表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円環の魔導師  作者: 日傘ユキ
三章 魔法特区
15/16

少年の悩みとうごめく謎



寮の個室に戻り、ベッドに深く腰掛けた。


「あーー疲れた」

「まだ二時間ぐらいしかやってねえぞ。もっと時間かけてやらないとダメだ」


相部屋のアレシャンドレが首を振って呆れた顔をした。

よいしょと言いながらダンベルを持ち上げたあたり、今から夜の筋トレを行うらしい。


「ところでアレシャンドレ。」

「ん?」

「もう専攻授業は決めた?」


前期試験の終了と同時に、一年生は専攻授業を選択しなければならない。

いわば、自分がどの課程を専門的に勉強するかを決める、最初の授業だ。

まず、全員が有する権能の性質を査定した後、専攻授業の申し込みを行う。

だから今の段階では確定させることはできないのだが、権能はその魔導師の興味のあるものにだいぶ影響を受けているーーいや、むしろ影響を与えているものらしいので、どんな授業を受けたいか、何となく目処を付けておくことはできる。


「そうだなー。オレはやっぱり、魔獣育成学かな」

「え?」


魔獣育成学?


「魔獣を育てて、牧畜や戦闘に役立てるっていうやつ?」

「おう」


汗を流しながら筋トレに勤しむアレシャンドレを見て、"やっぱり"ってどういう意味だっけと首を傾げた。


「え?魔法筋肉学じゃないの?」

「何言ってんだよ!んな分野ねえよ!」

「いてっ」


アレシャンドレの筋肉チョップを食らい、頭を押さえる。


「そういうお前は?」

「え?」

「何にすんだよ、専攻」

「あー…」


何にしよう。

正直言って、まだ何も決まっちゃいない。

興味のあることっていうけれど、俺が興味のあることって何だろうか。


「それがさあ、まだイメージ湧いてなくて」

「へえ。まあでも、お前ならわりと何でもできるんじゃねえか?何だかんだ言ってソツなくこなすし。これが苦手だ、って物も無いんだろ?」

「うん。」

「だったら、まあ、ゆっくり考えりゃいいんじゃねえか。まだ時間はあるんだからよ。」

「……そうだね。」


興味か。

考えれば考えるほど、なんだかよくわからない。

俺の好きなことってなんだ?


何となく枕元の本を手に取る。

父さんが別れ際にくれた、母さんの本。


幾度となく解読しようと試みているが、未だにできない。


レベルの高い難解な本ほど、解読するのに莫大な魔力量が必要だというから、きっとまだ俺のレベルが足りていないのだろう。


つまり母さんが魔導師だったという父さんの話ーーそれも凄腕の魔導師だったということは間違いない。


一体何が書いてあるんだろう。




✳︎





鬱屈とした雰囲気の漂う階段を降り、石畳の上を進む。


「ウィレミナ様!」

「夜分までご苦労。下がってよい」

「はっ!」


門番を立ち去らせ、牢屋の中の魔導師に声をかける。


「気分はどうだ?」


相手は問いかけに答えず、ぼうっとした目で宙を見つめたままだ。


「そんな小癪(こしゃく)な猫騙しなどこの我には効かぬ。いい加減出てきたらどうだ?」


ぴくり。

獄中の魔導師が、首をウィレミナに向けた。


「ふっ…ふふふ、ふふふふふふふふ。

さすが………稀代の、魔導師と、言われるだけ……ある。よく、この私が…この身体の中に、入っていると……わかっ、たなあ…」


目はすでに虚ろではなく、先ほどと全く違うギラついた雰囲気を放っている。

薄ら笑いを浮かべる魔導師に、臆することなくウィレミナは続けた。



「貴様、何が目的だ?なぜ新入生を狙った?」

「ふふ……ふはあはふふ」

「いや、違うな。なぜウェリアを殺した、と言った方が正しいか。」


魔導師はニヤニヤと嗤うだけで何も答えない。


「早う答えぬか」


ウィレミナが杖の先で石畳を突く。

途端に、銀色の炎が獄中に沸き起こり、魔導師の身を焦がし始めた。



「ぐああぁあ!!!ああああぁぁああぁあ!!!!!!!!!」

「答えよ」


さらに火力を増した炎が、ごうごうと火の粉を飛ばしながら燃え盛る。


しかしそれでも魔導師は、不気味な笑みを浮かべた。


「はっ…ははぁ……、殺したけ…れば、殺せぇ……!!私……が…滅び…ようと、ぐっ……ああ!!、同志……が…、我らの悲願を…っ、必ずや、遂げ……」

「よかろう」

「がおあぁぁあっおああ!!!!!!?」


銀の炎が渦を巻き、さらに勢いを増した。

ウィレミナが杖を一振りした時には、すでに魔導師の身体は一片たりとも残ってはいなかった。


「おい」


リュリュレインがコツコツと石段を降り、静かに頭を下げた。


「お呼びでしょうか」

「この魔導師、間違いないわ。奴のーー"アレグシュリア"の手中に落ちた者であった。」

「やはり……」

「戦いの時が近い。一刻も早く、今年の新入生を一流の魔導師にせねばならぬ。戦える者を増やさねばならぬ。戦いに負ければ、魔力を有する者ーー我ら"魔族"だけではない、一般の民にも危険が及ぶ。

頼むぞ、リュリュレイン。」

「はい。命に代えても。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ