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空白のHISTORIA  作者: 卯月なのか
序章
5/15

フラディスを宿す少年


"ゴォォォォォォォオオオ!!!"


 速度を増したじいちゃんのエネルギー弾はその大きさに見合った爆音とともに大爆発した。


 俺ではなく、じいちゃんとともに。


 爆発する直前、なんとか俺は押し返すことができ、そのエネルギー弾はそのまま一直線にじいちゃんの方に飛んでいったのだ。


 パラパラと舞い上がった砂や石が落ちてくる音だけが聞こえる。黒煙のせいで確認できないが、果たしてじいちゃんには当たったのだろうか。

 まぁ、当たったところでじいちゃんが死ぬことはないだろうが、少なからずダメージは入るはずだ。

 だんだん視界が開けてきて、少しずつじいちゃんのシルエットが浮かび上がってくる。


「ホッホッホ……。流石じゃのぅ、アシメ」


 煙から現れたじいちゃんは涼しげな顔でローブの煤を払っていた。

 流石だ。あれほどの速さのエネルギー弾を瞬時に見切り、完璧にかわし……


 いや、よくみると服の裾が燃えてチリチリになっている。どうやら油断していたようで、かわすのに精一杯だったのだろう。


 ははぁ……さてはじいちゃん、強がってるな?


「な、なんじゃ、さっきからじろじろ見て。あ、いかん裾が…………ゴホンゴホン。とにかくじゃ。あの攻撃を跳ね返すとは、だんだんと"フラディス"の扱いに慣れてきたようじゃな。ま、わしは"完璧"に避けれたがの!」


 もういいよじいちゃん……否定すればするほど逆に肯定してるから。


 それはさておき、先程からじいちゃんが言っている"フラディス"とは何か。俺もじいちゃんから聞いただけなのだが、ざっくり言えばそれを持っている人に強大な力を与える宝玉のことだ。細かいことはよくわからないが、じいちゃん曰くどういうわけか俺はそのフラディスを生まれつき体の中に宿しているらしい。

 そのおかげと言うべきなのだろうか、精神を研ぎ澄ませてある一点に力を集中させると俺の中のフラディスが呼応してフラディスが発動、すなわち"宝玉の力"を引き出すことができるのだ。


 フラディスを発動すると、俺の身体は薄浅葱色のオーラに包まれる。もちろん見掛け倒しではなく、パワー、スピード、耐久力など全てのステータスが格段に上がる。上手く表せられないが、なんというかこう、体の内側からグワァァァっと力が込み上げてくる感じだ。

 フラディスを発動できるようになった当初はその状態を10秒保つのに精一杯だったが、今では1時間程度なら発動を保持したまま戦うことができるようになり、そのうえ……

「長い!!!説明が口説いぞアシメ!!ほら見るのじゃ!!お前が語ってる間にローブが新調できました!」


 また遮るかじいちゃん。モノローグ中は時が止まる暗黙のルールを理解してほしい。


「……わかったよ。じゃ、一気に全力でいくよ!」

「まったく……。昨日より成長できとるんじゃろうな?」


 再びお互いに戦闘態勢に入る。両者ともすぐに動かず相手のでかたをうかがう。

 フラディスのオーラがユラユラとほとばしっている。じいちゃんも白いオーラをまとい、その両手からは溜まった魔力がバチバチと散る。


(今だ!)


そう心が判断した時には、既にじいちゃんの懐に拳が届くところだった。


(よし、決まっ……)


 ……っていなかった。俺が出せる最速の攻撃をしたつもりだったが、じいちゃんはここでもやはり反応してきた。

 ギリギリギリ……とぶつかりあった拳が震える。数秒の膠着状態の後、バッとお互い一度距離をとると、再び一進一退、いや全進無退というべきか、お互い余力を残さぬ猛ラッシュを繰り広げる。拳がぶつかるたびに稲妻がはしり火花が散る。


(よし、そろそろ……)


 じいちゃんの攻撃をさばきつつタイミングを見計らい、右手に力を集中させる。なかなか隙がないじいちゃんだったが、一瞬、小石を踏んで体制を崩しかけたのを俺は見逃さなかった。


(今だ……!!!)


 一瞬の隙を見極めると、右手に溜めていた力を解放し、ほとばしっているオーラで創り出した大きな拳を右手にまとう。そして…


「"魂の拳(ソウル・フィスト)"!!!」


 薄浅葱色に輝く拳を勢いよくじいちゃんに叩き込む。よし、今度こそは決まった……!

 俺の攻撃をまともに受けたじいちゃんは大きく後方に吹き飛び、凄まじい衝突音とともにバリヤーにたたきつけられた。メキメキとバリヤーにヒビが入る。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 だんだんと使いこなせるようになってきたフラディスだが、まだ完全に制御しきれず、激しく体力を消耗してしまう。とはいえ、あれだけの攻撃を直で受けたんだ、じいちゃんも少しは応えただろう。念のため構えを取ったままで巻き起こった土煙がおさまるのを待つ。


 刹那、背後に気配を感じた。が、振り返る頃にはもう遅すぎた。


「"模倣(イミタヅィオーネ)魂の拳(ソウル・フィスト)"!!」


吹き飛んだはずの魔法使いはニヤッと笑いながら俺に拳を叩き込んだ。


バリィィィィィン……!!


 気づくと俺は仰向けになり、衝突の衝撃によって崩れさっていくバリヤーを仰いでいた。やがて、やけにニヤニヤした老人が覗き込んでくる。


「はぁ……」


 もう何千回目だろうか。数える気も失せたが、とりあえず今日も俺はじいちゃんに負けた。




 その日の夕方。夕食を食べながら俺たちは今日の修業のことなどを話していた。


「まぁ反省点はいろいろあるが、とにかくお前はまだまだわしには敵わんということじゃな〜」

「むむむ……」


 悔しいが事実だ。どうやったら勝てるのだろう。魔術と武術を組み合わせた戦い方をするじいちゃんの強さは軽くチートである。

 そんなことをグルグルと頭の中で考えてると、はっと今朝のことを思い出す。


「そういえば、今朝もまたあの夢を見たんだ」


「あの夢というと、"例の夢"のことじゃな」


「ああ。なんでこう何度も何度も同じ夢を見るんだろう?」


「ふむ……。ここまで続くと偶然とは言いにくいしのぅ。もしかしたらその夢はお前に対する何かしらのメッセージなのかもしれんな」


「何かしらって……何だよ」


「何かしらは何かしらじゃ」


「適当だな……。でも何だろう、あの夢何かがひっかかるんだ……。何か……もっと大切なことを忘れているような気がする。じいちゃん、俺の夢について何か心当たりない?」


「何かって何じゃ?」


「何かは何かだよ」


「あ、あるわけないじゃろ、第一なんでお前の夢なのにこっちの方が詳しいんじゃ!」


「ええ……?」


 少しだけ違和感を覚えた。明らかに様子がおかしいこともそうだが、そこまでして何を隠そうとしているのか。なぜ隠す必要があるのか。

 数秒の沈黙の後、流石に隠しきれないと悟ったのか、ため息をついてじいちゃんがボソッと呟いた。


「…………。まぁ、時が来たら話すとしよう」


 聞きたいことは沢山あったが、じいちゃんの少し切なげな表情を目の当たりにすると、それ以上聞くことは阻まれた。


「おっと、明日はお前の誕生日じゃったな!料理の仕込みをするのを忘れておった!」


 じいちゃんはパッと表情を一変させると、無駄に巨大なキッチンに飛び込み、例によってじいちゃんの魔法でひとりでに動く調理器具達と何やらキッチンで料理にとりかかった。


パリィン!パリィン!グヮッシャーン……!!


 ……聞こえてくるのは本当に料理をしているのか心配になる音ばかりだが…...。まぁ大丈夫だろう、きっと。うん、多分。


 じいちゃんwith調理器具達によるオーケストラが奏でる不協和音をよそに、俺は軋む階段を上って床に就いた。



 その夜。俺はまた"例の夢"をみたのだが、その夢は今までとは大きく違い新たな"変化"が起こった。

◎空白のBUTAIURA

アシメが寝静まった後。キッチンではオーケストラの演奏が続いていた。


パリィンパリィンパリィ〜ン!

カシャッカシャッベチャ!

グツグツグツグツ……ブオゥブオゥ!!


オーケストラの奏者達はそれぞれ自分の割り当てられた仕事を楽しそうにこなしている……ようだ。


「これお前達!真剣にやらんか!」


コンダクター"G"の怒鳴り声が響く。

ピタッと調理器具達の動きが止まる。


「全く……この調子じゃ明日までに間に合わんぞ!」

そんな適当に作ったんじゃこのスープじゃって……」


そういうと、"じいちゃん"はグツグツ煮えたスープを一口味見する。


「うむ?美味い……美味いのぅ……。お前達ふざけてたんじゃなかったのか?」


とじいちゃんが聞くと、オーケストラの奏者は皆各々の動き方で頷く。どうやらちゃんと真面目に取り組んでいたようだ。


「フフッ、そうじゃったか。わしが少し間違っていたようじゃな。じゃ、気を取り直して、皆で協力して最高のディナーを作るぞい!」


ガチャガチャガチャ……!!!


奏者達は互いの体をぶつけ合い健闘を祈りあうと、再びそれぞれの演奏もとい、料理の仕込みに取りかかった。

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