#1
僕がいるのは『西一四一第六街区』という団地。
第五街区があるのかとか西一四〇があるのかとかは知らない。
ただ小さいなりに閉鎖系でも長期運用が可能な構造になっている。
小さいからこそ生き延びたとも歴史で学んだ。
敵の目標になるには小さすぎたから結果的に残ったと。
敵という物がどんな存在かはもう誰も知らない。
一応この団地にも守備隊の戦闘機が21機現存している。
でもシミュレーター以外で訓練をしているという話は無い。
僕の知っている限り戦闘が起きた事も無い。
僕らは人類を存続させるために生きている。
遺伝子を残すべきと選ばれた者は子孫を作り、それ以外はそのまま死んでいく。
食糧も生活環境も5,000人以内なら何とかなる。
自動機械が全てを保証してくれる。
だから僕らがやるべき事は人類の種を未来に繋いでいくこと。
それだけ。
その為にこの団地は存在する。
僕らはそう学校で習っている。
「そろそろ遅いから一緒に居住区に帰りましょうか」
アキコ姉がそう僕に声をかけてくる。
「そうします」
僕はアキコ姉の横に並ぶ。
アキコ姉は僕とほぼ身長が同じ。
今年でやっと追いついたところだ。
アキコ姉の顔がすぐ横にあるのが嬉しいというか照れくさいというか。
でもこうやって一緒に帰るのも今日が最後なんだな。
「ミナト君は何で今日、遅かったの?」
「明日のお別れ会の準備です。役員をやらされているので」
「偉いわね」
別に偉くはない。
打算がかなり入っている。
役員をやればその分成績に加点がある。
そうすればそれだけ生き残れる可能性が高くなる。
でもアキコ姉を見てふと思う。
そうまでして生き残る事に理由があるのだろうかと。
「何で僕ら、生きているんでしょうね」
階段を降りながら思わずそんな事を言ってしまう。
「未来に人類を存続させるため、それは習っているでしょ」
「そうなんですけれどね」
僕達は人類を存続させるために生きている。
でも僕達ではない僕単独は何の為にに生きているんだろう。
「あと、あまり変な事を言わない方がいいと思うわよ。私はもう明日で終わりだけれど、ミナト君はまだまだ先があるんだから」
そう、僕は役員もやっているし成績も上位。
このままなら来年も無事生き残れる筈だ。
でもそうまでして生き残る必要があるんだろうか。
絶対的だった考えが揺らいでいる。
学校区画を出て無機質な通路を歩く。
僕らの居住区はこの通路の一番先。
途中いくつか閉鎖された通路を横切る。
昔はこれらの通路も使われていたらしい。
でも今は必要無いとのことで電源を切られ、放置されている。
資源を必要ないところまで回す程豊かでは無いのだ。
そんな通路と生きている居住区とをいくつか越えた先が僕達の居住区。
第六街区第二居住区だ。
第一が閉鎖されているのでここが一番端。
僕やアキコ姉が住んでいる場所だ。