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第10話 『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き♡』(円花視点)

 ◆◆◆◆◆◆


「祐志さん、夕飯ができましたよ〜」

「ああ、うん」

「どうかしましたか? 何かに怯えているようですが」

「ちょっと疲れただけだから」


 祐志さんは、私と目すら合わせてくれません。


「今日はチーズinハンバーグですよ。大好物なんですよね」


 そういうと、祐志さんはわかりやすいくらいに動揺を見せます。祐志さんは鈍いところがありますが、さすがにもう気づいてくれているんじゃないでしょうか。


「そうだよ、確かにチーズinハンバーグは好きな食べ物トップテンに入るくらい好きだよ、でもさ……」

「でも?」

「僕の好きな食べ物を教えたことはあまりないんだけどなぁ」


 ようやく違和感に気づいてくれましたね。いや、もう少し時を遡ったときには、疑惑は確信に変わっていたことでしょう。



 今から数時間前。


 私は()()()()()()()()に、手がかりを残していました。


 私の「単語ノート」の新しいページを捲ります。二日前に書いた魑魅魍魎(ちみもうりょう)のページの位置を確認してから、作業に入ります。十五ページ。


 ……やはり、祐志さんにはこの二文字がふさわしいのかな?

 これをみたときに、すぐに意味がわかるようなものでないと効果はありません。これまでは大人しくしていましたが、そろそろ大胆に出てもいいはずです。


 サクッと半ページを埋めました。自慢ではないですが、私は速筆で達筆。半ページをびっしり埋めるのは簡単なことです。


 少し休憩を挟んで、また書き始めます。

 この文字を書けば書くほど、一ヶ月前のことが思い出されます。はじめて祐志さんのことを知ったときのこと。


「この人のこと、もっと知りたい……」


 とことん調べ上げました。お母様は、まだ財閥と繋がりがあります。グレーなところですが、情報屋のような人にお願いしたんです。そうして、私は最高の状況を作り出すべく、この一ヶ月近くを祐志さんのために費やしてきました。


「ゆー君はどう思ってくれるかな?」


 本人の前ではこんな呼び方をできるはずないので、心の中に留めておきます。じわじわと毒が体を蝕むように、少しずつ近づいかなくては。


 あっという間にページが埋まり、次のページへ。そうしていると、予想通りに祐志さんは二階に上がってきました。

 予想済みです。数学の勉強をしているような状態になっています。困ったときには、七ページに数学の証明を書いたページがありますから、焦る必要はありません。これは予備ですし。

 ゆーくんはチラリとこちらを見ました。これも想定内です。


 さて、いつになったら違和感に気づいてくれるのでしょうか。

 自室にいったゆーくんは、微動だにしていないようです。きっとこちらの様子を

 (うかが)っているのでしょう。

 私は〝例の二文字〟をまた書きはじめます。先ほどよりも早いペースで、そして一定の速度を保ちながら。


 ややあって、ゆーくんは異変に気がついたようです。それはそうですよね。あれほどペンを動かしていたら不自然ですものね。


「あの、いったい何を練習────」


 リハーサル通り、私は指定のタイミングでノートを閉じます。


「どうかしましたか?」

「いや、凄まじい勢いでノートに何かを書いていたみたいだったから」

「それが何か?」

「果たして何を書いていたんだろうな、って思っただけで……」

「それなら、これじゃないですか」


 十五ページを一発で開きます。


魑魅魍魎(ちみもうりょう)?」

「はい。勉強に飽きると、こうやって同じ文字を何度も書きたくなるんですよ」

「へー、面白いな」


 言葉と裏腹に、ゆーくんの表情は歪んでいます。ここまでくれば、私の想定通りの行動をとってくれるはずです。


「ごめんなさい、少しお手洗いにいっててもいいですか?」

「もちろん」

「お願いですから、部屋の中身をジロジロ見たりは絶対にやらないでくださいね、絶対ですから」

「成竹祐志はそんなことをする人間じゃないから安心してください」

「そうですよね。信頼していますよ」


「絶対やらないで」というのは「絶対やってください」というお約束です。ここまで御膳立(おぜんだ)てすれば、もう安心です。念には念を入れました。次の行動はもうわかっています。


 下に降り、ポケットの中に入っている携帯を取り出します。


 通話中 23:11


 成竹家には、いちおう固定電話というものが存在しています。もっとも、ほとんど使われていないようですが。


 その子機となれば、勝手に使っていてもわかるはずありません。

 私の部屋に子機をセットしてあるので、ゆーくんの反応は丸わかりというわけです。

 ……しかし盗聴というのも少し気が引けますね。私はリビングの扉を閉めます。すると、ゆーくんは動きはじめました。


『ごめんなさい、俺は最低な人間だよ────人のノートを盗み見するなんて』


 盗聴をしている私は最低どころじゃないと思うのですが。

 パラパラとページを捲る音ののち、ゆーくんは驚嘆しました。


『おい、いったいどうなってんだよ……』


 ようやく見つけてくれたんですね。

 きっと、ノートにはこんな光景が広がっていることでしょう。











 ──────好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き♡


『う、うわぁ……ああああああ!!』


 どん、と尻餅をついた振動が、電話越しでなくてもきこえます。


「ふふっ」


 さすがにこれはやりすぎでしたね。でも、これできっとゆーくんにも動きがあることでしょう。第一段階としては、上出来だと思います。


『なに、いま女の人の笑い声きこえなかった? もしかしてここ事故物件だったりするの? え? ってことはこの文字も亡霊が書いたんだ! そうだ、そうに決まっている!! 恋の亡霊が現れたんだね!!』


 ……さすがに無理のある思い込みじゃありませんかね。


『どうしよう、ちびっちゃったじゃん……うわぁ、こえぇ』


 うーん、ちょっとこれはホラーみたいな展開になってしまいましたね。


 アプローチが下手だったことは自覚しています。これからはもう少しわかりやすく愛を伝えていかないと、ですね。そもそも、勝手に好きな食べ物を特定されてたら怖いですよね、そうですよね。私もそう思いました。

あとがき


ブックマークや★★★★★をいただけると励みになります。気が向いたらよろしくお願いします。


ここから本格的に円花さんがヤンデレっぽくなります!

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