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空白のHISTORIA  作者: 卯月なのか
序章
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10年前の悪夢(前篇)

 目が覚めると、俺は足早に階段を降り、夜通しディナーを作ってくれていたのか満身創痍の様子で自身が作った"移動型ジャグジー"でくつろいでいたじいちゃんに、"夢の変化"について話した。

 最初はただ黙って俺の話を聞いていたじいちゃんだったが、事の一切を聞き終えるとむむむ……と少し唸った後、やがて虚空を見つめながら、


「そういえば……あれはちょうど10年前のことじゃったかのう……」


と呟いた。


「10年前……?」


と、俺は話してる間にも移動を止めないジャグジーと並行に歩きながら聞き返す。


「……まぁ焦るな。話せば長くなる。夕食の時にゆっくり話すとしよう」


 じいちゃんがそう言うのでとりあえず夜まで待つことにした。もっとも、ブクブクと泡を立てて遊んでいるじいちゃんの様子を見ると、本当に重要な話なのか少し心配にもなったが。


 いつものように修業をした後、じいちゃんは探し物があると言って書斎へ降りていった。昨夜から今朝にかけてあらかた準備を終わらせていたらしく、既に食卓には食器が並びキッチンから漂う香りはよだれを誘う。一方俺は、お祝いに来てくれたウォオクさん達と雑談をしてのんびりとした午後を過ごしたが、やはり夢のことが気がかりでいつもより時間の流れが一段と、いや、二、三段と遅く感じられた。


 長い長い1日が終わり、ようやく夜がやってきた。俺とじいちゃんは食卓を挟んで向かい合うようにして座っている。しかし、食卓にまだ料理の姿はない。


 ふいにじいちゃんが口を開く。


「ふむ……、先にパーっと誕生日会をやってしまってからでも良かったんじゃが、きっとお前はそれどころではないじゃろうと思っての、ディナーは話の後じゃ。その方がお前も良いじゃろ?」


 どうやらじいちゃんも俺の気持ちを汲み取ってくれていたらしい。いつになく真剣な表情だったじいちゃんをみた手前、俺からはなかなか言いづらかったのでむこうから提案してくれたのは嬉しかった。


「じゃが……まぁ長くなるからの、しばらくはわしの台詞が多くなるから覚悟するのじゃぞ?」


 わざわざ"話"ではなく"台詞"というところは流石じいちゃんだ……などという余計な考えは捨て、俺は一度深呼吸をするとゆっくりと頷いた。

 

 じいちゃんはゴホンと一つ咳払いをすると、指を鳴らして"人形の夢と目覚め"を奏でているヴァイオリンを止め、静かに口を開いた。


「ふむ、何から話すかの…… わしも記憶力にはちと自信があるんじゃが、10年も経ったからかのぅ、あちこち記憶が抜け落ちとるんじゃ……

 さて、お前が何度も見とるという"例の夢"のことじゃが、もしかするとそれは夢ではないのかもしれん」


「夢じゃない……?それってどういう…… 」


思わず話を遮って質問してしまう。


「あぁすまんすまん……言葉が足りんかったのぅ。正確にはアシメ、その夢はお前の"過去の記憶"ではないか、ということじゃ」


「過去の記憶……?」


「そうじゃ。まぁ、わしはお前から聞いただけで直接その夢をみたわけではないから断定はできないがの。じゃが、似とるんじゃよ……10年前の"あの日"の光景にな……。


10年前__。ちょうどお前の6歳の誕生日の日、あれは実に爽やかな朝じゃった。豊漁祭真っ只中で市場も活気に溢れておった。

 わしは……たしか昨日と同じようにディナーの準備を……いかん、記憶が曖昧じゃがたしかそうだったはずじゃ。ずっとキッチンにこもっておったせいで外の様子など全くわからんかったが、今思えばその時既に"異変"は起こっとったのかもしれんのぅ……。


わしにそれを気づかせたのは大きな地響きじゃった。巨大な拳でこの星を殴ったようなけたたましい音と衝撃が室内におってもビリビリ伝わっておったわい。なんとか作った料理や他の食器類などはわしの魔法で守りきったが、やはり事の原因を確かめずにはいられなくての、一目散に外に飛び出したんじゃ。


 異変が起きとることは誰に聞くまでもなかった。今朝の澄み渡った青空は見る影もなく、赤黒い空から無数の光線。まさにアシメ、お前が夢で見とったという光景そのものじゃったかもしれん。幸い、小さなシュメータ村には……うむ、たしか光線のほとんどは直撃することはなく村の周辺に降り注いでおった。

 わしは村全体を覆う防壁(バリア)を何度も張ったのじゃが、一回の防壁で耐えられたのはせいぜい一発程度で、いくつかは……はて、どこに落ちたんじゃったか……まぁ、少なからず村にも被害を及ぼし始めたんじゃ。

 とはいえ、加勢できる人間も少なくての、ウォオクさんやノーヤ達数人で住民の避難や光線の対処に悪戦苦闘しとった。そして、なんとか村の住民全員の避難を完了させた。範囲が狭ければわしの防壁もその分耐久力が増すからの、皆でその中に固まって悪夢が終わるのを必死に願っておった。


 ふと、わしは大変なことに気づいた。

アシメ……そう、お前の姿がどこにも見つからなかったんじゃ。それを聞いたウォオクさん達もすぐ探しに行こうと言ってくれたんじゃが、この惨状の中彼らが防壁の外に出てやられてしまっては元も子もない。皆の制止を振り切り、わし1人で村中を探し回った。10年前はわしもまだ少しは若かったからの、光線をうまく避けることは不可能なことではなかったのじゃが、どこを探してもお前は見つからなかった。ふむ……たしかその後……はて?思い出せん……」


たしかに宣言通り長かったじいちゃんの話が止まった。


「その後……?何が……一体何があったんだ!」


 "例の夢"が俺に何を伝えようとしているのか、少しでもヒントが欲しい。じいちゃんの話はきっと夢に関係があるはずだ。もどかしさは思考より先に言葉に出た。


「えぇい、ちょっと待っておれ!今必死に思い出しておるところじゃ!ふーむ、おかしいのぅ……まるで記憶にモヤがかかっておるようじゃ……

お前を探しとった時……何か……何か大きな……


そうじゃ!たしかそれまで赤黒かった空が突然紅色に染まって……今までの比にならんくらいの巨大な光線が降ってきたんじゃ。」


「それって……!」


ふと夢に出てきた光線を重ねる。


「お前を探すのが第一優先じゃったが、あれが村に落ちればお前もどの道助からん。そう思ったわしはその光線の元へ全速力で向かった。

いや……正確には向かおうとしたのじゃ。しかし……」


「間に……合わなかった……?」


「………………。どこに落ちたかはわからんかったが、突然光線が目を開けてられんほどに光ったかと思うと、強風……というよりあれは打撃と言っても過言ではないかの……まぁ、とにかくぶん殴られたような”痛みのある風”がわしを襲ったのじゃ。一瞬の出来事じゃったから、防御態勢に入る間もなかった。流石のわしでも本能的に死を悟ったのぅ。


 その先は……わしにもどうなったのかわからん。

 おそらく光線が落ちた衝撃で吹っ飛ばされ、何かにぶつかって気絶したのじゃろう。あぁ……耳鳴りがしとったのは微かに覚えておるな」


 ふぅ、と深呼吸をするとじいちゃんは再び話し始めた。


「ここからの記憶は割とはっきり残っとるんじゃが、その後奇妙なことが2つ起こったんじゃ。

 まず1つ、あれだけ巨大な光線が落ちたにもかかわらずわしを含めた村の住民全員が生きておった。普通あの規模の光線が爆発すれば、人間の命は疎か村ひとつが消し飛ぶのもわけなかったじゃろうに……

 しかしまぁ、これに関しては誰も死んでおらんし、結果的には良しと考えられなくもない。じゃがの、本当に奇妙なのはもう一つの方なんじゃ」

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