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巫女少女と稲荷神  作者: 赤月稲荷
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はじまりは十年前




 事の発端は十年前。少女と狐の神様が出逢ったのはまさにその年の夏も終わりに差し掛かったことであった。

 秋の訪れが近づき夏の暑さもだんだんと遠ざかっていこうというまさにそんな日、少女は家の近所にある神社へと出掛けていた。特になにか用があるというわけでもなく無性に神社に行きたくなっていた少女は、到着するなりすぐになにかに惹きつけられるかのようにその神社の御神木にそっと手を触れた。と、ふいに少女の耳に声が聞こえた。

《そなたは何者だ? なにしにここへ来た?》

 その声は低いがよく通るものだった。少女は答える。

「私は赤月紅葉あかつきもみじだよ」

 しばらく沈黙が続いたあと、再び声が聞こえた。

《そなた、我と契約をせぬか?》

「ケイ……ヤク?」

《約束を取り決める、ということじゃ》

「ヤクソク? トリキメル?」

 まだ四歳になったばかりの紅葉には理解できない言葉ばかりであった。

「よく分からないけど、私、ケイヤクする!」

《よし、決まりじゃ。 少しばかり下がっておれ》

「うん!」

 紅葉はその声の指示に従って後ろに少し下がった。それから声の主はなにかを唱えたが、紅葉にはそれがなんなのか聞き取れなかった。

《──我の名のもとに、少女・赤月紅葉と契約を交わさん》

 やっと聞き取れたその言葉と同時に辺りが輝きを増した。見ると、地面に大きな模様が描かれていた。

「すごーい! なにこれー?」

《それは契約のための陣じゃ》

 と、声が先ほどよりも大きくなった。

「うわぁ!」

 紅葉の目の前に一匹の狐が座っていた。しかしその狐は普通の狐には見えず、顔には不思議な模様が施されている。

「きつね……さん?」

《我はただの狐ではない、稲荷神いなりのかみじゃ。 つまり、この神社の神じゃ》

「かみさま?」

《といっても、我も若き頃はただの狐じゃった。 じゃが、三百年ほど前にこの神社の神主じゃった男から神になるよう頼まれてな、それからずっと神をしておるのじゃ》

「さんびゃくねん?」

《最初は数年の契約のはずだったのじゃが、その男が急に命を落としてしもうてな、おかげで我は三百年ものあいだ神をやるはめになったのじゃ》

「暇だった?」

《まあ、暇と言えば暇じゃった。 なにせ、神として契約したはいいがこの神社は見て分かるとおり廃れておる。 しかも三百年ものの廃れじゃ、誰一人来ようとはせんかった。 神になった実感は得られぬまま時を過ごしたと言っても過言ではない》

「かわいそう……。 でも、私は来たよ!」

《ああ、我はそなたとの出逢いは偶然ではないと思っておる。 わずかじゃが、そなたには力を感じる》

 ふと、稲荷神は人形のようなものを取り出した。顔にはなにも書かれておらずどこか寂しく見える。

《これは契約人形じゃ。 顔の部分にそなたの名前を書くのじゃ、それで契約は完了する》

「うん、分かったー!」

 紅葉はなんのためらいもなくその人形の顔に名前を書いた。

《……そなたは警戒心というものはないようじゃな》

「うん! だってお母さんが言ってたんだ!」

《なんと?》

「困ってそうな人がいたら助けなさい、て! あ、人じゃなかった!」

《そうか……。 そなたは母上からよい教えを受けておるのじゃな》

「書けたー!」

《よし、これで契約は結ばれた。 これからそなたは我の主じゃ》

「うん、よろしくね!」

 紅葉は笑顔で答えた。






 それから十年後。かつての少女は後悔していた。

「うう……、なんであんなに簡単に契約を交わしちゃったのよ……。 あの頃に戻りたいわ……」

 中学二年生となった紅葉は頭を抱えていた。

《よいではないか、我と紅葉が巡り逢えたのじゃから》

 稲荷神は彼女の気持ちなどお構いなしに言った。

「よくないわよ! おかげで悪霊やら妖怪やらに目をつけられちゃったんだから!」

《楽な人生だけではないということじゃ、楽しくいこうではないか》

 稲荷神は笑った。

「全然楽しくなーーーーい!」

 紅葉は自身の無計画さを呪った。




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