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巫女少女と稲荷神  作者: 赤月稲荷
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悪霊の過去

☆前回までのあらすじ☆

駅前で悪霊を見つけるが、悪霊の言葉が気になった紅葉は悪霊祓いを中断する。


☆用語説明☆

退魔少女……神になれない人間の少女が代わりに神の力を自らに宿した姿。ちなみに大体が巫女姿である。

神装……自らに神の力を宿すこと。一種のトランス状態になる。

神楽鈴……退魔少女が悪霊を祓うために必要な道具。鳴らすことで悪霊を祓うことができる。




《なぜやめる? そのまま私を祓えばよいではないか》

 悪霊は言った。その目はなにもかも諦めたような目であった。が、紅葉は首を横に振る。

「ううん、できない。 あなた、もしかしてなにかを隠してるでしょ」

 紅葉の言葉に悪霊は一瞬言葉が出なかった。

《なにを言っている、隠していることなどない》

「ウソ! 絶対になにか隠してる!」

《なにを根拠にそう言える?》

「分かんないけど、私があなたを祓おうとしたときにあなたは言った、『まだやり残したことが』って。 なにか未練があるんじゃない?」

 その答えに悪霊はまたしても言葉が出なかった。

《ふっ、妙な娘だな。 そうだ、ある女に未練があるのだ》

「それってどんな未練?」

 紅葉は神装を解き、元の姿に戻った。

《おい、紅葉!》

 稲荷神は思わず口を出した。が、紅葉はそれを制する。

「大丈夫、たぶんこの悪霊は私に危害は加えないと思う」

《ずいぶんと自分に都合のよい解釈をするのだな。 お主を襲うことなどいくらでもできるのだぞ?》

「でもしない。 未練があるなら尚更ね」

《……ふっ、まったく妙な娘だ。 気に入った! お主には教えてやる》

 悪霊は事の顛末を語った。

《あれは私が悪霊と呼ばれる存在になる前の話だ。 私には愛する女がいた。 名は皐月さつき、ちょうど今のお主と同じ歳の女だ》

「ちょっと待って。 『悪霊と呼ばれる存在になる前』って、あなたはもともと悪霊じゃなかったの?」

《お主、もしかして悪霊はずっと悪霊だと思っておったのか? だとしたら違う。 私はもともと人間だ。 いや、『人間だった』と言うべきか。 話を続けてもよいか?》

「え? ええ……」

《私は皐月を愛していた。 皐月も私を愛していた。 よく二人でデートに行ったりした》

 そう語る悪霊の姿はとても生き生きとしていた。とても悪霊だとは思えない。

《だが、事態が一変したのは一年前のことだ。 皐月が難病にかかったのだ。 すぐに皐月は病院に入った。 私は毎日のように見舞いに行った。 来る日も来る日も病院に行った。 そんなある日だった》

 そう言うと、悪霊の顔は険しくなった。まるで世のすべてを恨む、そんな顔であった。

《男が病院に来た。 彼は言ったよ、『皐月は無事か』と。 最初は兄か弟かと思ったよ。 だが違った》

「え?」

《男は皐月の彼氏だと言った。 しかもそのときも付き合っている彼氏だと。 信じられなかった。 皐月が私をたぶらかしていたなんて、と。 私が皐月に真相を聞こうとしたまさにそのときだった。 病院の屋上からコンクリートの破片が落ちてきて私を直撃した。 即死だった》

 悪霊は顔をしかめた。そのときのことを鮮明に思い出したのだろう。

《そして、目が覚めたらここにいた》

《死んだあとというのは強い思い出の場所に引き寄せられると言う、ここがそなたの思い出の場所だったのじゃろう》

 稲荷神は言った。

「強い思い出の場所……」

《そうか、だからここだったのか。 私と皐月がデートをしていたのはここだった。 楽しかった。 だからこそ皐月に真実を訊こうとした。 だが、どういうわけかこの場から動けなかった。 今の話を聞いたらなんとなく分かったよ。 思い出が強すぎて引き寄せられ続けているのだな》

 悪霊は悲しげな顔を見せた。それを見て紅葉はどこか虚しい気分になった。

「あなたは今でも皐月さんのことが好きなの?」

 紅葉は訊いた。悪霊は間髪入れずに答えた。

《もちろんだ、その気持ちにウソも偽りもない》

「そっか……。 そうだよね、好きになった気持ちは本物だよね」

 紅葉はなにかを考えていた。

「私は退魔少女だからあなたをこの場から引き離すことができる、だよね?」

《まあ、できぬことではないな》

 稲荷神は答えた。が、どこか気が済まないといった表情だ。

《紅葉がなにを考えているのかは大体想像がつくがおすすめはできぬ。 一匹の悪霊に肩入れするなどもってのほかだ》

「分かってる、どんな罰でも受けてみせる。 でもね、それでもこの悪霊は放っておけない。 最後まで見届ける」

《……好きにせい。 まったく、紅葉は昔から変わらぬわ》

「ありがとう」

 そう言うと、紅葉は再び退魔少女になった。そして今度は扇を取り出した。

「これより解放の儀を行う」

 紅葉は扇を思いきり振った。




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