第14話 「祐志さんには、三咲ちゃんの情報を賭けたポーカーをしてもらいます」
あれから三咲ちゃんと二回ほど対戦をしたのち、俺たちは解散することになった。「このあと、どこかいきませんか?」といいかけた三咲ちゃんだったが。「……やっぱり、危険な目つきの女の人に怒られそうなのでやめておきます」ということで話はナシになった。
とても楽しめた数時間だったはずなのに、後のことを考えると気が重い。円花さんが怒っていると思うからだ。
ふだんは毒のない口調の円花さんが、後輩の三咲ちゃんと幼馴染の騎里子に対する悪口をいっていたんだ。そして何より、あの怒りを無理やり抑えたような表情。いつ爆発するかわかったものではないじゃあないか。
恐る恐る、我が家のインターホンを鳴らす。
「あれ、おかしいな……」
いつもなら、一度鳴らしたらすぐに返事をくれるはず。しかし、二回三回と鳴らしても出る気配すらない。やっぱり怒ってるのかな。
念のためドアを引く。鍵はかかっていなかった。リビングやトイレなどを確認しても、円花さんの姿は見受けられない。
「円花さーん、いるなら返事してください」
二階の方にも声をかけてみる。こちらも返事はいただけない。手を洗ってから、二階の方へと足を運ぶ。
円花さんの自室を覗いてみると。
「おかえりなさい、祐志さん。少し遅かったんですね。後輩さんとのお出かけはたいそう楽しかったんでしょうね。どうですか」
彼女は机を前にして座っていた。制服姿だった。机上には何も置かれていない。
「つまらなかったといえば嘘になるな」
「私は楽しかったか楽しくなかったかできいたつもりなんですが。答えはイエスオアノー。はっきりしましょう?」
「……楽しかったです」
すごく面倒くさい人みたいになってるよ、円花さん。ここで『怒っていますか?』なんてきくほど野暮ではない。きっと『怒ってませんよ?』と真顔で返されるだけだ。
「そうですか。やはり異性との外出は楽しいものなんですね。きっとゲームをしていたんでしょう」
知っていたのか、円花さん。いったいどうやってわかったというんだ。
「祐志さん、前にゆるい部活動に所属しているといっていましたよね。ですから該当する部活の検討はついていたんです。それに、学校でゲームができるくらい無法地帯の部活といえば文芸部くらいかと。なので活動場所に足を運んでみました。そしたら活動をしばらくしないとの張り紙があったんです」
「それで俺たちが外でゲームをしていると推理したわけですか」
「これくらい造作もありませんよ」
これまでの不自然なものとは違い、論理的に考えれば推測できる範疇の答えだ。まあ、あの省略しまくった会話でよくわかりましたね。
「なんたって、私はあのレースゲームが大好きですから」
「そうなんですね。オンライン対戦とかもするんですか」
「けっこうやりますよ」
そういうと、彼女は自分のレートを口にした。俺と一桁くらい違っている。
「一度やると決めたことは貫き通すタイプですから」と彼女はいう。
「それは置いておきましょう。私が一番気になっているのは、あの後輩さんのことです。はじめてあったもので、まだ何も知らないんですよ」
「騎里子のことは知っているのか」
「だってクラスメイトですから。あの方のご友人から色々と話はうかがっています」
よくよく思い返してみると、円花さんはクラスだと友人が多いタイプだったな。いつの間にかクラスに溶け込んでいたように思う。騎里子のことに関しては知っていてもおかしくないわけだ。
「ずっとききたかったんですが、祐志さんって騎里子さんと付き合ってるんですか?」
「なにをいってるんです、円花さん。あんな幼馴染と付き合うわけがない。想像したくもないよ」
「それじゃあ、祐志さんにとって騎里子さんは何なんです?」
「ただの幼馴染だよ」
「では、騎里子さんに恋人がいたらどう思いますか?」
「なんだろうな、それはなんだか嫌だな」
きっと誰かと付き合いさえすれば、こちらに突っかかってくる余裕もなくなることだろう。それはそれでうれしいはずだが、どこか寂しいと思ってしまいそうだ。
「身勝手ですね。付き合いたくもない幼馴染だけど、誰かと付き合っているのは嬉しくないなんて」
「あんな女と付き合うなんてまともな男じゃないに決まっている」
「ひどい偏見ですね」
「十年近く幼馴染やってたらアイツのことが嫌でもわかってくるもんなんだ。結婚してたらアルミ婚式だぞ」
「なんですかそのアルミ婚式って。追及しませんけど……前置きはさておき、本題はあの後輩さんのことです。私は彼女のことをよく知りません。なので、教えてほしいんです。祐志さんのことを、義妹として知っておきたいんです」
三咲ちゃんには申し訳ないが、彼女についての情報などたかが知れている。それを教えるくらい……いや、でもそこを起点にどんどん詮索されそうな気がしなくでもないわけで。
「もちろんタダでとはいいません。私も相当の対価を支払うつもりでいます」
そういって、彼女はカーディガンを脱ぎ出す。ブラウスのボタンを、上からひとつ、ふたつと外していく。靴下も上半身を屈めて脱ぎ捨ててしまう。
やめて! そんなことしたら、綺麗な円花さんがよりによって僕の手で汚されてしまう。お願い、脱がないでください円花さん! 三咲ちゃんの情報のために体を張ったら……。メイド姿でもじゅうぶん刺激が強かったのに……。
「これから祐志さんと私でこれをやりたいんです」
そういうと、彼女はブラウスのポケットから角ばったものを取り出す。
未開封の、トランプ。
「えーっと、いまカーディガンを脱いでいたのは?」
「よくあるネタで、懐から拳銃を取り出すってあるじゃないですか」
「あるね」
「その要領でトランプを取り出そうとしたら。うまくいかなかったのでカーディガンを脱いだだけですよ? 何度も練習した結果、そういう結論にいたったんです」
もしかしてだけど、このくだりの練習に夢中になってインターホンに出てくれなかったんですかね。
「ボタン外したり靴下脱いだのは?」
「ギャンブルをすると人並み以上に熱くなってしまうので、事前に脱いだだけです」
……紛らわしいことしないでくれ。下手したら気絶するところだったよ。
「ギャンブル、と言うのは?」
「祐志さんには、三咲ちゃんの情報を賭けたポーカーをしてもらいます」
「円花さんは何を賭けるんですか」
「もし祐志さんが勝てば────祐志さんが私にしてほしいことをなんでもします。これを私は賭けます」
「いまなんでもっていったね」
「いいましたよ。二言はないです。もちろんえっちなことはダメですけどね」
脳裏にその考えはよぎったけど、さすがにそれをお願いするほど俺も腐ってないからね。
「まあ、白羽円花は負けませんけどね」
「やけに自信満々だ」
「自信がなければ、こんな勝負を提案しません」
……というわけで、俺と円花さんで賭けをすることになったのだッ!!
──────To be continued!!




