#3
この団地の外について授業で教えられた事は少ない。
元々は人間は外の世界で暮らしていたらしい。
でも何百年も前に原因は不明だが戦争が勃発。
人々は団地に避難したそうだ。
その戦争で外の世界が住めない位に破壊され、多くの団地も破壊された。
以後生き残った団地で人々は暮らしている。
外部観測機器も通信施設も戦争で軒並み壊れてしまった。
だから相互の連絡等も無いし外の環境も不明。
そんなところだ。
探索もされていない。
探索に要する資源が確保できないから。
でも僕が拾った図面には、この『西一四一第六街区』から他の何処かに繋がっているらしい通路が描かれていた。
この通路を使えば何処かへ出られるかもしれない。
他の団地か、それ以外の施設か。
それとも『外』か。
何処へ行けるかまではこの図面には載っていない。
ただの空白。
そこまで出てしまうとこの生活可能な囲まれた空間には戻れないかもしれない。
理由も無く学校を休んだりしたら間違いなく減点される。
そうしたら六年生卒業でお別れだ。
でも、今の僕には何かそうやって生き残ることが意味の無いことのように思えた。
どうせ生き延びたところで長くて25歳まで。
この団地内で同じ風景を見て同じ生活を送り続ける。
その行動は僕自身にとって意味があるのだろうか。
自分自身の子孫を将来に向かって残せる。
その意味はどれ位あるのだろうか。
何かいつになく虚無的な感じになっている。
アキコ姉が明日でお別れだと言う事も理由の一つ。
アキコ姉がお別れを何でもない事のように言った事も理由の一つ。
そう、アキコ姉は僕の世界でそれだけ重要な人だったのだ。
だから。
「ねえ、ミナト君。まだ起きている?」
ブースを仕切るカーテンの外からアキコ姉の小さい声がした。
「起きてます」
カーテンを開けてブースから顔を出す。
「ちょっとお願いがあるんだけれど、出てきて貰っていい?」
何だろう。
ブースから這い出て外へ。
「お願いって何ですか?」
真っ直ぐ前に立つとアキコ姉の顔がちょうど正面。
ちょっと照れくさくて下を向いてしまう。
ちょっとだけ膨らみかけた胸に目がいってしまってあわてて視線を首元に直した。
「あのね」
アキコ姉がそう言った次の瞬間。
僕はアキコ姉の両腕に捕まった。
顔が近づいた後ふっと唇に柔らかい感触。
そして口の中に何かが入ってくる。
接触した唇と口の中、それに触れあった身体が熱く感じる。
一瞬僕は訳がわからなくなる。
アキコ姉は僕に舌を入れる深いキスをして抱きしめた後耳元で囁いた。
「私の味を覚えていてね。食べた時に私が分かるように」