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空白のHISTORIA  作者: 卯月なのか
序章
4/15

"日課"

 家に帰って両手に抱えた食材等をなんとか室内に運び込むと、俺はすぐに海岸とは反対側、家の裏手にある"修業場"へと向かった。

書斎でじいちゃんが"先に"と言っていたのは"修業"より先にという意味である。いつからかは覚えていないが、小さい頃から毎日行ってきたじいちゃんとの修業は今では日課となっている。

 

 俺たちの家は村のみんなが住む住宅街とは離れた少し高台のような場所に建っているため、思いっきり戦っても誰に迷惑がかかることもない。

 というのも、発明好きのじいちゃんは失敗も多いためたびたび作業中に爆発する。「ケホケホ……また失敗じゃ……」で済み何事もなかったかのように処理されれば良いが、そうもいかない。一度爆発させれば自宅は疎か近隣の住民にも被害が及んでしまう。それを案じたじいちゃんは、誰もいない雑草だらけの土地を開拓し家を建てたのだ。

 

 修業場につくと、ウォーミングアップがてら着替えてくると言って家に入っていったじいちゃんを待った。


 家の裏にそびえる風車が潮風に吹かれてゆっくりと回っている。これもじいちゃんが造ったものらしい。だが、やはりそこはじいちゃんクオリティ。魔法使いのじいちゃんの作品だから、風車が無風でも動くことは百歩譲って良しとする。しかし、この風車、ただのオブジェなのである。別に発電をするわけでもなく。4枚ある羽根も妙な形で、二対に分かれている羽のうち一対は真っ直ぐだが短く、もう一対はやや長めだが、途中で曲がっておりL字型になっている。共通点といえば羽根の先がやや尖っていることぐらいだ。


 まぁ、別にただのオブジェだから駄目だとは言わない。ただ、この公害生産機、それなりに怨霊のある独特の金属音を24時間年中無休で奏でるため、夜中などは実に迷惑なのである。


「待たせてすまんの〜」


数分経った頃、じいちゃんが家から出てきた。先ほどのローブとは違い、栗茶色のマントを羽織っている。


「よし、準備はできておるな?」


歳の割には皺の少ない面長の顔に少し笑みを浮かべながらじいちゃんが言う。


「あぁ、もちろんだ!」


軽く拳を握り、グッと姿勢を低く構える。


「"防壁展開(ムロ・プロテティーボ)"!!」


 じいちゃんが水色のオーラを放つ両手を上へ向けると、多面体が織りなすバリアが修業場に展開された。周りに人がいないとはいえ、被害をなるべく防ぐためだ。


「行くぞ!アシメ!」


というじいちゃんの言葉を合図に、両者ともほぼ同時に地を蹴り飛びだした。


 数瞬後、空気が破裂したような音がシュメータに響いた。


 互いの拳がぶつかり、大きな音とともにその衝撃波が周りに広がる。僅かに俺の方が速かったと思ったが、じいちゃんは難なく順応してくる。


「そんなものかのぅ?」

「まだまだ……!」


 フッと互いに笑みを浮かべると再び拳と拳の応戦が繰り広げられる。あたりに拳のぶつかる音と衝撃波の音が絶えず響く。

 滴る汗。土埃の匂い。高まる高揚感。毎日やっていて飽きないのかと村の人に言われることもあるが、何にも変え難い修行のワクワク感は俺にとって1日の1番の楽しみだ。


「しまった……!」


 戦いの刹那、一瞬の隙をつかれてじいちゃんに両方の拳を手のひらで受け止められ、そのまま掴まれてしまった。


「動きは悪くないがまだまだ読みやすいのぅ」

「くっ……!」


力で押し切ろうとするが、なかなかそうもいかない。


「どれ、これならどうじゃ……?」


パッとじいちゃんが手を離したかと思うと、じいちゃんの両手が白いオーラで包まれる。


(まずい……!!)


とっさに防御体制に入ったその瞬間、


「ハァァァ!!」


もの凄い轟音とともに激しい強風がじいちゃんの両手から放たれる。


「うぐっ……!」


 ろくに目を開けることすらかなわないほどの猛威が悲鳴のように耳をつんざく。なんとか堪えようとするが、打ちつける強風は俺がその場にとどまることを許さない。地面をえぐりながら後方に吹き飛ばされ、そのままバリアの壁に勢いよく打ちつけられる。

 なおも吹き付ける強風は数秒経った後、ようやく止んだ。


「はぁ……はぁ……」


 強い。

 魔法を操るじいちゃんだが、武術に関しても圧巻の強さを誇る。戦いとは無縁のシュメータでその強さは必要かという疑問が湧かないこともないが、俺自身もじいちゃんとの修業は楽しいし、考えるのは野暮ってやつなんだろう。


 呼吸を整えつつふと前を見ると、流石はじいちゃん。全く体力を消耗した様子もなく平然としている。


「もう終わりかのぅ?」


不敵な笑みを浮かべるじいちゃん。


「まだまだウォーミングアップだ!」

「ホッホッホ、言うと思ったわい。じゃ、そろそろ本業らしく戦うとしよう」


そう言ってじいちゃんがバッと片手を空中へ広げると、年季の入った木製の杖がボウッ……と出てきた。根本から先端にかけて蔓のような装飾が螺旋のように渦巻いている。


「さて、何発避けられるかのぅ……」


俺は再び身構える。


「ゆくぞ……!!くらえ! ......えー、"エネルギー弾的なやつ"!!」


おい、ネーミングセンス!!


 バリアを張るときはムロなんとかみたいなよくわからない技名を叫んでいるくせに、戦闘中の技名はちょいちょい適当なことが多い。

 と、つい拍子抜けしてしまったがそんな暇はない。技名の通り無数のエネルギー弾が俺をめがけて飛んでくる。


「よっ、ほっ、よっ……」


一発一発を避けるのは容易だが、連続でくるとなると上手く退路を確保しなければいけないのでなかなか難しい。


「なかなかやりおる…… どんどんゆくぞ!」


 弾数とスピードが増加し、なおもエネルギー弾の嵐が続く。かわしたエネルギー弾が地面やバリアにあたり爆発する音は途切れることなく、だんだんと足場も悪くなってくる。こうなってくると全部は避けきれないので、何発かは上手くはじき返すしかない。


「また速くなったのぅ、アシメ。微かではあるが残像までできておる。いや、それはわしの老眼か......。しかし、速いだけではいかんぞ……?」


 ピタリとエネルギー弾が止む。何だ?とじいちゃんの様子を窺おうとするが、先の乱闘で巻き上がった砂煙でよく見えない。

ようやく砂煙がおさまってきて、じいちゃんのシルエットが浮かび上がると……


"バチバチッ……バチバチッ……"


そこにはさっきのエネルギー弾の10倍はあるであろう巨大なエネルギー弾が充填されていた。


「やばい……!!」


大きさで言えば俺の身長を優に超えている。流石にこれはどうやっても避けられない。


「さぁアシメ、これならどうかのぅ?」


と、じいちゃんが言うや否や、爆音とともに巨大エネルギー弾が発射された。まるで怯えているように震える地響きがその威力を物語る。


「ぐっ……ぐぐぐ……!」


 熱い。反射的に手を引っ込めてしまうほどではないが、熱気を帯びたこの火球を受け止めるにも限界が近い。

 何とか押し返そうと両手でエネルギー弾を押さえつけようとするが、ズルズルと後ろへ押されていく。


「(このままだと......!)」


 程なくして、こつっと何かが踵にあたる。いつの間にかバリアの際まで後退していたらしい。

このままだと背後のバリアにぶつかりエネルギー弾が爆発してしまう。そうなればただでは済まないだろう。それまでに何としてもこれを処理しなければ。


「んぎぎぎぎ……!!」

「ウォーミングアップはそろそろ良いじゃろアシメ?さあ、"フラディス"を解放するのじゃ!」


 遠くでじいちゃんが叫んでいる。ぼちぼち頃合いか。

 俺は一度深呼吸をして精神を集中させると、"内に秘めている力”を解放した。


「ハアァァァ……!!!」

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