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春の世界  作者: こだわりパセリ
序章.異世界の幕開け
12/19

12.西側リサーチ

 

 森を抜けて街道に出てからは《疾走》を使う。ここから街までならノンストップで走り切れる。これもスキルの賜物か。


 聖都の周りは一面平野で見晴らしがいいが、芝しか見えないとなると不安にもなる。


 門を守っている衛兵にギルドカードを渡す。何気に初めてだから緊張したけどすぐ通してくれた。ただ、「冒険者か……細かいことはいいから早くギルドに行ってやれよ」って言われたのには首を傾げた。チェックも心なしか甘めだった。


 冒険者ギルドの扉を開けると、ほど近いテーブルで飯を食べている教官と目が合った。


「やっと帰ってきたか小僧!どうだ、ツユナキ草は取ってこれたのか?」


「取ってくることは出来ましたけど、帰り道にラインボアに追いかけ回されて散々でしたよ」


「ワハハ!そいつは災難だったな!」


 教官に背中をバシバシと叩かれる。冒険者ギルドで教官を務めているだけあって、だいぶ痛みを感じる。昔は相当な実力者だったのだろうか。


 教官との会話はそこそこに、ツユナキ草を納品するためカウンターへ向かう。もちろん向かうのはアリアさんの所。他の人はまだちょっと遠慮したい。


「お疲れ様です、ソガミさん。納品ですね」


「はい。ツユナキ草五束とラインボアの角です」


 そう言ってポーチから今回の戦利品を取り出す。


「そうですね……状態から見てツユナキ草は全部で銀貨六枚、ラインボアの角は銀貨三枚でどうでしょう」


「ツユナキ草の方がラインボアの角より高いんですね」


「はい。実は現在、西の方の街で大量の解毒薬が必要になっていて、その原料がツユナキ草なんです。なので今朝から冒険者ギルドはツユナキ草の買取金額を上げています」


「うむ。だから本来はこの三分の一くらいの値段でもおかしくはない」


「教官……!びっくりしたじゃないですか」


 後ろから教官みたいな坊主頭が出てきたら心臓に悪いからやめてほしい。


「それでどうなんだアリアちゃん。西側の現状は」


 教官の佇まいが一気にできる男のそれへと変わった。


「報告によると、数日前に迷いの森に現れた気候魔獣が周囲の植物の毒性を一時的に引き上げる特性を持っているらしく、近づいた街の食材が汚染されてそれを食べてしまった人たちが病に罹ったようですね」


「ほう……《季節(シリーズ)》は?」


「《秋》だそうです」


「なら北か南に頼らんといかんかもしれんな。南なら忙しくなるぞ」


「えっと……気候魔獣ってなんですか?」


「魔獣という身体のほとんどが魔力で構成される非常に強力な生き物がいます。その中でも更に強い力を持ち、周囲の天候すらも変えてしまう個体のことを私たちは気候魔獣と呼んでいます」


 アリアさんが魔獣についての知識を教えてくれる。周囲の天候を変えることが出来る気候魔獣か……もし遭遇したらどうやって戦う?いや、戦うなんて選択肢を選んじゃいけないのか。まず逃げないと。


「気候魔獣は例外もあるがそれこそSランクやAランクのパーティが討伐するもの。小僧は出会ったらすぐ逃げるんだ」


 教官は逃げることに全力を注げと助言してくれた。今はそれで納得しよう。まだ俺には何もできない。


「それにしてもさすが帝国といった所ですね。たった半日で原因を突き止めてしまうなんて」


「ここからほど近い西側といえばトライアングルがある。大方ローリーの奴が出張ってきたんだろう。植物に関してやつの右に出る者はおらんからな」


「【土地神】ローリー・カロラインですか。確か教官と同じ世代でしたよね、まさかどこかで面識が?」


「う、うむ。儂が現役だったころに少しな……」


 教官の目が明らかに泳ぎ始め、心なしか体もくねりだした。分かりやすすぎだろ。


「例えば?」


「彼女が乗った馬車をチラッと見かけ……ただけです」


「ないじゃないすか」「ないんですね。面識」


 俺とアリアさんの目線が教官を突き刺していく。いたたまれなくなった教官は平謝りだった。


「すまん!……教官は大物と知り合いなんだすごいなって思われたいと思いましてー!最近はみんな成長して儂を頼ってくれないんだよ……」


 教官の目が少し潤いを持ち始める。いい歳したおっさんが泣いても何も感じないぞ。だからやめてくれ。


「……分かりました。これから教官を頼りますから」


「ホントか!感謝するぞシュンセイ!」


 その一言だけで教官は笑顔になった。

 俺が教官の相手をしている間にツユナキ草とラインボアの角を片付けたアリアさんから銀貨九枚を受け取り、冒険者ギルドを出る。


「頼りになる知識、期待してます。それじゃ」


 冒険者ギルドを出て大通りを歩く。ここから『槍の遺産亭』までは、歩いて十分もかからない。



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