追及は避けられない。


「籍を入れたからといって、何か大きく変わるわけでもないが。これからも、兄妹(きょうだい)仲良くやっていきなさい。祐志、こんな夏蓮さんの大事な娘さんに嫌がられるような真似はするんじゃないぞ」

「息子のことを少しは信用してくれよ」

「信用されてないってわかったから、この瞬間から信頼しないことにした」

「子供か」

「歳をとっても少年の心を忘れないことが大事だと、よく思い知らされるよ」

「そういうことじゃないんだよ」


 夏蓮さんの方も、円花さんにむかっていう。


「お互いに仲良くするに越したことはないわ。でも、節度を持ってね? わかったかしら?」 


 円花さんに目配せをする夏蓮さん。

 あの狂気に満ちた性格のことをしっているんだろうな。


「もちろんです、お母様。わかっていますよ」


 言質はとったようなものだぞ? これでまたヤンデレを発揮することは少なくなるよね。親父に信じられなくなった俺だけど、円花さんのことは信じたい。


「さあ、重大発表はここまでだ。きょうは結婚記念日記念のお祝い焼肉の祝宴だ」

「どんだけ重ねれば気が済むんだ」

「重ねれば重ねるほど強調されるものだろう」

「ここまでくると、もうくどいんだよ」

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