6.スキル、教会
若い衛兵の仕事が終わるまで待った。待っている間は門に来る人を観察したり、街の中をチラッと見たりしていた。するとわかったことがある。
街の景色はネットでよくある中世ヨーロッパとか、剣と魔法のファンタジーの世界の街とほぼ同じだ。臭いとか汚いといったことは感じない。清潔だ。
そして気になるのは門を抜けて真っ直ぐ行ったところに微かに見える緑。間違いなく木だ。それも高層ビルとかに並ぶサイズの。俺はアレを世界樹と名付ける。誰がなんと言おうとそう呼ぶ。
髪や目の色は、俺みたいに黒の人は少ない。金髪が若干多いかなと感じるが、髪の色は多種多様だ。
冒険者らしき人たちも見ることができた。全身鎧を着て、大剣を持っている人や、軽装で短剣を持った女の人。
衛兵さんと口論している人がいたので、聞き耳を立てていると、衛兵さんの言葉はわかるが、口論してる相手の言葉は理解できなかった。なので俺から見ると、おそらく違う言語で話してるのに意思疎通ができているという、謎の現象が発生しているようだった。いや、その現象を意図的に発生させるのが、《翻訳》というスキルの効果なのか。
「よし。それじゃ、教会に行こうか」
仕事が終わり私服に着替えた衛兵さんが詰め所から出てくる。出てくるところで先輩らしき人から飲みに誘われていたが、断ってしまっていた。申し訳ない。
「道案内よろしくお願いします」
「……敬語はやめないか?僕たち、たぶんだけど年齢近いでしょ?」
「そうですね。俺は17歳。衛兵さんは?」
「僕は19歳だよ。そういえば自己紹介をしてなかったね。僕はエルマント・アモート。気軽にエルマンと呼んでくれ」
そう言って笑顔で右手を差し出してきた。エルマンは、髪を短く整えた好青年という言葉が非常に似合っていた。
身長は俺より少し高いから180くらいかな?
「春晴って呼んでよ。よろしく」
俺はエルマンの手を握る。
握手の文化は異世界にもあるようだ。
「歩きながら話そうか」
そう言ってエルマンは大通りを歩き出す。俺もそれについて行った。
外に長蛇の列があったから中もさぞ賑わっているんだろうと思ってはいたけど想像以上だ。様々な店が並んでいて果物から怪しいもの。本格的な店まで多種多様な品揃えだった。
「スキルについて、どこまで覚えているんだい?」
「いやあ、ほぼほぼ何も覚えてなくて」
「そっか、じゃあ……スキル枠について話そうか。スキル枠というのは、スキルを保有するための籠の様なものなんだ。だからスキルはスキル枠以上の数は持てない」
エルマンが手で何かをすくうようなジェスチャーを行う。
「スキル枠の数は人によって違う。僕たちの様な人間の場合は、基本的に1個から5個だね。そしてスキル枠は増える事が無い。だからスキル枠は生まれ持っての運で決まるんだ。ごく稀に増える人はいるんだけどね」
「次はスキルの種類について。スキルには大きく分けて2種類。起動型スキルと非起動型スキルだ。非起動型スキルは自分の意思に関係なく常に発動していて、魔力の消費も無い。例えば自分の成長速度に補正が入ったりする、自分の種族の限界を超えるための《成長》系スキルとかね」
ほうほう。ゲーム的にはパッシブスキルみたいな感じか。
「それで起動型スキルは自分の意思で発動するスキルだ。一時的に自分の能力を上げてくれたり、特殊な力を使えるんだ」
「最後に特殊な例として起動型と非起動型の二つを内包したツリースキルがあるんだ。それのスキルレベルを上げると、ブランチスキルを手に入れることができる。ブランチスキルっていうのはスキル枠を使わないスキル、技みたいなものなんだ。一番有名なのは《剣術》かな」
おお《剣術》!かっこいいな。
「スキルの基礎知識としてはこの位かな。かくいう僕もこれより深くは知らないんだよね」
「聞いてる感じだとツリースキルが強すぎる気がするなあ」
「そうだね。やっぱりスキルを極めてくるとツリースキルが一番お得なんだけど、修行が一番キツいんだよね……」
エルマンと露店を冷やかしながら大通りを進むと白く荘厳な建物についた。
「大きいな……」
「そうでしょ?ここは聖教の教会だからね。少し待っててくれる?」
エルマンが教会の中へ入って行った。
『聖教の教会だからね』って言われても聖教が何か知らないんだけど。
そこの説明はしてくれないのかな、エルマンくん。
そしてまたエルマンを待つ。
「シュンセイ!もう来ていいよ!」
教会の扉を開き、エルマンが言う。
今回はあまり待たなかったな。
「わかった!」
教会の中に入ると、神父さんが小さな部屋に案内してくれた。もちろんエルマンも一緒だ。
神父さんは俺たちを案内すると、一言も発さずに部屋から出て行く。
この小さな部屋には、台座とそれに固定された青色の宝石の様な物しかない。
「この宝石に手をかざして、『スキル表示』って念じてみてよ。念じるんじゃなくて、言葉にしても大丈夫だよ」
「スキル表示」
俺がそう言うと、宝石が淡く光りだしてスキルボードを大きくした感じのモノが目の前に現れた。
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保有スキル 《疾走Lv.2》《潜伏Lv.1》《持久力成長Lv.4》
スキル枠 5
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スキルボードとは若干違うな。保有可能スキルが表示されてないし。お、《疾走》のレベルが上がってる。
……あれ?スキル枠って前に見た時4個だったよな……増えたのか。まあ、気にしなくていいか。
「……へぇ、スキル枠が5個ってすごいじゃないか!選択の幅が広がっていいな……これなら《翻訳》を持てそうだね。《翻訳》スキルを手に入れるには自分と違う言語を聞いたりすると良いって言われてるよ」
「じゃ、エルマンと喋ってればいいんじゃないのか?」
エルマンは少し思案してから答える。
「そう……なのかな。でも僕は《翻訳》を持ってるから意味ないかも。スキルを手に入れる方法って大雑把にしかわかってないから……」
エルマンがまた考え出した。
エルマンは俺のスキルを確認しようとした時、『スキルって言ってみて』とは言わずに『教会に行って確認しよう』と言った。
つまり、エルマンはスキルボードをその場で見ることが出来ないのではないか?
それに『スキルを手に入れる方法は大雑把にしかわかってない』とエルマンは言ったが、スキルを保有するのは、保有可能スキルのところにあるスキルを『保有する』と念じればできる。
『保有可能スキルのところにスキルを表示させる方法が大雑把にしかわかっていない』とエルマンは言ってないので、エルマンは保有可能スキルのところが見えない、もしくは無いといった感じか。
『スキル』と念じてみる。
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保有スキル 《疾走Lv.2》《潜伏Lv.1》《持久力成長Lv.4》
保有可能スキル 《観察》《翻訳》
スキル枠 5
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チラッとエルマンを見るが、俺のスキルボードが見えた様子はない。見えるのは俺だけのようだ。というかエルマン、いつまで考えているんだ。結構時間たってるぞ。
保有可能スキルのところに《翻訳》が増えているので、保有する。そろそろどれを保有して、どれを保有しないのか。取捨選択が必要だな。
《観察》は……一旦保留で。
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保有スキル 《疾走Lv.2》《潜伏Lv.1》《翻訳》《持久力成長Lv.4》
保有可能スキル 《観察》
スキル枠 5
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俺は宝石に手をかざし、スキルを表示させる。
「エルマン。考え事は終わった?」
エルマンは俺の問いかけに対して上の空で返事をする。
「いや、《翻訳》を使っている相手と話して《翻訳》が手に入るかは、まだわかってないけど――って、シュンセイ!?いつ《翻訳》を入手したんだ!?」
エルマンは非常に驚いている様子だ。視線が俺とスキルを行き来している。
《翻訳》を取れたのは一日中門のところにいたからだなと、あたりをつけた。
スキルを使うと魔力が勝手に使われます。自分が感じ取れなくても構いません。そんな人達のためのスキルです。




