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空白のHISTORIA  作者: 卯月なのか
第1章 大自然に囲まれた国「ゲシン」
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大自然に囲まれた国「ゲシン」

"ポオオオオォォォォォォ!!!"


 しばらく続いた暗闇の旅はけたたましい機関車の汽笛とともに終わりを告げた。突如前方から差してくる光に思わずアシメは目をつぶる。次に目を開けた時、飛び込んできたのは……


「森……?」


 シュメータの森と似ているが全く別物である。一言で言えばとにかく大きい。100mは優に超えている大木が壁のように連なってどこまでも続いている。とりわけ目を引くのは、一対の大木が互いに枝を伸ばし合ってできた巨大な門、そしてその向こうに伸びる獣道である。どうやらここがこの森の入り口のようだ。


 まもなく機関車は駅に到着した。シュメータ村と違ってこちらの駅は屋外にあった。深いため息をつくように機関車が煙をはく。

 早速客車から降りると、アシメは大木の前に立ちその巨大な門を見上げる。近くで見るとますます荘厳で力強い。……と、その時


"ポオオオオォォォォォォ!!!"


 再び不意打ちのように汽笛が鳴る。驚いてアシメが後ろを振り返ると、ものの数秒前まで乗っていたはずの機関車は、駅と共にその姿を消していた。


「あれ……?」


 多少不思議には思ったものの、とはいえあのじいちゃんが用意したものだ。急に消えたところでそこまで驚くほどのものでもない。


 ……と落ち着いている自分に気づき、アシメは随分超常現象にもなれてしまったなとため息をつく。改めて大木の方に向き直すと、とりあえずは中に進んでみることにした。


 門をくぐると、規則的に連なる木々によって形作られた道が奥へと続いていた。その各々が枝を張り巡らし"緑のトンネル"となっていて、隙間から漏れ出ている木漏れ日と相まって幻想的な空間となっている。昼でも薄暗いシュメータの森とはやはり大違いだ。アシメはゆっくりと深呼吸し、肺をマイナスイオンで満たす。



 刹那、道の先に一人の男が立っているのに気づいた。


 

 黒色の鎧に身を包み、その透き通るような銀髪はそよ風に揺れている。加えて身の丈ほどもある大剣を背負っており、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。


「(この森に住んでいる人なのか……?)」 


 それなりに距離が離れているため何をしているかはわからないが、どうやらアシメには気づいてないようだ。緑の茂った天を見上げている。

 少し近寄り難い雰囲気だが、シュメータから出て初めて出会った人である。この森についても何か知っているかもしれないと、アシメはとりあえず話しかけてみることにした。


 やがて相手の顔立ちがはっきりわかる距離まで近づいた時、その男と一瞬目があった。髪色と同じ銀の瞳は鋭く冷徹さを物語っていたが、同時に全てを見通しているような達観した威圧感も孕んでいた。

 と、突然吹いてきた一陣の風に視界を取られる。


 再びアシメが目を開けると、男の姿はなかった。あたりを見回すがそれらしい姿は見当たらない。


「(たしかにさっきまでここに……)」


 男の姿を探しつつ奥へと進んでいくと、道の両端に大きな門が現れた。入り口とは違ってこちらは人の手が加えられた人工の門である。彼はこのどちらかに入ったのだろうか。


"ドゴオオオォォォォォ!!!"


 突如、何かがものすごい勢いでぶつかったような轟音が森の中を駆け抜けた。


「な、なんだ!?」


 思わず身構える。音は左の門の方から聞こえた。

 門に手をあて恐る恐る開けてみると、


「ぅおらあああぁぁぁ!!!」

「ふっとべえええぇぇぇ!!」

「でりゃぁぁぁ!!」


 荒々しい声とともに飛び込んできたのは、木々に囲まれた開けた場所の中で屈強な男たちが取っ組み合う光景だった。まわりを見渡すとトレーニングに使うのであろう器具(といってもただ丸太や岩を無理矢理つなげたようなものばかり)が散乱していて、奥には集落らしきものも見える。

 とそこに、取っ組み合いをしていた男の1人がアシメの方に投げ飛ばされてきた。


「(やばっ!)」


 間一髪でなんとかかわすと、飛ばされた男は門に打ちつけられた。おそらくさっきの轟音もこの時のものだろう。


 投げ飛ばされた男の相手がアシメに気づいて近寄ってきた。


「あぁ?なんだお前は?見ねぇ顔だな……」


 目つきは悪くその顔や身体は傷だらけで、見るだけでその獰猛さや荒々しさが伝わってくる。


「俺はアシ……」


「あーあー別にお前が誰かはどうだっていい!邪魔だからさっさと出てけぇ!!」


 アシメの言葉を遮るようにして怒鳴ると、男はアシメを追い出し豪快に門を閉めた。


「えぇ……」


 一瞬の出来事でなされるがままだったが、仕方なくアシメは反対側の門の方に向かった。

 さっきのこともあるので門を少しだけ開けて慎重に中を覗いてみると、こちらはうってかわって穏やかな集落のようだった。立ち並ぶ茅葺き屋根の家々、木柵で区切られた広大な耕作地帯、心地よい音色で流れるせせらぎとゆったりと回る水車。人々は手分けして農作業や道具作りをしていて、立ち上る湯気の下ではグツグツと煮える大きな鍋も見てとれた。

 差し迫った危険もなさそうと判断したアシメがゆっくりと中へ入ろうとしたその時、


 ガサッ……!!!


 頭上の方で何かが動いた音がしたかと思うと、次の瞬間にはその"何か"がアシメをめがけて落ちてきた。避けようとするアシメだったが、それもかなわずそのまま倒れ込む。


「ってて‥…」


 打った頭をさすりながら目を開けると、落ちてきた"何か"と目があう。


「ふっふーん!君、外から来たでしょ?」


 "何か"の正体は少女だった。金糸雀(カナリア)色の瞳に長い金髪を後ろで結えた華奢なその姿はアシメと同い年くらいに見て取れる。

  ニヤッと笑うと少女は言った。


「ようこそ、ゲシンへ!」

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