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空白のHISTORIA  作者: 卯月なのか
序章
3/15

緑と海が調和する村 シュメータ

 家を出ると、ちょうど朝日が顔を出し始めたところだった。俺たちが住む家は海に近いところに建っているため、水平線から溢れ出る黄金の輝きを一望できる。澄み渡った空。そよ風に乗って漂う潮の香り。思わず伸びをしたくなる。まさに早起きの特権というやつだ。


「ほれ、行くぞ」


 じいちゃんもこの晴天のおかげだろう、心なしかさっきの不機嫌さはもうさほど無いように見える。


「ああ」


 朝日からエネルギーをたっぷり受け取った俺たちは絶えず穏やかに岸に打ち寄せる波を横目に、海岸沿いを市場へと歩いた。


 ここはシュメータ村。人口は少なく小さな村だが、漁業、農業などが盛んで、村の中心にある市場はいつも賑わっている。市場を抜けると港があり、味のある木造船が何台が停泊している。また、市場を挟んだ反対側は棚田や点在する畑からなる農作地帯や住宅街が広がっていて、季節によって様々な作物が芽吹き、四季折々の景色を見せてくれる。


 まぁ、そんな感じの緑あり、海ありの、のほほんとした穏やかな村だ。


 市場に着くと、朝早いにもかかわらず多くの漁師や農家が豊漁祭の準備に勤しんでいた。

 豊漁祭とは、1年の豊作・大漁を祝うとともに、来年もまたたくさん獲れるように祈願する祭だ。この村では、気候と海流の影響で豊作の時期と大漁の時期が重なっているため、その時期になると毎年こうやって催しが行われるのである。


「今年も大漁だァァ!!」

「うちの作物も今年はまた一段とでかいぜ!」

「まだまだあるぞォ!じゃんじゃん持ってこォ〜い!」


威勢の良い声があちこちで飛び交っている。


「ほぉ、今年もなかなか賑わっとるのう。去年よりも大分獲れたようじゃな」


たしかにじいちゃんのいう通り、去年より大盛況のようだ。どこを見ても作物や海産物で溢れている。


 しばらく市場を散歩していると、


「おぉ、じいさん、アシメ!どうだい、ちょいと見ていかないかい?良い魚入ってるぜぇ!」


近くにいた男が声をかけてきた。くすんだ金の短髪、彫りの深い顔に生えた無精髭、「(うお)っさんず(ラブ)」と書かれた鉢巻を巻いた筋肉質といった風貌。顔馴染みで俺が小さい頃から付き合いのあるウォオクさんだ。


「おぉ、ウォオクさんか。どれ、少し見てみるかのう。」


ウォオクさんの出店に移動すると、じいちゃん達は世間話をし始めた。


「そういえば最近はの……」

「ギョヤ!?本当かよ?それ!」

「凄いじゃろ?ただあれはの……」


こうなると俺の入る余地はない。


「じいさん来てたのか!お、アシメも!あんたら早いな!」


そこへ農家のノーヤさんも加わる。こちらはウォオクさんと反対に筋肉質ながらすらっとした体格で、土汚れが取れなくなったモスグリーンの作業着に身を包み今日もベージュの長髪を後ろで結んでいる。村の大人の中では比較的年齢が俺と近いこともあって、作業の手伝いや休憩時などに話すことも多かった。

まぁ、兎角大人達が話を始めると俺のような若者は除け者になる。雑談で盛り上がるおじさん達(おじいさん1人)をよそに、俺は市場を抜けて朝日が昇る港へと向かった。


 港にはいくつかの漁船がとまっていた。穏やかに打ち寄せる波間にまだ昇りきっていない太陽から少しずつ黄金の道が伸びてきている。ふと空を仰ぎ見ると、3〜4匹連なったカモメが気持ちよさそうに飛んでいる。あまり広くない村だが、自然のエネルギーに溢れているこの地は居心地が良い。

 そんなことを考えながらぼんやり海沿いを歩いていると、急に視界がガクッと傾いた。


「うぉっ!?」


 海岸ギリギリを歩いていたからだろう。片足を地面から踏み外してしまった。なんとかギリギリのところで踏みとどまることができた。


(危な……やっぱここの海岸危ないよな……なんでこんな変な形なんだろ?)


 変な形__というのは、端から中心にかけて窪むような形で不規則に陸地が侵食されているといった状態だ。ここは漁船などが停泊する波止場でもあるので、鋭利かつ歪曲されたこの波止場に停泊する漁船にはもれなく接触した際の傷跡が少なからずついている。

 港に来るたび何故整備しないのだろうと思う。じいちゃんだったら魔法使えばすぐなのにと。しかし、じいちゃんは、"これはこのままの方が良いのじゃ"と言うばかりで、整備しようとはしない。考えてみればじいちゃんは俺以外の人の前ではあまり魔法を使わない気がする。

 結局、日々荒波や嵐と戦っているウォオクさんたちも大して気にしていないので荒れたまま放置されているのである。


 ただ、ひとつ気がかりなことがある。といっても大したことではないが、侵食されずに残っている陸地の部分がなんとなく内側と合ってないように感じるのだ。断面から一度は整備されていた痕跡が見て取れるが、言葉で表すには些細な、言いようのない小さな蟠りが頭の隅に引っかかっている。

 まぁ、もともと整備された港が時間が経つにつれ風化して壊れ、そのまま沖へ流されてしまったんだろう、という結論がでてからはさほど気にしな……

「おぉ〜い!!アシメェ!!そろそろ帰るぞ〜!!」


 遠くでじいちゃんが呼んでいる。どうやら談笑が終わったようだ。

 ……っていうか読者の視点から見てるなら途中で割り込まないとか配慮してほしい。

 本日3回目のため息をつくと、俺はじいちゃんが買った大量の食材を持たされながら、家へと帰った。

〜人物紹介〜

魚屋ウォオクさん

・シュメータ村に住む漁師。「魚っさんず愛」と書かれた鉢巻がトレードマーク。口癖は「ギョヤ!?」


農家ノーヤさん

・シュメータ村に住む農家。若々しい見た目で気さくな性格。

植物を愛するが故に会話することで植物の気持ちがわかる(自称)。

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