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file001:シャーロックとの出会い

この作品は、シャーロック・ホームズ全集「緋色の研究」(著:アーサー・コナン・ドイル)をベースにしています。ご了承ください。

 私、ジョン・H・Wはロンドン大学で魔法博物学の博士号を取得し、その後はムンバイ大学に臨時の職を見つけ、インド各地の魔法の歴史や文献、道具について研究していた。


 契約期間が終わると、次にカンダハール大学に移ったのだが、(しばら)くすると大学の都合で職が無くなり、途方(とほう)()れている私に声を掛けてくれたのが、ロンドン大学のワックスフラッダー教授であった。


 教授は老齢だが精力的な人物で、世界各地の魔法関係の事象について研究しており、有難いことに私のインドでの業績を認めてくれたのである。


 私は所有している魔法道具と一緒にオロンティーズ号に乗船し、一ヶ月かけてポーツマス港に上陸すると、すぐにロンドン行きの列車に乗り込んだ。そしてウォータールー駅で辻馬車を捕まえ、そのまま様々(さまざま)な魔法学科がひしめき合うロンドン大学へ向かったのである。


 ロンドン大学は私が学んでいた頃と変わらぬ(たたず)まいで、勝手知(かってし)ったる道を御者(ぎょしゃ)に指示して辻馬車を走らせた。


 辻馬車は大学の広大な敷地(しきち)に流れている川を横目に通り過ぎ、突き当りを右に曲がって幾棟(いくむね)かの建物が並んでいる道を真っ直ぐに走ると、比較的新しい建物が(あらわ)れるのだが、その中にワックスフラッダー教授の研究室はあった。


 研究室に着くと、研究員のスタンフォードが迎えてくれた。彼はイギリスに居た頃に交流のあった人物で、ロンドンに大して知り合いの無い私からすれば、これは幸運な偶然(ぐうぜん)であり、懐かしさもあって大げさに再会を述べると、彼も邂逅(かいこう)を喜び、荷解(にと)きを手伝ってくれた。


随分(ずいぶん)日焼(ひや)けしましたね」


「何しろ向こうは暑くてね。熱病(ねつびょう)にも掛かり大変な思い出も多いが、それでもこの魔法道具があれば帳消(ちょうけ)しだよ」


「そうそう、言い忘れていましたが、実はワックスフラッダー教授はしばらく留守(るす)なんです。イングランドの方に行っているのですよ」


「新聞で知ったよ。あそこで大量の石版(せきばん)が発見されたそうじゃないか」


「そうなんです。教授は()(たて)(たま)らずに出発されました」


「教授らしいね」


 荷を解きながら中から出てきた香辛料の説明や、南アジアに関する知識をスタンフォードに披露(ひろう)している内に随分(ずいぶん)と時間が()っていた。


 その知らせは、私たちが荷解きを一段落し、お茶で(くつろ)いでいた時に届いた。


『大学内で死体が見つかった』


 帰国早々の大事件に私は少なからず興奮(こうふん)した。しかもその死体の近くで発見された人物がワックスフラッダー教授の知り合いだというのだ。留守を(あず)かるスタンフォードが呼び出され、私もそれに同行する事にした。


 呼びに来た使いの者に事件の内容を聞くと、人気(ひとけ)のない実験棟で男の死体が見つかり、その隣の実験棟で見知らぬ男が立っていたらしい。男は死体の事は知らないと証言したが、偶然にしては出来過ぎているので、身元を確認しようとすると、ワックスフラッダー教授の手紙を出して、教授の知り合いだと言ったのだそうだ。


 私とスタンフォードは大学の応接室の一つに案内され、その人物と対面した。


 体格は痩身(そうしん)で身長は6フィート以上の長身である。鼻の形が特徴的で、端正(たんせい)と言えなくもない顔であるが、相手を(ひる)ませるような目つきをしているので、(そん)をしているように感じた。アルスターコートを着て大きな旅行(かばん)を持っており、旅行に行くか帰ってきたように見える。


「やあ、初めまして」


 彼は見た目より人懐(ひとなつ)こい声で私たちに挨拶(あいさつ)し、教授が留守なのは残念だと(かぶり)()った。スタンフォードは彼の持っている手紙を確認し、ワックスフラッダー教授のものだと証言した。私も見せてもらったが確かに教授の筆跡で、内容は珍品の収集についての礼状であり、不審(ふしん)な点はない。


 現在、事件現場は警察が検分(けんぶん)している最中で、その内、こちらにも事情を聴きにくるという。そして大学側は、この男が本当に事件に無関係だと分かるまで身柄(みがら)(あず)かってはくれないかと依頼してきた。(よう)見張(みは)りである。


 スタンフォードの一存では決めかねる事案であったが、教授の知り合いなら無下(むげ)にもできず、結局引き受ける事になってしまった彼に同情した私は、出来る限りの助力(じょりょく)を約束をした。


 そんな経緯(いきさつ)の後、私たちは(あらた)めて挨拶した。


「僕はシャーロック・Hです。よろしくお願いします」


「よろしく。大変な事件に巻き込まれたね」


 スタンフォードがそう言うとシャーロックは「そうですね」とまるで他人事(たにんごと)のように返事をして握手をした。そして次に私と握手をする時に、突然に奇妙(きみょう)な事を言ったのである。


「あなたはアフガニスタン帰りですか?」


「どうして分ったんだい!?記憶探索(きおくたんさ)の魔法でも使った?いや、そんな気配(けはい)は無かったけれど…」


 私が(おどろ)いて(たず)ねると、シャーロックは(のど)(おく)でクックッと笑って答えた。


「魔法なんてとんでもない。観察した事から考えれば簡単です。あなたの日焼けを見れば暑い国にいた事が分る。それから南アジア独特の香辛料の匂い。後はまあ、アフガニスタン特産のラピスラズリで作られた余り似合っていない指輪(ゆびわ)から推理したのです」


 私は彼の説明に大いに驚かされた。説明されれば確かにその通りだが、それを一瞬で行う観察力と知識に感心を(いだか)かざるを()なかったのだ。


 これが私とシャーロックの出会いであり、今後(こんご)続く二人の物語の始まりである。


 後で聞いた話だが、シャーロックは魔法を全く使う事が出来ず、更には知識も持ち合わせていなかった。しかしこの天才的頭脳(ずのう)の持ち主は、そんな事は関係無く、この魔法がらみの事件を解決するのである。


 その活躍に、私も関わらせてもらえたのは、(まこと)に幸運であったと思う。



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