駅前にて
☆前回までのあらすじ☆
稲荷神と契約を交わした赤月紅葉はある日悪霊の気配を感じ、退魔少女になり現場である駅前へと向かった。
駅前はいつも通りの光景が広がっており、なんの違和感もないように見えた。が、紅葉と稲荷神はイヤな気配を強く感じていた。
《いるな、この近くに》
「ええ、すごくイヤな感じ」
《私はなんとか耐えられるが居心地のよいものではないな》
二人は辺りを見渡し悪霊を探す。が、それらしき姿は見当たらない。
《ちっ、我らの気配を察して姿をくらましたか》
「一体どこに?」
《三百年前ならともかく今は人も多くそれだけ邪念が多くて我の鼻でも正確には捉えきれん》
「そんな……」
《とにかく、その格好では目立ってしまうな。 人混みを避けよう》
「え?」
紅葉は稲荷神の言葉で辺りを見渡すと人々の視線を集めていることに気付いた。突然駅前に巫女装束を着た少女が現れ、しかも独り言を言っているように見えているのだから無理もない。
「なっ!?」
途端に紅葉は頬が熱くなるのを感じた。慌ててビルの影に逃げ込む。
「こ、こういう大事なことは先に言ってよ、もう!」
《言わなければ気付かなかったではないか》
「そういう問題じゃ──」
と、紅葉は再びイヤな気配を感じた。今度は先ほどよりも強く感じられる。
《先ほどよりも近くなっておるな。 おそらく悪霊がこちらに近付いておるのじゃろう》
「じゃあ、早く祓わないと!」
《待て、まだ早まるな。 どんな悪霊かまだ分からぬのじゃぞ》
「でも……」
《とにかく我が悪霊に接触してみよう。 紅葉はその隙をついて悪霊を祓うんじゃ》
稲荷神は再び歩道へ出た。
「わ、分かった!」
紅葉は息をひそめる。
《さて、どこに潜んでおるか……》
稲荷神は辺りを窺った。人々はもちろん稲荷神の姿は見えておらず素通りする。
《人に取り憑いておるのか?》
行き交う人々を見るが怪しい感じの人はいない。稲荷神はさらに注意を払う。と、突然ある違和感を覚えた。
《ん? 気配が消えた。 これは……》
とそのとき、一人の男性が突然奇声を上げた。周りの人々が突然のことに振り向く。と同時に一斉にその場に倒れてしまった。
《現れおったな》
稲荷神は男性を睨んだ。男性は意味不明な言葉──いや、もはや言葉と呼べるものではない──を発した。
「あの人に悪霊が取り憑いているのね?」
《そうじゃ》
「みんな、どうして倒れたの?」
《あの叫びそのものが力を持っているのじゃろう。 力を持たぬ者が聞けばひとたまりもない。 じゃが安心せい、みな気を失っているだけじゃ》
「よかった……」
《それに好都合じゃ。 これで心置きなく祓うことができる》
「ええ!」
紅葉は神楽鈴を用意する。これは退魔少女が悪霊を祓う際に必要な道具の一つだ。
「悪霊よ、その者から離れよ。 そして、穢れしその身を我に捧げよ」
紅葉は鈴を二、三度鳴らす。すると、悪霊の様子が一変した。
《やめろおおおおお! まだやり残したことがあああああ!》
「──!」
この言葉を聞いた紅葉は鈴を鳴らすのをやめた。