壮大なる世界
「フラディス……所有する者に特殊且つ強大な力を与える宝玉。代々"天上天下に認められし者達"にのみ所有を許される平和の象徴__と、わしが見た文献には書かれておった。
"天上天下に認められし者達"とは、おそらく"国王"のことを指しておる。つまり、フラディスはお前の持っているものの他にも、各国の国王所有のもと世界各地に点在しとるのじゃ。」
じいちゃんの説明とともに、フラディスを模した色とりどりの球体が俺の前で数珠状に集まって輪を形成しクルクルと回る。
「へぇ〜、いろんな色のフラディスがあるんだな……。色が違うってことは俺のフラディスと能力も違うのか?」
「左様。フラディスによって能力は異なっておるようじゃ。お前が持っとるのはその中の一つ、"魂のフラディス"というわけじゃな。」
「他にもいろんなフラディスがある……つまり、フラディスを集めるっていうのは世界中の国を巡るってこと……?」
「ホッホッホ、そうじゃな。ワクワクするじゃろ?」
「ああ…!」
小さい頃から俺はじいちゃんのいろんな話を聞くのが好きだった。実際はどんな景色なんだろう、どんなものがあるんだろうと聞くたびに頭の中で冒険をしていた。それはいつからか世界中を巡っていろんなものを見てみたいという漠然とした夢に変わっていたので、いざそれが現実的になると心の奥底からとめどなくワクワクが溢れてくる。
しかも、俺と違うフラディスを持つ人たちがいるとなればぜひ戦ってみたい。きっと猛者ばかりだろうが、俺の力がどこまで通用するのか試してみたいし……
「おぉ〜い、アシメ、お前がどれだけハイテンションなのかはわしも小さい頃からのお前をみてればわかる。じゃが、わしにももっと喋らせてくれんか。序章終わったらわしほぼ出番無くなってしまうじゃろ!」
「ああ、ごめんじいちゃん」
普段ならいろいろとツッコミたいところもあるが、今の好奇で満たされた心には、そんな感情の入る余地はない。
「オホン……まぁ、好奇心に満ち溢れていることは良いことじゃ。では次に、"この世界"について話そう。前にも少し話してやったことはあるが、読者のためにも改めて、な。
アシメよ、この世界は実に壮大じゃ。お前が想像する何十倍もな。およそ人の一生では経験しきれんほどの冒険に満ち溢れておる。わしも全ての国を訪れたことはないが、遺跡が点在する砂漠の国や、年中雪が降り止まない白銀の国、美しい水の都に、世界中の植物が咲き誇る不思議な森、また書物によれば巨大な屋敷の中に一つの国家がある、なんて国もあるらしい。もちろん、戦闘に長けた強者達も世界各地にいることじゃろう。まぁこれは聞くまでもないじゃろうが、もしお前がフラディスを集める旅に出るとなると、既存するどんな物語も霞むような大冒険になるじゃろうな。」
「ああ……行くに決まってる!」
じいちゃんの言う通り愚問だ。そんなの行かない理由が見つからない。
「フフ……結構。ただし!」
と言ってじいちゃんが人差し指をピッとたてると、それまでじいちゃんが魔法で作り出していた絵などがフッ……と消えた。
「ただし?」
「旅に出るにはお前はまだ未熟すぎる。ある程度は強くなっとるかもしれんが、まだまだフラディスの力をものにできておらん。旅の先々ではきっと数々の障害が待ち構えてるはずじゃ。いくら探究心があったとて、強くなければ世界を巡ることは不可能に近いじゃろう」
「うっ……」
俺なら大丈夫だ、と言いたいところだが、じいちゃんの言うことはたしかに正しい。だんだんとフラディスの力に順応してきてはいるがまだ力を常時発動することは出来ないし、じいちゃんに勝てたこともない。
今すぐにでも冒険に出たいとはやる気持ちがある一方で、自身の力不足も十分に自覚している。
「そこでじゃ。一年。あと一年待つのじゃ。
本当はもう二〜三年と言いたいところじゃが、お前の気持ちも汲んで一年で鍛えぬく」
「一年……」
「左様。最も、お前がその期間内に成長できればの話じゃがの。どうじゃ、お前にはその覚悟があるか?」
「ああ、もちろんだ……!」
異論はない。一年後。それまでにフラディスの力をもっと引き出せるようにする。限界のその先へ。
「うむ、その意気じゃ」
と言うと、じいちゃんはニッコリと笑った。
「おっと。そうじゃ、うっかり忘れておったわい。お前に渡そうと思ってたものがあるんじゃ」
と、じいちゃんは俺に小さなつづらの箱を手渡した。
「これは……?」
中に入っていたのはアンティークな雰囲気を醸し出した金のブレスレットだった。ブレスレットには何かがはまりそうな穴がぐるっと一周空いていて、細部まで繊細な装飾が施してあった。
「いつじゃったか、昔誰かからもらったものでの、いろいろ調べて見るとどうやらただのブレスレットではないことがわかってな。」
「ただのブレスレットじゃない?」
「そうじゃ。まぁ、説明するより見たほうが早いじゃろ、とりあえずつけてみぃ」
「ああ」
じいちゃんに言われた通り、腕にブレスレットをつけてみた。少し大きいかと思ったが、つけた途端、俺の腕に丁度良いサイズにシュッ……と縮まった。
「どうじゃ?着け心地は」
「ああ、ピッタリだ。なんか今、これ縮まったんだけど魔法でもかかってるのか?」
「まぁ魔法ではないが、特殊な力は秘められておるようじゃ。ではアシメ、フラディスを解放してみるのじゃ。おっと、室内じゃから控えめにな」
「え?いいけど……」
なぜここで?と疑問に思ったが、とりあえず言われた通りになるべく力を抑えた状態でフラディスの力を解放してみた。
すると、ブレスレットに空いた穴の一つにポォ......と薄浅葱色の光が灯った。
「これは……!?」
「うむ、どうやらそれはフラディスの力と呼応するようじゃ。わしの解析が間違ってなければそのブレスレットには、フラディスと共鳴しその力を増幅させる効果が備わっておる。明日からの修業は今までより厳しくなるからの、それが必要になってくるじゃろう。上手く使いこなすんじゃぞ?」
「ああ……!ありがとう、じいちゃん!」
「うむ。では明日の修業に備えてそろそろ寝るとしよう。明日からが楽しみじゃな」
「望むところだ!」
そうして、結局寝ずに二次会を始めたじいちゃんもようやく寝静まり俺の誕生日の夜が終わると、翌日から過酷な修業の一年が始まった。
「スピードが落ちとるぞ、アシメ!もっと素早く動くのじゃ!」
「くっ……、はぁっ……!」
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"ゴォォォォォォォ!!!"
「どうした、この程度のエネルギー弾も返せんのか!それ、どんどん強くするぞい!」
「うぐぐっ……まだまだぁぁぁ!!」
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「フフ……これは避け切れるかのぅ?くらえ!"100連……!えぇ……玉"!」
「そんなの止まって見えるね!」
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「ファルファリア?」
「そうじゃ。今までわしが見てきた中で一番強く、また美しい技でな。力を大幅に消費するが、己の熟練度によって威力が格段に変わる。まぁ、いわゆる切り札というやつじゃ。それをお前にもマスターしてもらう。
まずこうやって片手を上に伸ばしてじゃな……」
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そうして、長いようで短い、……いや、やっぱりとっても長かった一年が過ぎた。