繰り返される夢
所有者に特殊で強大な力を与えるという宝玉、通称"フラディス"。
これは、フラディスを生まれつきその身に宿す少年アサメによる"忘れられた過去"を取り戻す大冒険の物語。
10年前、この世界に何かが起こった。その"何か"は俺達の脳裏に鮮明に焼きついた___
......はずなのに誰もそれを覚えていない。
誰も"何か"があったことすら忘れているのだ___
「……………………」
少年はまた、同じ夢を見た。周期性があるわけではないが、いつからかよく見る夢だ。いつも視界がぼやけていて鮮明には見えず、聞こえる音も反響していてはっきりとは聞き取れないのだが、禍々しいほどに赤黒く染まった空から無数の光線が降り注ぎ、そこかしこで爆発音が鳴り響いている場面からきまって始まる。
「……………………」
この不思議な現象に見舞われるようになった最初の頃はそこで終わっていたのだが、そのうち、ある男が現れるようになった。年季の入った革靴と、風になびくダマスク柄のマントに身を包んだ彼は(もっとも、はっきりとは見えないが)少年の目にはかなり高身長に映る。
男は危機迫った様子で空を見上げると、少年の前に背を向けて立ちはだかり、何かを叫んでくる。……のだが反響していて内容は全く聞きとれない。
(誰だ……、一体誰なんだ!この人は……!)
少年は、正体を確認しようと徐々に視線を男の顔へと向けていく。しかし、あと少しで顔を確認できる……!という刹那、突如前方から放たれたまばゆい光によって視界が遮られる。
(くそっ……、またこの光……!)
ぼやけた視界の中、必死に目を開けなんとかその男を捉えようとするが、抵抗も虚しくやがて彼の姿は光に飲み込まれ、なおもとどまらない光の侵食に耐えきれず少年の視界もゆっくりと暗転する。キィィーーンという耳鳴りだけが余韻のように響いていた。
はっと目を覚ますと、見慣れた天井がそこにはあった。むき出しになった太い木の梁、パッチワークのような一面の寄木細工、ほのかに漂う檜の香り。少しほこりが舞う見慣れた寝室である。
この夢を見始めた頃は(なんだ夢か……)と安堵の息をはいたものだが、何度も繰り返されると流石に慣れ、出るのは
「はぁ……またこの夢か……」
というただのため息。果たして、この夢は何なのだろう。ただの夢なのか。それとも何かを伝えようとしているのか。そして、あの男は一体誰なのか。
(……まぁ、そんなことは今まで何度も考えた。とりあえずもう一眠りしよう。)
睡魔の誘いを断りきれず、再び暗転する視界に身を委ねようとしたその時、
「起きろ〜アサメ〜!今何時だと思っとるんじゃ〜!」
少ししゃがれてはいるがハリのある声。階下から轟くモーニングコールに、あれだけ勢力を誇っていた睡魔は夢の彼方へ吹っ飛ばされる。
「んん…………」
まだ活動することを拒む目蓋を擦りながらしぶしぶベッドから降り、壁にかかったノスタルジー溢れる掛け時計を見る。歪に曲がった時計の針は4時3分をさしていた。今にも壊れそうなその時計は絶えずギィィ……と音を立て、今日も老体に鞭を打っている。
(ホントに何時だと思ってるんだよじいちゃん……)
窓から差し込む薄明は、未だ室内に夜の余韻を漂わせている。年季の入った木製のチェスト、机に置かれたインクと羽ペン、背表紙が擦り切れた数冊の本、淡く発光する観葉植物。その全てを包む青みがかったベールによって、寝室には静かでゆっくりとした時が紡がれている。
いつものことながら早すぎる起床時間に再びため息をつくと、俺はじいちゃんのいる階下へとギシギシ階段を踏み鳴らしながらゆっくりと降りていった。キィィーーン___という耳鳴りがまだ頭の中に鳴り響いていた。
小説家の皆様、また読者の皆様、まずはこの作品に少しでもお時間を割いていただきありがとうございます。
まだまだ始まったばかりの「空白のHISTORIA」ですが、これからアシメによる大冒険の幕が上がります。時間はかかると予想されますが、連載を重ねて長編大作にしていくつもりです。拙い文章ではありますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。皆さんの日常の楽しみの1つとなれるような作品を目指して頑張ります!
応援よろしくお願いします。