5.知らないおじさんからお金を恵まれる
明らかに私お金持ってますという服を着たおじさんが、とてもいい笑顔で馬車の中から話しかけてきた。馬車の周りには筋骨隆々な男たちが武装して控えている。男たちの俺を見る視線は鋭い。
この人たち怖すぎ!護衛の人なのかな?不審な動きをしたら一瞬で制圧してきそうだし。見ないようにしよう。
「……そうなんですよ。実はどうやってここに来たのかも覚えてなくて。気付いたらこの道を歩いてたんです」
失礼の無いように話さないといけないかな。森の中でのことは言わなくていいだろう。
「ふむふむ。歩いて来たとすると荷物が無いね。それに私が見たことのない服を着ている、ふむふむ。一緒に旅をしていた者たちに捨てられたのかな……?帝国の方から歩いてきたようだな、ふむふむ。持ち物はそのパンだけかな?」
このおじさん、『ふむふむ』って言いすぎでしょ……口癖か?ふむふむおじさんと呼ぼう。
「はい、本当にこのパンしかなくて……」
そう言って俺はフランスパンをかじる。
やっぱ美味いな、フランスパンは。
「ふむふむ。では可哀想な君にこれをあげよう」
ふむふむおじさんが懐から袋を取り出し、こちらに投げた。
「これは?」
袋を受け取った俺がふむふむおじさんに問う。袋の中からジャラジャラという音がする。
「銀貨30枚だ。それで、半月は過ごせる」
「え!?いいんですか!?ありがとうございます!」
「構わんよ。私は今機嫌が良くてな。それでは失礼するよ」
そう言ってふむふむおじさんの乗った馬車は門をくぐり、街の中へと入って行く。護衛の人たちも走って馬車について行った。
えぇ……走ってついて行くのか。馬車にスピード落としてもらえばいいのに。急いでるのかな?
小さくなっていく馬車と人を見送る。
……ん?馬車が小さくなってないな。
大きくなってきてる?
戻ってきてるのか?
門から出る所で衛兵から制止されるが護衛の人たちが吹っ飛ばしていた。
それやっていいんなら検問要らないじゃん。
そして馬車が戻ってくる。護衛の人たちも戻ってきた。息を切らしている人はいない。
「一つ言い忘れたことがあったよ。君は聖言語を喋れないだろう?」
「聖言語?」
「ああ。聖言語は聖地周辺の国で使われている言語だ。今私は《翻訳》スキルを使っているから君の言葉がわかるが、他の人は理解できてないと思うよ。だからスキル枠に余裕があるなら、《翻訳》スキルを持っておくことをオススメする」
確かにふむふむおじさんの口の動きと、伝わってくる言葉が違う……!
「なら、衛兵の人はなんで僕の言葉がわかったんですか?」
「ふむふむ、それは——」
「それについては私が答えますよ。アルティスさんは何か仕事があるんじゃないですか?」
後ろを振り返ると、若い衛兵が戻って来ていた。
「そうだった!忘れていたよ。それじゃあ、頼んだよ!」
そしてふむふむおじさんの乗った馬車は行ってしまった。あ、さっき吹っ飛ばした衛兵に注意受けてる。
結局誰だったんだあの人。
「あの人はオーラス・アルティスさん。聖都でも一、二を争う規模があるアルティス商会の会長だよ」
お、衛兵さんがピンポイントで知りたいことを教えてくれた。商会の会長だったのか。
「それじゃ、さっきの疑問に答えようか。といってもそんなに難しいことじゃないけどね。ここは人の行き来が多くて、遠くから来る人もいるから時々言葉が通じない時があるんだよ。君みたいにね」
春晴は明後日の方向を見ながら苦笑いでその発言を流した。
「だから僕たち衛兵は《翻訳》スキルを持っていないといけないんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね」
「さて、本題に戻ろうか。一旦詰所の中に来てもらえるかな」
衛兵さんに案内されて応接室にやってきた。治安を守るための場所だからか装飾などは一切なく、無骨なる造りになっていた。
後で《翻訳》スキルはどこで手に入るか教えてもらおう。
「君の扱いは、身分証明ができない人と同じにしろって言われたよ。だから、街に入るのに銀貨3枚必要なんだけど……お金は持ってないよね?」
「いや、銀貨なら持ってますよ」
「え!?本当!?お金を持ってないと思ってたよ。いやーそれなら良かった」
俺のことを無一文で、記憶を喪失した可哀想な人だと思っていたようだ。
まぁ、さっきまでその通りだったけどね。
袋の中から銀貨3枚を取り出して、若い衛兵に渡す。
「じゃあ、君の名前を教えてくれるかな?名字があったらそれも……あ、どっちも忘れてる?」
「それは覚えてます。疏上春晴です」
「ソガミが名前なのかい?」
「いや、春晴の方が名前です」
「珍しいね。ここらへんでは聞かないかな。たぶん遠くから来たんだろうね」
そう言いながら、若い衛兵が紙に何か文字を書いている。
字もなんて書いてあるかわからないな。外国に来た気分。
「じゃ、これを渡しておくよ。絶対になくさないでね」
若い衛兵から鉄製の板の様な物を渡された。
「これは?」
何か文字が書いてあるな。なんて書いてあるんだろ。
若い衛兵が深刻な表情を作り、数秒目を合わせたのち口を開く。
「それは仮身分証だよ。今から3日間だけ有効だから、3日以内に身分を証明できる物を作ってここに戻ってきて。戻ってこなかったり、身分を証明できる物を作れなかったら……死刑だ」
「そんな無茶な!?」
声を張り上げて俺は衛兵に詰め寄る。その瞬間衛兵は笑い声をあげた。
「あははっ、冗談だよ。本当は指名手配されるだけだから」
それもそれで怖いな。全然軽くなってないし。
指名手配されて捕まると街から追い出されるらしい。身ぐるみ剝がされた後にね。
衛兵さんも可哀そうだと思ってくれたようで身分証明を取るのを手伝うつもりだと言ってくれた。
「それで、身分を証明できる物はどこで手に入りますか?」
「そうだな……君の過去を辿ることはできないし、街の中に知り合いもいなさそうだから、僕が思いつく中で一番簡単なのは冒険者になることかな」
なに!?冒険者!?気になるワードが出てきたな、冒険者っていう職業があるなら冒険者ギルドもあるのか?これは聞かねば。
「冒険者っていうのは魔物や魔獣を倒したり、珍しい植物を採取したり、土地の調査をしたりする職業なんだよ。知ってる?」
元の世界にあった異世界モノの小説に出てくる冒険者とあまり変わらないな!これは知ってると言っていいかな。
「少しだけなら知ってます。というか冒険者!なりたいです!」
男なら一度はなってみたいと思わないか?バッサバッサと敵を薙ぎ払う英雄とかに!
おそらく俺の目は今キラキラと輝いていることだろう。
「そ、そうか。じゃあ冒険者ギルドで登録しにいこうか。門を通って真っ直ぐ行ったら一際大きな建物があるから、すぐわかると思うよ」
若い衛兵は俺のテンションの変わりように驚いたのか、半歩下がって答える。
「わかりました。ついでと言ってはなんですが、《翻訳》のスキルってどうすれば手に入りますか?」
「《翻訳》?……ああ、そういえばアルティスさんとそんな話をしていたね。スキル枠は空いてる?」
スキル枠は確か4つで《疾走》《潜伏》《体力成長》の3つしかスキルを取ってなかったよな。
……待てよ、最初に見た時スキル枠は3つだった気もするな。
「あー、わからないです」
「だったら教会に行って確認してきた方がいいね」
なんで教会に行くかは知らないが、スキルについてもっと知りたいな……。
「実はスキルについての知識も忘れてて、スキルがどんなものなのか、うろ覚えなんです」
「そうなのか……よし!そろそろ仕事が終わるから、僕が一緒に行こうか!」
少し吹っ切れた表情で、若い衛兵が提案してきた。
「え、いいんですか?」
スキルのことだけ聞こうと思ってたんだけど……。
「うん、いいよ。教会は聖都の南側だから迷うだろうしね。少し待っててくれるかな?」
「わかりました。ありがとうございます!」
優しい人にしか会ってないな……なんでだろ。
……あ、パン食べ終わっちゃったよ。
聖地=聖都です。聖都は国でもあります。




